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薬は病気の治療の第一選択肢にはなり得ない 製薬会社の研究者は謙虚であれ!

薬は、病気の治療法の第一選択肢では決してありません。その薬を飲む以外に何かできることはないか? その薬を飲むことで起こりうるリスクは何か? 薬を飲む決断をする前にぜひ考えてみてください。

そして僕自身を含む製薬会社で働く者は、薬ができることの限界をわきまえ、もっと謙虚に新薬の研究・開発に関わるべきと思います。

薬の安全性研究について

僕は30年間ずっと製薬会社で新薬の安全性の研究に従事してきた研究者です。トキシコロジスト(毒性学者)とも呼ばれる研究者です。製薬会社のトキシコロジストの仕事は、新たな治療薬候補が、ヒトで実際に使用される前に、十分に安全であることを細胞・組織や実験動物で確認することです。また、ヒトに使用される臨床試験の段階になっても、ヒトでは確認しきれない詳細な安全性を検証する研究を、厳しいガイドラインに沿って行っていきます。これまでになかった画期的な治療薬を作り、待っている患者さんにその新薬を届けるため、新薬の研究・開発に関われることは、とてもやりがいのあることです。そんな仕事ができて幸せだと感じます。しかし、現代のあまりにも薬漬けになってしまった社会を見ると、自分がやってきたことは本当に世の中のためになってきたのだろうか?と思い悩んでしまうことがあります。新薬の安全性に関わってきた研究者だからこそ、自分の大切な人には、飲ませたくない薬、使い方に気をつけてほしい薬がたくさんあります。

製薬会社、そこで働く研究者はもっと謙虚になるべき!

僕のいる製薬業界は、儲かる薬を作り続け、莫大な利益を得ていると思われています。確かにそう思われても仕方ありません。患者さんがある病気と診断されると、医者はその適応症に合致した薬を処方します。まるで、その病気を治すには、その薬を飲むのが一番の治療法であるかのように、さらには、薬を飲むこと以外に治療法はないかのように、薬を処方します。「あの先生は、病気になって診てもらいに行くと、すぐに薬をたくさん出してくれるから、とても良い先生だ」などと言っている患者さんも多いのではないでしょうか? でも、病気を治している本当の立役者は、ほとんどの場合、我々の体自身が持っている自然治癒力です。薬ではありません。薬は、この我々の体が持っている自然治癒力をほんの少しサポートしているに過ぎないか、ほとんど何の役にも立ってないと言ってよいでしょう。使い方を誤れば、我々の体の大切な自然治癒力を、薬が邪魔してしまっている場合もあるかもしれません。製薬会社、そして製薬会社で働く我々研究者は、もっと謙虚にならなければならないと思います。薬ができることは本当に限られていること、本当に役に立つ薬の使用の方法も、現状のような何でもかんでも薬に頼ればよいというものではなく、よりずっと限られていることを、真摯に受け止め、透明性をもって伝えていかなければならないと思います。

現代病のほとんどは不自然な生活習慣が招いたもの

現代病と呼ばれるほとんどのもの、がん、心臓病、高血圧、認知症、アレルギー、自己免疫疾患などの根本原因は、本来の我々が持っていたものとはまるでかけ離れてしまった不自然な生活習慣が招いたものです。今たくさんの研究者が指摘するようになったように、人類の長い進化の歴史から見ると、まばたきのような一瞬の間に、超劇的な生活習慣の変化が起こってしまい、それによって体が適応できず、悲鳴を上げた結果、起こってしまったのが現代病です。

文明人の我々から見ると、農耕文化は、先史時代から途方もなく長く続いてきたものです。しかし、人類の数百万年に及ぶ進化の歴史から大局的にみると、数百万年に及んだ狩猟・採取の歴史に比べ、1万年に満たない農耕文化で穀物主体の食生活になったのは、人類史上の数百分の一というほんの最近、一瞬にして起こった劇的な変化でしょう。この農耕文化による穀物への依存増加という食生活の変化も、長い進化の歴史から見れば、超短期間に起こった劇的な変化です。この食生活の変化に体の進化が追いつけておらず、さまざまな不都合が起こって、さまざまな病気を招いています。

