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蒜山中和(ひるぜんちゅうか)と生き方。【岡山県・真庭なりわい塾】

岡山県真庭市で開かれる『真庭なりわい塾』の、第6期生募集が始まる。4月23日(土)、24日(日)には、岡山会場と大阪会場でプレイベントが行われる。その少し前に、舞台となる蒜山中和(ひるぜんちゅうか)地域の方々に、会ってきた。移住された方々だ。

高谷裕治さん、絵里香さん。蒜山耕藝を営む農家。2011年に関東から移住。
松井美樹さん(左)。小屋束豆腐店の店主。2015年に関東から移住。
近藤亮一さん、温子さん。禾-kokumonoを営む農家。2018年に広島から移住。
高橋玲奈さん、祐次さん。猟師・農家。2016年に関東から移住。
田村陽至さん。捨てないパン屋〈ブーランジェリ―・ドリアン〉店主。2020年に広島から移住。二拠点生活。
小林加奈さん。カフェ兼仕事場〈松屋館〉女将。2016年に移住。出身は岡山県美作市。

移住された方々の暮らしを、ひとくくりにすることはできない。ここにあるのはただ、岡山県の最北部、ちいさな集落の日々だ。中和という場所に出会った、人々の心だ。


移住者の中では、高谷夫婦が先駆けだった。

高谷夫婦とのご縁をきっかけに、中和へ移住した人は多い。

「自然栽培をしています。土地の個性を大切にして、それを農作物に込めて届けること。私たちも生き方を探して、人や場所に触れて、やがて農家になり、中和と出会いました」

絵里香さん「シンプルに、心地よい状態で過ごす。それを、ことさら大事にしたいです」

「山も川も、地域によってひとつひとつ違います。だから、移住は土地のエネルギーや波動みたいなものが、合うかどうか。それは、心が自然に決めてくれることだと思います」

颯爽と走る裕治さん。「もうすぐ忙しくなりますね」

「僕は住んでいる集落がすごく好きです。眺めていて気持ちのいい景色を守りたい。住んでいる方々や来てくださる方々にとって、心地のよい場所を作ること。それは僕の喜びです」


小屋束豆腐店の松井さん「東京でインテリアの仕事を必死にがんばって。朝食が、チョコレートとレッドブルだったんですね」

「さらに昼はコンビニ弁当、夜は500mlのビール2本とつまみ、という生活でした。で、体調を崩して、コンビニも入れなくなって」

豆腐づくりの火入れは午前3時から。

「だけど、体調を崩したときに、豆腐だけは自然と食べることができて。だから、いろんな種類の豆腐を食べたんです。それから豆腐の多様性に気づいて、興味を持つようになりました」

「でも私、鳥取が実家で近いので、ふらっと移住ですよ」

「移住して家族に恵まれてからは、身の回りの生活が中心です。自分と、夫と、子どもと。豆腐も週に一度のペースでつくっています」

「子どもが大きくなったら、豆腐づくりは週に二度かなあ」
「あ、撮れました?」

「都会でも、ここでも、どこでも、やることなんていっぱいあると思います。ただ、中和で何かをやりたいという衝動は、お金を稼ぐことだけではなくて、気持ちよく暮らすための衝動が多いんですね。その環境を思うと、すごくありがたいです」


農家の近藤さん「米や麦、大豆などは僕の担当で、養鶏は妻の担当。分担しています」

「移住するまでは広島の三次(みよし)市にいました。それから農業を学びたいと思ったときに中和、さらに高谷さん夫婦を知って。妻は農業の知識があったので、僕だけ先に中和へ来て、自然栽培を教わりました」

お互いに別々の作業をこなす。

「二人とも国際関係の仕事に興味があったんです。ただ、いろいろな社会問題を知ったことで、ある種の罪悪感も感じるようになって。だから、自分たちで向き合える生き方を考えて、それから自然栽培に出会い、そのまま流れるように、中和で暮らすことになったんです」

温子さんについて行ったので、亮一さんとはお別れ。
養鶏場。平飼いの鶏たち。
発酵飼料は地域のものを中心に。

「餌も含めて、循環が大事だと思っています。平飼いで鶏を飼っていることも、鶏に無理をさせたくないから。だから、この地域に合った飼料づくりや育て方が、環境的にも、人間的にも必要かなって」


1日目の夜空。北斗七星。

2日目の朝、猟師の高橋さんから電話が入った。「何か罠に掛かったかもしれない」

高橋さんと罠が仕掛けられた場所に向かった。「俺の後ろを離れないように。何が掛かっているかも分からないし、手がつけられないこともあるから」

罠のそば。発信機。
アナグマだった。
命と向き合う。

高橋さんは猟銃ではなく、木の棒とナイフで、アナグマにトドメをさした。アナグマは一瞬、うめき声をあげた。高橋さんに迷いはなかった。命と向き合うこと。僕はそれを都合のいい言葉で表すことはできない。

