【#03】奥尻島で過ごす初日。
3年ぶりに、奥尻島へ上陸した。港ではゲストハウスオーナーのゆうとさんが待ってくれていて、久しぶりの再会だ。
「久しぶり!」
「お久しぶりです!」
車に乗せていただき、島の反対側にあるゲストハウスimacocoさんへ向かっていく。到着して奥さんと子どもたちに再会した。お子さんは3兄弟で、前回訪れたとき、末っ子である次女さんはまだ奥さんのお腹の中にいた。みんな、すくすく育っているのだなあ。
子どもたちはぼくのことを覚えていないから、警戒している。長女ちゃんは、椅子に座って真剣にyoutubeを見て「あなた誰、興味ない」っていう感じ。
「エゾキスゲを採りに行くよ。明日、天ぷらにするから」と、ゆうとさんに誘われて、エゾキスゲを採りに行った。奥尻島は海だけでなく緑が豊かで、植物も豊富なのだ。身長と同じぐらいの茂みを進んで、エゾキスゲを採った。
「この花、小清水とかで見たことがあります」
「そうそう、よく知っているね」
しかし、ぼくより詳しいのはゆうとさんだ。ゆうとさんは北海道内のプロネイチャーガイドを目指すため、最終試験を待っている段階だった。試験の倍率は非常に高く、難しい。まもなく実技試験にチャレンジするのだ。そして現在、ゆうとさんはプロのネイチャーガイドである。
だから、植物や野鳥の知識はすごい。
「これはハマヒルガオだね」「ほら見て!あれはミサゴだよ!」はるか上空で、普段なら鳥としか思わない立派な鳥が、上空の一点から動こうともせず、伸びやかに羽を伸ばしている。
「ミサゴは英語でオスプレイ。オスプレイは、ホバリングと言って、空中で停止できるでしょう。ミサゴがその語源になっているんだ」
確かに、あれはホバリングだ。自分の中に知識があるかないかで、捉えらえられる印象がこんなにも違うのか。「名前を覚えると、知らなかった隣のクラスの子と仲良くなった、って感じがするよね」ゆうとさんは笑った。
ゲストハウスに戻ると、子どもたちはぼくに慣れてくれて、「遊ぼうよ!」とみんな海へ走り出した。ゲストハウスから海までは徒歩数分だ。というか、海は見えている。砂浜で水を浴びたり、砂の水路を作ったり、ギャンギャンやった。「超巨大砂漠〜」と長男さん。長女ちゃんには「裸足になろうよ」「気持ちいいよ」とまっすぐ言われて、まっすぐ刺さった。裸足になったぼくは、それからのことをあまり覚えていない。
さて、ゲストハウスから徒歩3分の場所に、島唯一の温泉がある。神威脇温泉だ。存続が危ぶまれた時期もあったが、営業はいまも続いており、憩いの場所になっている。ぼくも前回訪れた時は、この温泉がほんとうに気持ちよかったものだから、楽しみにしていた。ゆうとさんとぼくと、お子さん三人で温泉に入った。地元のおじいちゃんが一人いたけれど、もちろん全員顔見知りだ。ゆうとさんはおじいちゃんと会話しながら、いつものように相槌を打っている。移住者だけど、すっかり島の人なんだなあと実感した。
かつて奥尻島では硫黄が採れた時期があった。だから温泉の効能にはマグネシウムが含まれていて、泉質は抜群だ。全国の離島温泉ランキングで7位になったこともある。そして外の大きな窓ガラスからは、日本海が広がっている。この先は、ロシアのウラジオストクか北朝鮮かの国境付近である。そういう場所に来て、いま生きていることをぼんやりと実感する。
お風呂から上がると、夕日が沈もうとしていた。みんなで夕日を見に行こう。長男さんが「こっちだよ」と案内してくれる。夕日がよく見える場所を知っているのだ。ちょうど岩の隙間から、綺麗な夕日が沈んでいった。長女ちゃんが「お母さんにも、見せたいなあ」とボソッと呟いた。お母さんはいま、夕ご飯を作っている。ここで過ごしていると、時間の流れを忘れてしまうし、それでいて自然体になる。夕日が沈んだあと「お腹空いた、ご飯だ!」長男さんがまた、ゲストハウスと家のある方角に向かって、走り出した。――(終)――
ポカリスエットを買います。銭湯に入ります。元気になって、写真を撮ります。たくさん汗をかいて、ほっと笑顔になれる経験をみなさんと共有したいと思います。