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【#02】フェリーの船長に会う。
奥尻へのアクセスのひとつに、函館ー奥尻の飛行機便があるけれど、この時期は“やませ”という冷たい北東寄りの風で、視界不良の欠航になる事がある。一方でフェリーの就航率は高い。だから今回は函館からバスに乗って、フェリー乗り場のある江差町へ向かう。
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バス停では、ぼくの次に若い男性が並んだ。どこで降りるのだろうか。そして次に若い男性が並ぶと、彼らは「おお」と挨拶をした。知り合いらしい。「いつから函館におったんよ?」「あそこのホテルに泊まっとったさ」するともう一人、若い男性がやって来て、これまた知り合いだった。途中で降りるのか、江差の人なのか、はたまた奥尻の人なのか、年下なのか年上なのか、何も分からない。だが、彼らの“あたりまえに過ごす若者の感じ”が、土地を知らないぼくには心地良かった。
函館から新函館北斗駅を経由して、バスは山の中をぐんぐん進む。途中、江差に入ると道が開けて、田んぼも広がっていた。水田の風景だけを見ると、北海道らしさは見当たらない。だがそれもまた、北海道ということだ。2時間ほどで、姥神フェリーターミナル前に到着した。若い男性3人は、みんなここで降りた。江差か、島の人たちなんだなあ。外はひんやりとした雨が降っている。
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さて、ターミナルで乗船券を買って船に乗るわけだが、ここでひとつのミッションを、宿泊するゲストハウスオーナーのゆうとさんからもらっていた。内容はこうだ。「フェリーの船長に、かつおが乗ると伝えておいたから、乗船したら『船長よろしくお願いします』って挨拶しな!」
ミッションがビッグだ。オーナーと船長が知り合いなのは想像がつく。だが、ぼくはお会いしたことのない船長に、会う。コクリコ坂みたいだな? と思いつつ、「わかりました!ありがとうございます!」とやり取りしていたのだった。
乗船のアナウンスがはじまり、いざ船に乗り込む。ぼくは船旅において船に乗る瞬間が、一番好きだ。タラップを登るときの音、陸地を離れて島に行くんだという実感。そのワクワクは堪らない。乗船券をQRコードでチェックして船の中に入ると、大柄の船員さんがいた。「船長、いや違う。船長と会うって、大丈夫なのだろうか…」と脳裏によぎる。
気持ちを落ち着けながら、荷物を二等船室に置いた。お客さんの多くは地元の方か、仕事関係の方だが、早速枕を置いて寝ている人もいる。数少ないコンセントエリアは競争必須で、そのエリアを守るように人が寝転んでいて、携帯やパソコンの充電はできない。邪魔にならない場所に、こじんまりと入った。
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「よし、船員さんに聞いてみるか‥‥」
頃合いをみて、インフォメーションセンターへ向かう。果たして船長に会えるのだろうか。状況がつかめないと思いながら、若くてすらっとした船員さんに「船長と会う予定の者なのですが‥‥」と思い切って聞いてみた。
「ああ、話聞いてますよ」どうやら話が通っているらしく、胸をなでおろした。「船長どこ行った?」「さっきまでいたよな」船員さん同士で無線機を飛ばす。いや、おおごとにはならないでおくれ。そして、「ブリッジ(操舵室)にいる」とのことで、ぼくのところまで来てくださることになった。やっぱり、状況がつかめない。しかし、ついに船長と会えるのだ。
「やあ君か!」
船長は軽く日焼けした恰幅の良い、しかし優しそうな男性だった。
「君は写真家だろう? 旅について一通り聞いたよ。いい写真、撮ってくれよ」
船長の声は太くて柔らかかった。あっという間の出来事だが、ミッションはよく分からないまま、こうして無事達成された。ぼくもやることはやったし、ホッとして2時間の船旅がはじまったのだった。
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「プー!」大きな汽笛が鳴る。ゆっくり、ゆっくり船が動いていく。船長がこの巨体を指示し、舵輪を回しているのだろうか。船を動かすハートランドフェリーの社是は「安心・安全・安定」。安心安全は良く聞く言葉だが、安定というのは船会社ならではだ。いままで飄々と乗っていた船も、船長という人物が明確に浮かぶことで、身近に感じられた。
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――出港から1時間半後、ぐらいだろうか。
デッキで海を眺めていると、奥尻島の島影が見えてきた。周囲は約84kmある。小さくはない島だ。いよいよだなあ。というとき、最初に会話をした若い船員さんがちょうどやって来た。「あ、先ほどはありがとうございました」と一緒に海風を浴びる。
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「船の仕事を志したんですか?」
話の流れで、聞いてみた。
「そうです。専門学校に入って、偶然ここに勤めることになって、入ってみたら温かい職場だった、って感じかなあ」
島を見つめながら話す眼差しは、透き通ったガラス玉のようだった。
「お仕事、楽しいですか?」
お節介だと、思ったけれど。
「楽しいですね」
即答だったことが、野暮な質問に対する何よりの答えで、ぼくはこの船がもっと好きになった。
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さあ、これから接岸だ。重い曇り空を分けて、晴れ間も見えはじめた。船は出港よりも入港の方が難しい。ブレーキをかける動作が繊細だからだ。しかし、体の一部のように船は港にピタッと吸い付かれていく。ものの見事に、接岸した。
別れ際、船長がタラップの出口に来てくれた。
「奥尻をゆっくり楽しんでこいよ」
もう、とっても楽しいですよ。と思ったりしながら。
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◎展示のお知らせ
タイトル|『奥尻日和』
会場|FAbULOUS(札幌市中央区南1条東2丁目3-1 NKCビル1F)
日程|2022年2月1日(火)〜2月28日(月)
時間|FAbULOUSさんの営業時間に準じます。
奥尻島の日常や自然をテーマに、写真展を開かせていただきます。カフェ内ですので、是非コーヒーやお食事と一緒にごゆるりと。社会情勢もあります、どうか無理なくお越しくださいませ。在廊は未定ですが、あたまとおしりは準備・撤収で札幌滞在予定のため、可能ならば在廊したいと思っています。
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ポカリスエットを買います。銭湯に入ります。元気になって、写真を撮ります。たくさん汗をかいて、ほっと笑顔になれる経験をみなさんと共有したいと思います。