お話も伺った。元気な愛犬・モンティと一緒に。

「田舎の付き合いも、最初は全然分かりませんでした。でも、主人が移住してすぐに自治会長になってしまって」

「家の並びの順番ね(笑)」

「自給自足の生活を夫婦で考えるようになって、中和に出会って——」

「——移住してまもなく狩猟の免許を取り、師匠に教わりました。稲作も同じタイミングで始めましたし、日々あっという間で。特に狩猟は、自分たちで鹿や猪の命を奪い、尽きるところまでを見て、イチから捌いて、お肉をいただく。それが自分の血肉になるという感覚は、ここに来て初めて知りました」

「僕らが肉も野菜も、人任せにして安心しながら食べる時代は、人類史の中ではほんの少しなわけだ。でも『食』っていうのは、自分の命にいちばん関わること。与えられるのか、選ぶのか。それをいま、振り返ってもいい時代だと思う——」

「——だから、僕らもそうだけど、いろんな入口があって、自分の生活をなんとか変えようする。その中で『なりわい塾』みたいなプログラムがあって、『こういう人たちがいる』『こうあってもいいよね』と知れるのは、いいんじゃないかな」


捨てないパン屋〈ドリアン〉の田村さん「ヨーロッパにいたときは、パンとどう向き合えばいいか、軽い鬱になるぐらい悩みました」

「わざわざ、日本人が無理に食べなくても良いパンを一生懸命作って、なおかつどんどん捨ててしまう。僕はパン屋ですけど、それが苦しいというか、格好悪いというか」

「朝からご飯とお味噌汁を食べる文化は、東洋医学的にも日本人に合った、素晴らしい習慣なんです。だから、雑な言い方をすれば、日本人の習慣を捨ててまでパンは食べなくてもいいと思うんですよ。パンを食べるなら、誠意を持って。パンを作るなら、捨てない仕組みの中で作りたいです」

「たとえば、20代はエネルギッシュに動く。30代は何か技を探す。40代は身に付けたことを、誰かと協力し合う。ゴールは人それぞれですけど、そうやって自分の足で生活できたら、いいですよね。僕にとってはそれが、パンだったわけです」


取材先を全て案内してくださった小林加奈さん。

「この山菜はね‥‥」とよそ見をしていたら手にいっぱいの山菜を集め、「今年初めて、夏鳥が来たなあ」と遠くの鳥の声を聞き、「木が喋るんよなあ」と自然に対して五感をひらく。イラストも描く。アクセサリーも作る。薬草も詳しい。占いもする。加奈さんの暮らしや生き方は、簡単にはまとめられない。

「今までいろいろなところに行ったから、今度はどこかで、足をつけたいと思って。それで中和に出会ってなあ。でも、移住して来られた人も、きっとみんなそうじゃろうなあ」


私たちは「豊かさ」や「幸せ」を、分かりやすい答えにしたがる。しかし、人生において、答えはポンっと簡単に出るものではない。私たちができることは、感じた何かへの答えを“探そう”とすること、そして、“選ぼう”とすることだ。移住された方々は、「中和こそ正解だよ!」という言葉を誰も使わなかった。僕はそれが、好きだった。

真庭なりわい塾も、答えだけを提示する塾ではない。目になかなか見えない、生き方の“根”をやさしく掘り、仲間と一緒に知ろうとする塾だ。それがゆくゆくは自分にとっての根となり、何かを探し、選ぼうとするときの、大事な栄養素になる。そのきっかけが「なりわい塾」であり、その舞台が蒜山中和地域であることを、僕は知れて嬉しかった。


また、いつか中和に来れますように。心から。

興味のある方は、是非プレイベントからご参加ください。取材にご協力いただいた蒜山中和地域のみなさん、本当にありがとうございました。

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●岡山と大阪にてプレイベント開催!
4/23(土)岡山国際交流センター
4/24(日)大阪市立住まい情報センター

※岡山会場は、オンライン配信予定です。

参加費無料/定員60名/先着順・要申し込み

詳細はこちら↓
https://maniwa-nariwai.org/2022/03/17/pre-event2022/

●真庭なりわい塾「第6期」塾生募集中!
詳細はこちら↓
https://maniwa-nariwai.org/

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取材に協力いただいたみなさん〈掲載順〉
◯高谷裕治さん、絵里香さん(蒜山耕藝
◯松井美樹さん(小屋束豆腐店
◯近藤亮一さん、温子さん(禾(kokumono)
◯高橋裕次さん、玲奈さん(猟師・農家
◯田村陽至さん(ブーランジェリー・ドリアン
◯小林加奈さん(松屋館

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仁科勝介

ポカリスエットを買います。銭湯に入ります。元気になって、写真を撮ります。たくさん汗をかいて、ほっと笑顔になれる経験をみなさんと共有したいと思います。