【#01】奥尻島へ向かう前日。
新千歳空港から電車で札幌へ向かい、函館行きのバスを待った。ルートはいくつかあるが、札幌から函館に移動し、翌日に奥尻島行きの船に乗る計画だ。
バスの発車まで1時間余っていたから、来年2月に展示をさせてもらうカフェ「FAbULOUS(ファビュラス)」の方に連絡をした。
数分して「いるよー」と返信がきたので、ダッシュで向かう。
ランチの時間、オシャレな女性客が順番待ちしているお店の入口に、旅の不格好な人間がやってきたものだから、怪しい眼差しが届いた。しまった、と思ったけれど、ちょうどお店の方が出てきたので、「こんにちは!」とあいさつをした。
「おお、来たのか来たのか! まあ、入りな!」
待っている女性客にごめんなさいと会釈して、店内に入る。来年の展示の説明を大まかにしてもらったのち、ぼくも説明をした。
「いまから奥尻島に行きます。展示する写真を撮りに行きたくて」
「おお!そうか、そりゃ行ってきな。気をつけて!」
お店の方とはじめて出会ったのは、2年前の市町村一周に遡る。展示の話をもらったときも、まだ学生だった。先に“2022年2月”という日程だけ決まったのだが、数年経って蓋を開けると、写真家を名乗るようになっていた。
さあ、高速バスに乗って函館へ向かおう。昼食はセイコーマートで買った。北海道のコンビニは、ついセコマを選んでしまう。地元のセブン派も十分認識しているけれど、セイコーマートは北海道にしかない(一部関東を除く)のだから、立ち寄りたいのだ。たらこバター醤油、筋子のおにぎり、抜群に美味しい。さらにいつものメロンソーダ、そう、ここは北海道だ!
バスに乗ると、大谷地駅前の乗車を終えたタイミングで、運転手さんが「今日はもう誰も乗ってこないので、好きなところに座っていいですよ」と言った。ぼくはそのままだったけれど、後ろは誰もいないし、シートも倒せるから随分楽だ。Wi-Fiもあって、コンセントもあって、移動しながらのカフェである。写真を編集して、プロフェッショナル仕事の流儀を5話見た。バスはまだ走り続ける。
――(函館までの道のりは長いぞ)――
函館は遠いな、そう思ったとき、運転手さんの最初の一言は、ぼくや乗客に向けた親切だったのだと、気づいたのだった。
19時前に函館駅に着いた。駅前を歩くのは初めてで、前回は函館山に近い場所で泊まったと記憶している。小雨が降っていたけれど、そのまま傘をささずに歩いた。向かう先はラッキーピエロだ。
豪華な装飾が施された店内で、先にオーダーと精算を済ませ、自分の席番号を記入し、レジ横のカゴに入れる。その後店員さんが料理を持ってきてくれる、ここはそういう仕組みだ。チャイニーズチキンバーガーがベタだけれど、前回も食べた記憶があるし、今日は違うメニューにしようと、北海道ジンギスカンバーガーにした。美味しい。羊への感謝が止まらない、明日も食べたい。
店内で、駅前のホテルを予約した。まだホテルを取っていなかったのだ。ネットカフェでもいいか、とかつての旅がよぎると同時に、そろそろ卒業してもいいのではないか、と両者がせめぎ合っていた。結局、ビジネスホテルにした。チェックインしながら、大人の階段をのぼっているような気がしたのだった。
部屋を出るとすでに真っ暗になっていて、雨脚も強まっている。しかし、その暗闇を照らすまちなみの灯りは、見事だった。自動車や路面電車が通る度、地面に反射する光は夜のメリーゴーランドのように煌めいた。雨に濡れながら写真を撮り、小腹が空いたのでセイコーマートへ寄って、夜食に山わさび塩焼きそばを買った。
山わさび塩焼きそば(いまは売っていないかもしれない)の危険度は知っていた。しかし、北海道に来たのだからと、手を伸ばしてしまったのだ。部屋に戻り、湯を入れて、湯切って、付属の液体を入れて、その瞬間、号泣した。玉ねぎ、全米を超える号泣だった。辛い、いや痛いのだ。一切の容赦なし。口に入れると、あらゆる罰ゲームよりも厳しいのではないか、という世界だった。部屋には一人しかいないのだから、オーバーリアクションをしても仕方ない。それなのに、号泣してむせた。なんとか完食できたのは、徐々に体が慣れたのと、残したくないという気合いと、時折山わさび味が瞬間的に消えて、普通の焼きそばに戻って美味しかったからだ。崩れ落ちるように眠りについた。
明日は函館からバスに乗って、いよいよ奥尻島へ向かう。
ポカリスエットを買います。銭湯に入ります。元気になって、写真を撮ります。たくさん汗をかいて、ほっと笑顔になれる経験をみなさんと共有したいと思います。