見出し画像

ふたりのあげまん

僕はふたりのあげまんを持つ。ひとりは離婚した前妻、もうひとりは再婚した今の妻。このふたりがいなかったら、今の僕はない。だからふたりとも僕にとってあげまんだ。

前妻とは大学時代に知り合った。僕は超理系男子。一方、彼女は超文系で社交的。相いれないふたりだったが、お互い自分にないところに惹かれあったのだろうか? 僕が社会人になり3年目で結婚に至った。

僕は、製薬会社で働く研究者だったが、将来、アメリカに派遣されてアメリカで働きたいと夢を抱いていた。これには彼女の影響が強く入っていた。彼女は、学生時代、英文科に属し、英会話が大好き。社交的で誰とでも気さくに話せされる性格も相まって、外国人にも何の躊躇もなく英語で話しかける。彼女は世界中を旅行したいと思っていたし、外国にも住みたいと思っていた。もちろん、僕自身の中にアメリカで働きたいという強い夢はあった。でも、彼女を喜ばせたいために、アメリカに派遣されたいと思っていたのも事実だった。

ふたりとも、社会人になってからも積極的に英会話を磨こうとしていた。しかし、もともと英語が苦手でコンプレックスを持ち、社交性にも乏しい自分。もともと英会話が超大好きで社交的な彼女。英会話の上達速度はぜんぜんちがった。海外旅行に行くと、現地の人と楽しく会話できる彼女がとても羨ましかった。そんな悔しい思いがエネルギーとなって、僕も徐々にだが、英会話力を伸ばしていった。37歳になった時に夢がかなった。アメリカに派遣されることになった。彼女も超喜んだ。自分の夢だけでなく、彼女の夢も叶えたような気分になり、うぬぼれた。

アメリカに派遣されて2年、あと1年で日本に帰国せよとの通達が来た。僕は新たな職を探してアメリカに残る道を選んだ。彼女は全面的に賛成してくれた。僕は、ひとつのことに注目すると周りが見えなくなる。アメリカで生き残るために仕事に没頭していった。仕事に没頭する僕の傍らで、彼女は様々なことに挑戦していた。大学で美術を学び、その他のクラブ活動にも積極的だった。一方、僕は、外国に住むという彼女の夢を叶え、アメリカでの彼女のさらなる成長も応援し、自分はなんと理想的な夫だろうとうぬぼれていた。

アメリカに移り、9年目で彼女は突然僕から去った。彼女には、他に好きな人がいたのだ。その男性のことを知り、さらに愕然とした。自分の親ほども年の離れた人だったのだ。僕は仕事ばかりに没頭して、本当の意味で彼女と向き合っていなかった。その男性は、彼女といっぱい話し、真摯に彼女と向き合っていたのだろう。僕は、そんなことにいっさい気づかず、自分は妻の最大の理解者で、理想的な夫だとうぬぼれ、愚かな勘違いをしていたのだ。妻に裏切られたこと以上に、自分の愚かさにショックを受けた。

もちろん最初は妻に対して怒りの感情を持った。でも、時を重ねるに伴い、この離婚は自分を見つめ直し、自分磨きをするために自分の人生にとってなくてはならないものだったと思えるようになった。彼女がいなかったら、アメリカに来ることも、永住することもなかったかもしれない。そして離婚がなかったら、自分を見つめ直し、自分磨きをし直すこともなかった。

そしてもうひとりのあげまんが、僕の前に現れてくれた。今の妻だ。彼女と出会うと、たくさんのことが良い方向へ回り始めた。驚くことに、仕事でもトップパフォーマーとして評価されるようになった。それまでもアメリカでサバイブしていたが、アメリカ企業になじめず、どこか怯えながら自信なく働いていた。それが、彼女と出会い、私生活でも自信を取り戻すと、仕事でも大きな成果を出せるようになっていった。彼女は料理が上手だ。健康に気を遣った和食を多く作ってくれる。アメリカにいながら日本にいるように和食を食べられる贅沢をもたらしてくれた。僕自身も、これまで以上に健康に気を遣うようになり、より健康的になった。

妻と喧嘩をすることもある。僕は単純な人間で、いったんひとつのことに没頭すると周りが見えなくなる。彼女が、僕を一生懸命支えてくれていることを、つい当たり前のように思い、感謝を忘れ、彼女をがっかりさせてしまうこともある。同じような過ちを何度でも何度でも繰り返してしまう。自分の性格、その中にある問題点を自覚できるようになっていっても、自分の気質はそう簡単には変えられない。ただ、彼女はどんなことがあっても僕の妻でいると覚悟している、と僕は強く感じる。自分の都合の良いように解釈しているかもしれない。でも、彼女といると、なぜか根拠のない勇気が湧き、ワクワクする新たなことに挑戦したくなる。

ふたりのあげまんに出会えたことで今の僕がある。


#私のパートナー

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?