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独断力 たくさん集まればいいってもんじゃない

どんな仕事でも大勢で集まってアイディアを出し合うブレーンストーミングの機会があると思う。特に僕が20年間働いてきたアメリカではそんな機会が多い。臆することなく自分の意見を主張することが良しとされるアメリカの仕事文化にはとても合っている方法だ。しかし、そんなブレーンストーミングがとても良く機能する場合と、まったく機能せず時間の無駄に終わる場合がある。

大勢でアイディアを出し合えば本当に最高のものが出来上がるのか?

大勢が集まってアイディアを出すゼロベースからのブレーンストーミングは、スタートアップで、ほとんど何もないところからおおよそのプロジェクトのゴールを決める時などにはとても機能する。様々な部署の代表が集まって、それぞれの部署に都合の良い意見を言いたい放題出し合うと、部門間の事情が見えてくる。ゴールの方向性を定めていくにはとても有効な方法だ。

プロジェクトに大きな問題が起こり、誰もがどのように解決してよいかわからず凍りついてしまった場合にも役立つ。とにかくブレーンストーミングの機会を設ける。そして、言いたい放題、意見を出し合う。議論の中身は大した問題ではない。慣性の法則で、動いている物体をさらに加速させるより、止まっている物体を初めて動かす時により大きなエネルギーが必要なように、一旦、止まってしまったプロジェクトを再起動するときも莫大なエネルギーが必要だ。ブレーンストーミングの内容よりも、やったという事自体が止まってしまったプロジェクトをとにかく始動させるカンフル剤となる。

ただし、そんな大勢で集まって行うブレーンストーミングも、具体的なアイディアを出そうというところまで踏み込んでいくと、たちの悪いものになる変貌する可能性があるから要注意だ。僕のこれまでの経験から、大切にしている教えは、「たくさん集まれば良いアイディアが出るってもんじゃない。専門的なことに関しては独断力の方が重要だ」ということだ。

僕は、特定の専門的な分野で、大勢で集まってゼロからブレーンストーミングをやり、先鋭的なアイディアが出たことをほとんど経験したことがない。専門性が高くなれば高くなるほど、参加者の知識レベルに大きな差が生まれる。参加者の知識レベルがバラバラの状態で、専門性の高いことでブレーンストーミングをやるととんでもないことになる。知識レベルが低いのに声の大きい参加者がいれば、その者によって議論が的はずれな方向にずれていってしまう。知識レベルが高い人が出した良いアイディアが、知識レベルの低い参加者によって平均的なレベルのアイディアに落とされてしまう。また、ブレーンストーミングをやった段階では一見素晴らしいアイデアが出たように見えても、その後じっくり精査するととんでもない欠陥が見つかることもある。基礎知識や重要な一次情報もない状態でゼロから思いつきでブレーンストーミングしているだけなので穴だらけなのだ。このような状況でのブレーンストーミングは、自分がその専門分野の中心にいる場合は、やらないように徹底的に阻止する。そして、自分が専門分野の外にいる場合には、時間の無駄に終わる生産性のないものだから関わらないようにしている。

独断力

専門分野に関して先鋭的なアイディアを出そうという時には、いきなり大勢でのブレーンストーミングをするのは時間の無駄だ。ひとりのリーダーを決めて、そのリーダーが独断力を駆使して究極的に考え抜いたものを土台にして進めるべきだ。僕が専門分野の中心にいてリーダーを務める場合、ひとりの時間をしっかり取って独断力で考え抜いた原案を作り上げてから、議論の舞台に出る。いきなり大勢での議論に持ち込まず、1対1あるいは少人数で根回しする場合もある。各専門分野の視点から突っ込んでもらいアイディアにさらに磨きをかけるのだ。自分の専門以外で別の者がリーダーを務める場合は、そのリーダーが作り上げた原案に、自分の専門分野の視点から容赦なくツッコミを入れて、リーダーに原案をさらに磨いてもらう。

こうした土台ができて、それをサポートするデータやその他の一次資料も揃った段階で、複数の参加者を呼んでブレーンストーミングをするのは、ゼロベースでブレーンストーミングをするのとは雲泥の差がある。自分の原案に固執するのではなく、その議論の場で突っ込まれたことでアイディアに更に磨きがかかる。全く考えもしなかった目からウロコの視点からのコメントで、数段階上のアイディアに次元上昇することだって起こるかもしれない。独断力で作られた原案とそれを支えるデータ・情報が揃った上での真剣勝負の議論で初めて先鋭的なアイディアは作られるのだ。

独断力はプロジェクト意思決定の時間短縮にもつながる。大勢で考える会議を何回も繰り返し、毎回、未消化・未解決に終わるといった状況を避けることができる。

そして何より独断力は、今後ますます進むジョブ型雇用でのプロフェッショナルに必須のスキルだ。



#大切にしている教え

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