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アメリカ転職 スタートダッシュ戦略 大企業と小さなスタートアップ会社の違い

僕はアメリカの製薬会社で働く日本人研究者。アメリカで働いて20年目となる今年(2023年)、5度目の転職をし、12月初めに新たな職場でのスタートを切った。従業員100名足らずのスタートアップ会社から3000名以上いる大企業への復帰の転職。転職先での最初の2週間を終えて、小さなスタートアップ会社と大企業での両極端なスタートを経験した。その比較をまとめてみた。

時間軸

新たな職場でスタートする際の慌ただしさが、大企業と小さなスタートアップ企業では違うことは想定していた。でも、ここまで違うとは笑ってしまった。

2年前、スタートアップに入社した時は、とにかく目まぐるしかった。入社初日から様々なミーティングに声がかかり、様々な部署の人と会い、実際の仕事か始まる。状況を十分に把握する前に意見を求められる。ひとつの案件をかみ砕いて学ぶ前に、別の案件がくる。いきなり学習(インプット)と貢献(アウトプット)の両方をフルスロットルで回すことになる。良いことは、転職直後から新たな職場での自分の存在感・貢献感を十二分に感じられること。新鮮でやりがいがあり、楽しい。でも、それ故、気をつけないと、簡単にワーク・ライフバランスを崩すことになる。

一方、今回の大企業でのスタートは、超ゆったりモード。同時に入った社員は自分を含めて8名。和気あいあいと自己紹介をして。会社の概要、これからの予定、パソコンのつなぎ方など懇切丁寧なオリエンテーションを受ける。たくさんのトレーニングをパソコン上で受ける。時間もたっぷり設けてあり、自分のペースでゆっくりできる。毎日の実働は4時間もないかもしれない。部門や会社全体のミーティングにも雰囲気に慣れるために参加するが、アウトプットを求められることはない。

まずは、会社の組織構成、基本ルール・プロセス、文化などをゆっくり学ぶ。実際に関わるプロジェクトの学びは、その後にようやく始まる。どんなプロジェクトがあるか、大雑把に概観を把握すればよい。

さすがに大企業ですべてが整備されているので、余裕をもってインプットができる。気をつけなければいけないのは、あまりにもゆったりとしていて給料泥棒のように感じ、罪悪感を持ち、焦ってしまうこと。焦らず、会社の文化をゆっくり学び、スタートアップ会社での目まぐるしいスタートとの違いを楽しむことだ。

インプット

小さなスタートアップ会社が持つプロジェクトの数は当然少ない。だから、限られたプロジェクトに集中して、とことん深堀できる。そのプロジェクトに関しては、自分の専門分野以外にも口出しできる。意識しなくても選択と集中が自然となされる。その反面、視野が狭くなることは免れない。限られたプロジェクトだけ深堀すれば、当然、得られる知識や経験も限られたものとなる。僕は新薬の安全性を研究するトキシコロジスト。限られたプロジェクトから得られる経験・知識に関してエキスパートになるのは簡単だ。だが、広い経験・知識を持つトキシコロジストとしてプロフェッショナルになりたければ、相当に強い意志と根性で本業以外から習得するしかない。

気をつけなければならないのは、小さい会社ではいきなり激しいスタートを切るので、実際のプロジェクトなどのハード面だけのインプットに偏り、会社文化・人間関係などのソフト面のインプットを怠ってしまうことだ。大企業に比べれば、組織構造が単純なため圧倒的にインプットすべき情報量は少ない。だが、それだけに、会社文化、意思決定プロセス、人間関係などインプットを怠るとその付けはでかい。

一方、大企業であればスケールの恩恵を受けることができる。大企業に入り直して、あらためてプロジェクトの多様さには大いに感動した。この年になって新たな経験・挑戦ができることは超幸せだ。同時に過去2年間を小さな会社で過ごし、自分の経験が大きく限定されてしまったことも痛感した。
そしてプロジェクトの数以上に貴重なことが、人の数だ。同じ部署の同じ専門領域にたくさんの同僚がいることで、インプットの規模は小さな会社とは比べものにならなくなる。実際に関われる仕事・プロジェクトの多様さと切磋琢磨できる仲間の多様さは、本当に大企業のスケールの恩恵だ。

