見出し画像

シニアの企業戦士と田舎の高校生の哲学対話、一部始終。

きっかけは昨冬の訪問から


遡ること7ヶ月。

2020年の年末も押し迫る、岩手県の雫石町に、シニアの企業戦士はいた。
東北の冬の空は、どんよりと曇り、岩手山には、低い雲がかかっていた。

と言っても一人ではなく、周りには、内閣官房の参事官。民間大手派遣会社社員2名。町役場の職員さん2名。そして、うちの法人からは私を含め3名。

総勢7名で、2日間に亘って、ホテルや旅館などの宿泊施設、様々な観光施設、廃校になった小学校の空き校舎を見て回り、またそこで活動している地元の方やお店の方、旅館業を営まれている方、観光まちづくり会社の方、ホテルのマネージャーの方など、様々な方の声を聞き、現場の様子を見て、意見交換するフィールドワークの場を持った。

シニアの企業戦士は、誰もが知っている金属製品のメーカーの方で、年齢はちょうど60歳。

会社人生の、半分以上が海外勤務で、主に、ヨーロッパや南アメリカなどで、現地の生産法人の立ち上げや、工場や生産管理全般のマネジメント、総務人事、営業の最前線に立ち、また責任者として、数々の修羅場を乗り越えつつ、真っ当に出世して、現在は東京本社で、シニアのキャリア育成や、支援の業務に就かれている。

私たちは、こういった都市部の企業人材が、個人としてでなく複数、できれば組織として、地域に関わるしくみを構築するための調査研究事業を、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局から受託し、その受託者として、委託元の内閣官房といっしょに、現地調査をしているという立場での訪問だった。

この調査事業は、関係人口の創出・拡大の文脈で整理し、現在も、内閣府の事業として継続的に行っているのだけれど、この12月の雫石町の訪問は、テレワークやワーケーションでの関わり方や、今後の可能性について調査し、整理するのが目的だった。

町役場の若手職員の一言から思わぬ展開に


現地でのフィールドワークの最後、私たち訪問者側と、町役場内の企画、まちづくり、産業振興などの部署の管理職や担当者らとの、振り返りのミーティングの最後のあたりで、役場の30代の若手職員が、こんな発言をした。

「町内に高校があるんですが、年々、生徒が減り、再編の話も出かねない。自分も小さな子どもの親だが、子育て世代からみると、魅力がわかりづらい。高校生になると、隣の盛岡の高校に行ってしまう子が多い。でも、自分は役場職員なので、何とか、地元の高校を魅力あるものにして、誇りを持って子どもが通えるようなものにしていきたい。今日、来ていただいた企業の方は、ものづくりをされているので、例えば、高校生たちが、自分の学校の制服を、自分たちでデザインして、自分たちが着れるようなプロジェクト、みたいなことでもいいかもしれないので、何か、企業の人たちが、直接、高校生と関わるような場や、機会を持ってもらえたらありがたい。」

今思い出しても、少し胸が熱くなるような、気持ちのこもった発言で、その場に居合わせた人たちは、少なからず、何かしら、心を動かされたに違いない。

シニアの企業戦士は。

「制服プロジェクト、面白そうですね。何か楽しくなるようなこと、やっていくのは大事ですね。私の周りにも、仲間がたくさんいます。東京に帰ったら、声をかけてみますので、また、定期的にやりとりしましょう。」

みたいなことを、正確な言葉は覚えていないが、身振り手振りを交えて、一生懸命に、伝えていたのが印象的だった。

その若手の職員が、シニアの企業戦士に向かって、こう言った。

「自分は、町の外に話せる友だちがあんまりいないので、ぜひ、友だちになってください。フェイスブックでも、メールでも何でもいいです。」

「自分も海外生活が多く、日本の友だちが少ないので、喜んで。ぜひ。」

若手職員の父親くらい、年が離れているだろうけど、微笑ましくもあり、一方で、複雑な気持ちで聞いていた。

その後、調整とやりとりを重ねて


あれから、町役場、地元の教育関係者、高校、そして、シニアの企業戦士たちと、WEBでのミーティングを何度も行い、メールでの日程調整、事前準備を何度も行い、ついに先日、シニアの企業戦士たち5名と、地元の高校2年生20名とのZoomでの、意見交換会が行われるに至った。

高校生は、5つのチームに分かれ、そこに、シニアの企業戦士が1名ずつ入る形で、授業時間を2時限使って、途中、シニアの企業戦士がチームを入れ替わりながら、相互にやりとりができるような場を設定した。

「職業人と高校2年生の哲学対話」である。

大人が高校生に何かを教えるとか、一方的に話しかけるというスタイルでなく、お互いがフラットに、順番や質問を決めずに、「働く」とか、「学ぶ」について、何でも自由に話をするという、そんな仕立てにしていただいたのだ。

私はというと、いろんなグループを回り、会話の様子を、画面をオフにして、聞いていた。

最初の頃、「将来、特にやりたい仕事はない」といっていた女の子が、最後のあたりでは、「バトミントンが好きで、選手になれるほど上手くはないけど、何か関係する仕事を、やってみたい」と、明るく言っていたのには驚いた。

また、哲学対話の最後に、シニアの企業戦士たちが、高校生たちに言った言葉は、とても新鮮だった。

「今日は、高校生の皆さんと話ができる機会を与えてもらって、本当に有り難かった。色んな気づきをもらったので、これから先の人生に活かしたい。また、お話する機会があれば、ぜひ参加したい。」

シニアの企業戦士の顔は、どの顔も、楽しそうだった。

現場で、一部始終を見ていた役場の課長さんは、皆んなの前で、最後のあいさつを、こう締めくくった。

「こんな光景が見られるとは、思っても見なかった。」

高校生たち、シニアの企業戦士、役場の人たち。
何を思って、どうつなげるか。

これから先も当分の間、一緒に考え、伴走していこうと思う。

では、また、今度。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?