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【かつらのお話:当て毛】

時代劇の鬘には、長い人毛が必要です。

こんにちは。京都時代劇かつらです。

今回は、見えそうで見えない当て毛のお話です。

時代劇のかつらは基本的に28吋(約71cm)の長さの人毛が必要で、それでも刷毛先まで毛先を揃えて綺麗に結いあげるには髷の長さによっては足りません。

かつら本体の毛を長くし過ぎた場合、櫛から毛を漉き通すのが難しくなります。逆にほどほどの長さにすると毛先がじぞろになり、俗にアホ毛と言われる、途中から毛先がぴょんぴょんと出てしまいます。

そんな時、髷に当て毛と呼ばれる添え毛をして髷を整えます。


元結の下に添えた当て毛が見える

髻を折る前に、整毛して油を回した人毛を髷に添え、
そこから元結を掛けて添えた当て毛と一緒に髻を折って髷を作っていきます。

この当て毛、フィルム撮影だった時代では、画面にフィルターがかかるので、目立つものではありませんでした。
また普通のバックショットですと、髷の一(いち)の陰になりほとんど目立ちませんでした。

時代劇ファンの方でも、おでこの線や生え際の網の線は気が付いても、当て毛の存在に気が付かれた方はほとんどいらっしゃらないかと思います。

そんな目立たなかった当て毛ですが、時代劇ではしっかり目立つ場面がありました。

それは『お白洲』です。

遠山の金さんでお馴染みの、あのお白洲。
「北町奉行~遠山左衛門尉様~御出座~!」の声が掛かり、遠山景元が着座、「一同の者、面を上げい」の声がかかるその瞬間、今まで隠れていた当て毛が姿を現します。

そう、垂れた頭を上げるそのわずかな間に後頭部に照明が当たり、髷の陰に隠れていた当て毛が見えてしまうのです。

また、「一同の者、面を上げい」の台詞の間、カメラは主役を狙っているので自ずとお白洲に座る面々はバックショットになってしまいます。
と言うことは、画面の一番手前に後頭部がしっかり写し出されることになります。


照明の当たり具合で姿を現す

悪事をあばかれてしまうのか悪党にはドキドキの場面ですが、床山さんにもドキドキの場面。
悪党の悪事もバレてしまいますが、画角と照明と演技が相まって当て毛もバレてしまう。それがお白洲なのです。

北町以外にも、大岡越前守の南町にも、長谷川平蔵の火盗改にもお白洲はあります。

火盗改は独自の機動性を与えられた特別警察・軍事特殊部隊です。
凶悪な賊の群れを容赦なく取り締まる為、捕物の時に悪党を切り捨てる場合が多く、また、捜査権は有っても裁判権は無かった為、鬼平犯科帳ではお白洲の場面は余り見掛けません。
たまに登場するお白洲の場面でも町奉行所のお白洲よりは小さく、裁判所と言うより取調室の赴きです。

しかし都庁であり警察であり、裁判所でもある町奉行は、悪党は生捕りにし、裁きを受けさせます。
時代劇に登場するお白洲のセットも広く立派で威厳に満ちています。まさに司法の庁、裁判所の赴きです。

史実では町奉行が被疑者を直接吟味し、裁きを申し渡していたわけではありません。

「市中引き廻しのうえ、打首獄門!」「余の者全て遠島を申し付ける」
は刑罰が重すぎて、実は町奉行独断では裁可出来ませんでした。
ましてや長裃でお白洲に現れたり、片肌を脱いで彫り物を見せていたなんてことはありません。

しかし、そこは時代劇。
長裃姿で遠山桜を派手に見せつけたり、直参旗本のお奉行様が庶民に面と向かって、大岡裁きを申し渡します。

金さんの「これにて一件落着!」もスカッとしますし、忠相の「本日の白洲これまで」も人情味溢れ心に染み入るお白洲の見所です。
歴史ドラマではなく、まさに時代劇です。

ところで南町と言えば、BS時代劇で大岡越前season7がいよいよ始まります。
大岡越前守忠相が東山紀之さんから、高橋克典さんへとバトンタッチして、新たな大岡裁きがスタートです。

お白洲は捕物時代劇では見せ場のひとつですが、ぜひお白洲に座る悪党どもの後頭部にも注目してみて下さい。

高橋越前のお白洲では当て毛は姿を現しますか否か。
時代劇かつらに携わる者にとっては、ドキドキの場面です。

次回もどうぞお楽しみに。

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