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【#04】島を一周しながら。
――奥尻島2日目――
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「なんだか、すみません。こんなにいい天気で」
と言いたくなる朝だった。空は雲ひとつない。予報は曇りだったが、北海道の天気は変わりやすい。それでもこんなに晴れるのか、という朝に驚いたのだ。今日はゆうとさんに島を案内してもらう。
「最高な空だね」ゆうとさんの笑顔も眩しい。
北に向けて進むと、海がキラキラと光に靡きながら、輝いているのがすぐ分かった。車を降りると、底抜けに透明な海、奥尻ブルー。前回の旅では、この奥尻ブルーを見られなかった。だから今回、もし見れたらいいな、という気持ちだったけれど、見れた。透明に反射する光が風に乗って、キラキラと小魚が泳いでいくように流れた。さささーっと。
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「今日の奥尻ブルーレベルは10のうち9。あとは、風が凪いでいたらいいだけ。でも、最高だよ、本当に」
さらに車を進めると、植物に対しても、ゆうとさんが丁寧にガイドをしてくれた。
「これは柳。アイヌ語ではススハム。アイヌ・コタンが食糧難だったとき、柳が魚になったと言う伝説があるんだ。アイヌにとって、自然保護という言葉はない。自然保護は人間が上の立場、自然が下の立場の言葉だけれど、アイヌは自然と対等だから。そう考えると全てが100点だよね。自然界は」
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そして、球島山という場所に連れて行ってもらった。奥尻の地形が分かりやすい場所だ。なだらかで、それでも木々や植物に覆い尽くされた自然が、右から左まで一面に広がっている。南国の珊瑚礁隆起の島でもないし、阿蘇の景色でもない。ぼくは景色を見るとき、癖でどこか日本で見かけた景色と重ねてしまうのだが、球島山に関しては、類似する景色が思いつかなかった。
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奥尻島最北端の食堂へ訪れた。ゆうとさんと食堂のおばちゃんは、やっぱり知り合いだ。そしてなんと、ウニ丼があった。迷わず「ウニ丼で行きます!」と言った。人生は後悔しない道を、選ぶだけである。ただ、ゆうとさんは熟考した上で、ウニ丼を頼んだ。時期的にはまだ早く、本物の味を知っているからこそ、今回は違うのではないか、という悩みがあって、それでもぼくに合わせてくれたのだと、勝手に推察している。
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ウニ丼と言っておきながら、味噌汁のわかめ、海苔、全てが奥尻産。合わせて絶品だった。何度頷いたかわからない。
「せっかく来たんだ、だから、命の洗濯していきな!」
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食堂のおばちゃんは、明るくそう言った。
――命の洗濯――食堂の近くには、賽の河原と呼ばれる場所がある。まさに恐山と似たような場所だけれど、奥尻島では28年前、大きな地震と津波により多くの命が奪われた。いま、世間ではほとんど知られていないが、200人近くが亡くなっている。地震の時刻は真っ暗な夜22時過ぎで、津波のスピードは時速500km。陸まで3分で到達したという。その慰霊の日が今日であり、賽の河原はまちの中心部から遠いものの、多くの人がお参りのために、足を運んでいた。
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屋根のあるお堂から、ごーんという音が、線香の匂いを乗せてこだました。外に置かれた、子どもを抱いたお地蔵さんには、野菜ジュース、コアラのマーチ、ヤクルト、とんがりコーン、お菓子が供えてあった。状況はすぐに理解した。手を合わせることしかできなかった。ぼくたちの暮らしは自然と隣り合わせで、自然と一緒に生きているということを、決して忘れてはいけない。