ただし、情報の洪水に埋もれないよう、自らの意志で選択と集中をする必要がある。入社時のトレーニングも十二分に整備されている。しかし、すごい量だ。自分がすでに習得している経験・知識と重複するものも無数にある。指定されたトレーニングをすべて真面目に受けていたら、相当な時間を重複学習に使うことになってしまう。自分勝手にズルい戦略を組む必要がある。手を抜けるところは積極的に手を抜く。例えば、自分には必要ないオンラインの重複したトレーニングは、読んだこと聞いたことにして、実際にはすべてすっ飛ばして、いきなり最終テストだけやって完了する。それでかなりの時間が節約できる。こんなズルい戦略もアメリカで長く働いて身につけた。

アウトプット

小さなスタートアップ会社では、転職後すぐにたくさんの、しかも重要なアウトプットを求められる。まずはプロジェクトの内容や会社の文化などのインプット(学び)をしっかりやってから、じっくり考えてアウトプットするなどと悠長なことは許されない。不十分なインプットでもアウトプットをし、トライアンドエラーを繰り返しながら、慣れていくしかない。すぐに自分の存在感・貢献感を得られるという点では、エキサイティングで素晴らしい。活き活き働ける小さな会社の長所だ。ただ、取り返しのつかないアウトプットのエラーをやらかすリスクもある。頻繁ではないが、転職後、致命的なアウトプットのエラーをやらかして、あっという間に会社を去っていった同僚を何人か見た。小さな会社はハイリスク・ハイリターンだ。

一方、大企業では、そんな無茶ぶりをされる心配はない。冷静に戦略を考えながら、アウトプットができる。ただし、あまりに受け身で、アウトプットの機会を待ち続けているだけだと、いつまでたっても存在感・貢献感は得られない。早期に小さなアウトプットの機会を見つけて、プロジェクトやチームに貢献し、周りの信頼を積み重ねる。小さな貢献の積み重ねで回りからある程度の信頼を積みかなせたら、思い切って大きなアウトプットで自分のポジションを勝ち取る勝負に出る。でないと、いつまでも大きな組織の中に埋もれた存在のままで終わってしまう。

別に目立って、成果を見せて、出世することだけが誰もが目指す成功や幸せではない。でも、仕事では、プロジェクトやチームに貢献して、周りを喜ばせたり、感謝された時に、喜びを感じると思う。だとしたら、アウトプットの成功は、仕事を楽しみ、仕事の中で幸せを見出すのには必須だ。

大企業でのスタートで難しいのは、都合の良いアウトプットの機会は、待っているだけでは簡単には来ない。自分に合った戦略を立て、アンテナを張り、上司やその他のキーパーソンに積極的にアプローチして、アウトプットの機会とその成功条件を確認して、リスクを取って実行する必要がある。

まとめ

転職直後は、学ぶことばかりで、貢献はほとんどできない。下記の図のようにピンクの領域の会社のお荷物からスタートすることになる。いかに早く効率的にピンクの「お荷物」領域から薄緑の「貢献」領域に移行できるかが転職後のスタートダッシュ戦略だ。転職を成功させる戦略は、小さなスタートアップ会社と大企業では大きく異なる。

大企業と小さなスタートアップ会社でのスタートダッシュ戦略の違い

小さなスタートアップ会社

  • スプリンターのスタートダッシュが必要

  • インプットが不十分な早期から、大きなアウトプットが求められる。そのため成功・失敗の浮き沈みが大きいことは覚悟する。

  • 少々の失敗は想定済み。トライアンドエラーを繰り返しながら次第に大きなアウトプットに挑戦し、周りの信頼を得て、自分のポジションを確立していく

  • 致命的なアウトプットエラーを避けるため、自分でインプット・アウトプットのバランスを取ることが重要

大企業

  • 十分なインプットの時間が与えられる。お荷物領域から貢献領域に移行するまで時間がかかることは覚悟する。インプットが不十分なうちに、無謀なアウトプットをしようと焦る必要はない

  • 情報の洪水に埋もれてしまいがち。自らの意志で選択と集中で行って、自分に合ったインプットに絞り込む。自分にとって重要でないもの、不要なものは手を抜いて、自分に大切なもののために時間を確保する。

  • 受け身で待っていてもアウトプットの機会はやってこない。インプットがある程度蓄積されたら、自らで積極的にアウトプットの機会を取りに行く。


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