さらに、近年、100年にも満たない超短期間の間に、さらに劇的な生活習慣の変化が起こりました。加工食品、食品添加物、農薬、抗生物質、医薬品であふれた食生活、睡眠時間を削って、座り続けてテレビを見たり、仕事をしたりという生活習慣の変化は、とてつもなく長い人類の進化の歴史から見たら、超急激、且つ、劇的な変化です。僕たちの体が、人類史上これまで経験したこともない超不自然な生活習慣にあまりにも急に暴露され、とんでもない混乱が起き、悲鳴を上げていることが容易に想像できるでしょう。その挙句の果てに、それぞれの人によって異なる形で、様々な形で現代病として現れてくるのでしょう。

食品業界が、便利さを追求し、人の味覚をさらに満たそうと、食生活を劇的に変化させ、現代病を拡大させ、製薬業界が、その現代病の症状だけを手っ取り早く軽減させる薬を開発し、利益のみを追求していくという、存在悪のスパイラルができてしまっています。

食生活を中心とした生活習慣の改善が治療の第一選択肢! 薬は補助的・一時的に使用するだけのもの

病気を、進化論的に見て考えてみると、本当の治療の第一選択肢は、食生活を中心とした生活習慣の改善だと分かります。これまでとてつもなく長い時間をかけて、生活習慣に適合しながら進化してきた人類の体に、あまりにも急激に、これまで体験したことのない不自然な生活習慣(特に食習慣)が襲いかかり、体が悲鳴を上げて、その挙句の果てに病気になってしまっているのです。ある人は、免疫系がおかしくなり、アトピー、アレルギー、喘息といった症状を起こしてしまいます。またある人は、代謝機能がおかしくなり、糖尿病、高血圧、高脂血症などを起こします。また別のある人は、精神機能に影響が及び、鬱(うつ)や認知症を発症してしまいます。様々な形で体は悲鳴を上げていますが、その悲鳴だけを手っ取り早く抑え込む薬を飲むことが、抜本的な解決法になると思えるでしょうか? もし、体の悲鳴の形が何であれ、体に起こっている不都合の根本的な原因となっているものが、人類の進化の歴史に全く相いれない不自然な生活習慣だとしたら、この不自然な生活習慣をできるだけ自然なものに改善していくことこそが、真の治療の第一選択肢と思いませんか?

製薬会社に働き、そこから給料をもらっている僕が言うのもおかしいですが、病気になって薬を処方されそうになっても、薬を飲む前に、どうして自分の体は悲鳴を上げたのか? 頑張って耐えてきた体が、何に耐え切れなくなって、病気という形で悲鳴を上げたのか? これまで頑張ってきた自分の体に対して、真摯に感謝し、向き合った上で、食生活、運動、睡眠など、自分にまずできることを考えてみるのが大切だと思います。

薬は絶体絶命状態から逃れるために一時しのぎで短期間使用するもの 長期的に使用する薬は、そのリスクとベネフィットを考えよう!

製薬会社で新薬の研究・開発に携わってきたものとして、薬が全く不要とは決して思いません。たとえ、不自然な生活習慣が招いた現代病だとしても、時間をかけて生活習慣を改善している間に、体が持たずに死んでしまうような状態になってしまっていたら、やはり短期的に一時しのぎ的に薬に頼ることは必要になります。様々なケースがあるので一般論では語れませんが、ステージ4の進行がんに侵されていることが分かった時点では、体はもう悲鳴を上げすぎていて、いくらその時点から生活習慣を改善しても、もう手遅れかもしれません。そんな緊急の絶体絶命状態の時に、短期的にがんを消滅させてくれる、あるいは、進行をとめてくれるがん治療薬があれば、その患者さんにとっては、最後に残されたたった一つの治療法の選択肢となります。喘息発作で、呼吸停止で死亡してしまうかもしれない緊急状態の際には、生活習慣の改善などとは言ってられません。気管支を拡張させ、とりあえず患者が死なない対応を取るために、吸入ステロイドのような薬は必須です。体がもう耐えきれなくなってしまった場合に、体の自然治癒力が働くことができるようになるまで、何とか体を持たせるのを助ける一時しのぎのサポートを薬は担うことができるのです。

一方、長期間使用する可能性のある薬は要注意です。本当にその薬が病気の根本解決になっているか? 長い間使用することで体にさらなる不具合を起こさないか? ただ、医者に処方された薬を何も考えずに飲んでしまう前に真剣に自分の体と向き合って考えてみるべきです。