午後は、ブナ林ツアーだった。明日、ゆうとさんが小学生にブナ林のガイドをする予定で、ぼくも同行させてもらえることになった。今日はその下見ということで、やって来たのだ。ブナ林はゆうとさんの真骨頂であり、ぼくは本当に嬉しかった。ブナ林に入ると、蝉のような鳴き声が聞こえる。「この鳴き声はなんですか?」と聞いてみると、エゾハルゼミだった。春という名のセミがいるんだ。エゾハルゼミは、春から初夏にかけて鳴き始めるセミ。抜け殻もたくさん見つかった。
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「この緑の自然、いっぱい緑が座っていますね、という感覚。大地をつかんでいますね、という気持ち。かな」
緑に囲まれた大自然を、ゆうとさんはアイヌの概念で表現した。知識を学ぶことは書物でできるけれど、実際にそれを肌で感じることは、ここでしかできない。
「見て!」とゆうとさんが下を指差した。そこには白い透明なキノコのような不思議な植物が生えていた。「これは、銀竜草。別名はユウレイタケ。白いから光合成しないんだ」一つ一つの植物が、見ていて楽しかった。
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「さささーっ」耳を心地よく通り抜けていくように、風が吹いた。「わぁ、緑が踊っている」そう感じて、呟いた。「そう、風をなびかせたり、木々を揺らしたり、時にはタネを運んだり、自然と風は踊っている。アイヌ語ではそういう風の存在を『レラ』と呼ぶんだ」
なんて素敵な言葉だろう。また、ぼくはゆうとさんの後ろを歩いていたけれど、「ゆうとさん、あえて苔を踏まないですよね?」と聞くと、「分かった?」と言われた。ぼくも普段からなんとなくそうしていたけど、「苔は生産者であり、分解者だからね」と言われて、納得した。
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奥へ進み、ブナ林が広がってきた。すると、歩きながら地面がウッドチップのように、ふかふかしているのだ。いや、正確にはこっちの方が柔らかい。
「ブナの葉は、枯れてもすぐに発酵しない。だから、このふかふかな土ができるのに100年かかる。徐々に発酵して、スポンジみたいでしょ。緑と海はつながっていて、島全体がスポンジなんだ」
ブナ林巡り、素晴らしい時間だった。
最後の帰り道、「ちょっと待って!」
声をほとんど出さずに、ゆうとさんがぼくを制止させる。
「コマドリが近くにいる!」
耳を澄ませると、
「ヒンカラカラ…!」と力強く澄んだ鳴き声が、確かに聞こえてきた。
近くにいる。ゆっくり、ゆっくり足を進めると、
「(いた!)」スズメのような小さな体なのに、オレンジ色の美しい体をしたコマドリが。しかも2匹。見つけてまもなく、楽しそうに飛んでいってしまった。写真は撮りそこねたが、小さな宝石に見えた。
「いやあ、感激だよ。コマドリ、ずっと奥尻で見たことがなくて。いま、はじめて見れた。かつおありがとう」
いや、ぼくは何もしていないけれど、素晴らしい瞬間だった。 駐車場に戻って、持ってきたハンモックをブナの幹に引っ掛けて、お手製のハンモックにゴロンとした。自然のままに揺れ、見上げれば緑が歌っていた。ほかの葉を邪魔しないために、葉っぱがそれぞれ離れていることにも、感動した。その場でコーヒーを淹れ、「ふはあー!」と深く息を吐いて、木々を見上げた。――(終)――
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◎展示のお知らせ
タイトル|『奥尻日和』
会場|FAbULOUS(札幌市中央区南1条東2丁目3-1 NKCビル1F)
日程|2022年2月1日(火)〜2月28日(月)
営業時間|11時〜20時
奥尻島の日常や自然をテーマに、写真展を開かせていただきます。カフェ内ですので、是非コーヒーやお食事と一緒にごゆるりと。社会情勢もあります、どうか無理なくお越しくださいませ。2月2日の今日は在廊しない予定です、申し訳ありません。明日3日は、11時過ぎ〜14時前後ごろまで、在廊予定です。
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ポカリスエットを買います。銭湯に入ります。元気になって、写真を撮ります。たくさん汗をかいて、ほっと笑顔になれる経験をみなさんと共有したいと思います。