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無職男と時給870円女子の起業物語【第1話:火傷しない商売のルール】

「ひどくない?東京都の最低賃金て880円なんだって!」
駅のポスターで知ったらしい。麻美(アサミ)は文句をこぼしてきた。
愚痴る彼女は当時27歳。都心で複数店舗展開している中堅の古着屋でアルバイトをしていた。場所は杉並区高円寺、時給は870円。最低賃金を10円下回っていた。
しかも会社側が社保を負担しなくて良いギリギリの労働時間にシフトを制限されつつの最低賃金割れ。
今なら炎上しそうだが2014年当時はこんなんでも運営されていた会社がゴロゴロあった。
それでも麻美はいつか自分のお店を持つ夢を叶えるため、展示会の受付などの日雇いバイトを掛け持ちしながら頑張っていたのだ。

そして労働基準法の外側に置かれた彼女のパートナーは当時36歳。バツ2で無職。法どころか労働の外側にいた。僕のことだ。
世界一周から帰国したばかりで(とはいえ半年は経っていた)、特にやりたいことも無かったので恩人である先輩が経営するお店に入り浸って、相談に乗ってもらったり彼の仕事を見て僕なりに勉強していた。昔風に言うと丁稚奉公だが、ろくに奉公もしてないので丁稚、鞄持ち、が近い言葉かもしれない。

無職ゆえに土日関係なく丁稚する僕と、夢のために仕事の合間に物件や仕入先を探しに走り回る麻美。

なんなら突っ走りすぎて中国の縫製工場まで行ってしまう

すれ違う二人の関係は徐々に冷めそれぞれの道へ、、、となるのが通常の顛末だが、そこは年上無職のプライド。
麻美が苦手だった独立に向けての資料作成、仕入れた商品の撮影、サイト作成などを全力で手伝ったりしていた。暇だしね。

撮影:カツオ

充実しつつも手応えを感じられない日が続いたある日。古着屋のバイト先から浮かない顔をして麻美が帰宅した。
バイト先で仕事を掛け持ちしていると話すと、会社的にNGらしくクビになったというではないか。最低賃金も払わず他のバイトはするなとは、なかなかドSなアパレル企業。
こんな困難な時こそ人生経験豊富で年上の彼氏がセンスの良いアドバイスの一つでもしたいところだが「酷いね、、、」程度しか言葉が出てこない。

それでも麻美は下を向かず、これを転換点と捉え「もう借金してお店開いちゃおうかな?」と言い出し、物件候補も本格的に見つけてきた。

とはいえバイトの掛け持ちで得たものも多くあったのだろう。募る不安。当然だ。当時ユニクロだけでなくファンション性の高いフォーエバー21、H&M、WEGOなどが驚くべき安さで台頭し、古着屋をはじめ小さいアパレル店は軒並み絶不調であった。麻美が目指していたアパレル店の戦い方も全く見当もつかず、参入するのはあまりにも無謀と思えたのだ。

27歳女の子の無邪気なチャレンジ。彼女の挑戦を支え、夢を叶えて欲しいと強く願う無職オッサン。オレの人生は一旦終わっていたという自負があったのだ。何か彼女に突破口はないのか?そこで僕はどっかで見た文言を自分のセリフのように伝えた。

「はじめての起業だし、まずは小さくチャレンジしたらどう?俺も手伝うよ。【初期投資が安い】【利益率が高い】【在庫がいらない】【リピート率が高い】が大怪我しない商売の4原則だよ」

知りもしないのにそれっぽい具体例も出した。
東南アジアの旅中にあったマッサージ屋さんは在庫も不要、自分が手を動かせば人件費などの固定費もなく格安の物件とベッドがあればすぐスタートできて失敗しても粗大ゴミ代程度。ご飯食べていけるぐらいになるのでは?と言うと、素直に頷く麻美。
また当時、国内でストレッチ屋も流行りつつあったので、それも視野に入れ、いくつか火傷しない商売リストを考えていった。
その中で一番有力だったのがワックス脱毛(当時はブラジリアンワックスという名称だった)。マツヤニをムダ毛に塗ってベリっと剥がす脱毛法で、南米や東南アジアでよく見かけたので設備投資もなく始められるのだろう。

また突っ走ってLCCを駆使してインドネシアまで調査に行く。暇人か。
なるほど、こんな材料だけで出来るのね。
日本でも出来るのにイチイチ海外に行く無駄の多さ。

無職な僕は、簡単なリサーチとして国内の店舗数をエクセルに落とし込んだ。全国で50店舗強、東京で20店舗弱といったところ。複数店舗展開している屋号を3社見つけたが、調査に行くと、どこも雑居ビルの空中階やマンションの1室で運営されていてた。
市場は小さいがゼロではなく、どこも人を雇って運営されている。しかしサイトのUI含め様々なマーケティング施策が乏しく改善点が見えた。自分たちでも頑張ればその中で食っていけるかもと自信が湧いた。

そもそも時給870円と無職で生活していたカップルだ。狙っているステージは限りなく低い。2人の生活費であるアパート代6万と食費5万、スマホ代2万を稼げればいい。欲を言えばシカトしたままの年金、保険、税金を支払えて当たり前の大人の生活ができたら満足なのだ。

先日までアパレル業界に一直線だった麻美も「私、美容の専門学校にも行ったし興味あった世界」なんて言いながら、気づいたら当たり前のように二人でワックス脱毛サロンでの起業を目指していた。

とはいえ、全くの未経験な業界。当然、知識もコネも金もなし。

僕はアイデアを出した。
「まずは麻美が店舗展開してるお店で数ヶ月修行しつつ働いてさ、、、俺その間に美容サロンのこと調べたり開店の準備するわ」

フワフワすぎる起業準備が始まった。目標は3ヶ月後の7月オープン。だってそれを過ぎたら素人でもわかる閑散期。

僕はノートパソコンを開いて開店までのTo doリスト作成にとりかかった、ところでタイピングする指が止まる。
出店場所は?そもそも無職とバイトの身分で店舗契約できるのか?集客は?いやいや、そもそも開店資金どうするの?てか、いくらかかるの?

次回以降そこら辺を書いていきたい。


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無職男と時給870円女子の起業物語
【第1話:火傷しない商売のルール】
【第2話:スパイ大作戦と砦の確認】
【第3話:半径1mの資金調達】
【第4話:六本木No.1戦略】
【第5話:洗面器に顔を突っ込む】
【第6話:飛び道具の開発方法】
【第7話:無鉄砲な当てずっぽう】
【第8話:順調は不調の始まり】
【第9話:1億円を燃やして得た教訓】
【最終話:最高のマーケティング、そして売却へ】

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ホームレスになったヒモ男、世界一周したら小金持ちになった話。

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