例えば、骨粗しょう症と診断されると、治療薬の第一選択肢としてビスフォスフォネート製剤というものが処方されます。女性ですと、40代、50代という比較的若い時期に、骨密度が低いために骨粗しょう症と診断され、ビスフォスフォネート製剤を処方される場合もあります。いったん処方されると、死ぬまで骨粗しょう症の進行を抑えるために、このビスフォスフォネート製剤を飲み続けなくてはならないことが前提で処方されます。場合によっては、30年、40年、50年と長期間ビスフォスフォネート製剤を飲み続けることになるわけです。

骨の新陳代謝は、古い骨を削る細胞である破骨細胞と新しい骨を作る骨芽細胞がタッグを組んで共同作業で行われます。舗装道路の修繕工事では、まず古くなったアスファルトを削ってから、新たなアスファルトを敷きますが、それと同じように、まず古くなった骨を削ってから、新たな骨を加えるのです。そのようにして骨の新陳代謝が維持されるわけです。加齢とともにこのバランスが崩れ、破骨細胞が骨を削るペースに、骨芽細胞が新たな骨を作る作業が追いつかなくなると、骨量が減少して、骨がもろくなってしまい、骨粗しょう症になってしまいます。ビスフォスフォネート製剤は細胞を殺す毒のようなものです。骨に沈着する性質があるので、薬として飲むと、この毒が骨に沈着します。骨を食べて古い骨を削る作業を担うのが破骨細胞なので、破骨細胞が骨に沈着したビスフォスフォネート製剤の毒を骨と一緒に食べて細胞内に飲み込み、その毒で死んでしまいます。骨を削る働きの破骨細胞を殺して骨量の減少を食い止めようとするのが、骨粗しょう症治療薬であるビスフォスフォネート製剤のメカニズムです。

ビスフォスフォネート製剤は、骨を削る役割の破骨細胞を殺すので、骨が削られることがなくなり、骨量は減らなくなります。しかし、古い骨を削っていた破骨細胞が死んでいなくなってしまうので、いくら骨量の減少は、抑えられたとしても、残った骨はずっと古いままです。骨の新陳代謝を止めてしまうのです。かなり年を取ってから、転倒して骨折して寝たきりになってしまうことを防ぐために、このビスフォスフォネートを使うことは仕方ありません。しかし、40代、50代の女性が、この薬を今後一生飲み続け、何十年にも渡り、骨の新陳代謝を止めてしまうことを想像すると、恐ろしい気がしませんか? 僕の大切な人が、医者にこの薬を若いうちから飲むように進められたら、僕は反対するでしょう。薬を飲むことを治療の第一選択肢とはしません。骨形成に重要な、カルシウムの豊富な野菜、シーフードを十分とらずに、骨粗しょう症を促すような糖質過多、加工食品に頼った食生活をしてこなかったか? 骨形成を刺激するような運動をしっかりやっているか? 骨形成に重要なビタミンDの活性化を促す日光を十分浴びているか? 骨形成に重要な質の良い睡眠を十分とっているか? 食事・運動・睡眠をしっかり見直して、それらからできる生活習慣の改善を治療の第一選択肢とします。

ビスフォスフォネート製剤には、顎骨壊死という恐ろしい副作用があります。骨粗しょう症治療としてビスフォスフォネート製剤を飲んでいる患者さんが、歯周病となり歯科手術を受けたりすると、顎の骨で新たな骨形成が必要となります。しかし、ビスフォスフォネート製剤の使用により骨の新陳代謝が止まってしまっているため、顎の骨が急に起こった歯科手術の後の修復作業を行うことができず、死んで行ったり、細菌感染してしまうのです。

これまで薬の安全性研究に携わってきた研究者だからこそ、長期間使用することになる薬は、始める前に、本当に生活習慣でまず改善できることはないかを考えてほしいのです。その薬が体にどのように作用するかを考えて、長期的に使用する際のリスクを真剣に考えてほしいのです。

製薬会社は、利益を追求します。できるだけたくさんの患者さんに処方できる薬、長期間にわたって処方される薬が、大きな利益を売るため、研究・開発の中心に起きがちです。でも、ほとんどの病気の原因は、現代の不自然な生活習慣が招いたものであるなら、病気として現れてきた症状を消そうとするだけの薬ではなく、その原因となった不自然な生活習慣を改善することこそが治療の第一選択肢です。製薬会社で新薬を世に出すことに関わっている人間として、本当に患者さんのためになる薬に取り組み、そしてそれを本当に正しく使う方法をきちんと伝えていける研究者でいたいと思います。





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