ショパンの愛弟子リケのレッスン報告 その1
「大好きなロッテ叔母様、そして従妹のソフィー、
こう書いた今、便箋が裏だと気付いたわ!でも本当はそんなこと、どうでもいいの。私、いまショパンのところから戻ったばかり。幸せで、何が何だかわからないくらい混乱してるの… 」
ショパンからレッスンを受けることを許されたフリーデリケ(以下リケ)。1839年10月30日付の叔母への手紙はこう始まります。
この女性ピアニストは1816年生まれ。幼少で母を亡くしてウィーンの叔母の下に育ちましたが、幼い頃からピアノにずば抜けた才能を示し、当時のピアノのメッカ・パリに留学することになったのも、当然のことでした。
彼女がショパンの弟子だったことは知られていましたが、行方不明の手紙の束を音楽学者が発見し、論文となったのが2017年。それに関するラジオ番組を私がたまたま耳にして手に入れたのですが、読んでビックリ!
著者の前書きを引用しましょう:
「彼女は、延べ170時間にわたるレッスンを、詳細に分かりやすく描写し、ショパンとの多くの会話を、一字一句そのまま伝えてくれる。これこそが、この資料の特別な価値なのだ。そこからは、時間と思考を経て書かれた回顧録のような描写とは違って、臨場感に満ちた(美化されない)現場の実際が伝わってくる。」
つまり言い換えれば、フリードリケの手紙は、自分の曲の演奏に関するショパン本人の指摘と助言に満ち溢れている、ということです。お気に入りだった弟子へのショパンの助言は、関係者が今日、ショパンにまつわる思考を整理するのに、大きな助けとなるのではないでしょうか。
音楽家でもない私は溢れる言説に疲れ、苦手だったショパン。
でも2021年10月のショパン・コンクールで、日本をはじめとする世界中の若いピアニストたちの、多様なスタイルの演奏を聴くにつけ、ショパンの深さを垣間聴いた気がしました。ただの音楽ファンでさえこうですから、若い演奏家達に、新たなインスピレーションを与えないとも限りません。
というわけで、まずショパンにレッスンを受け始めたころのリケの手紙を、数回にわたってご紹介しましょう。
今は640ページの学術書を40ページほど読んだところ。この先リケが何を報告するのか見当もつきませんが、読み進むにつれてご報告したいと思います。