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アメリカ超ジョブ型雇用で避けられない容赦ないレイオフ

僕はアメリカの製薬会社で働く日本人研究者です。2003年にアメリカに渡り、その後、いくつかの製薬会社を渡り歩いてきました。超ジョブ型雇用のアメリカ企業では、新しい人材を雇用する際、専門職の内容、求める人材の経験・学歴をとても具体的に提示します。採用された人は、その求められた専門的仕事を的確にこなすために採用されたのです。その仕事ができなかったら別の仕事に配置換えという選択肢はありません。できなかったらクビです。また、その仕事でいくらハイパフォーマンスを発揮しても、会社自体にその専門性を擁する仕事が無くなれば、その人の居場所はなくなります。このため超ジョブ型雇用のアメリカでは容赦ないレイオフが頻発します。これまで自分の大切な同僚が容赦ないレイオフに会うところを見てきたし、自分自身も経験しました。

会社の移転とともにレイオフ

僕がまだ日本の製薬会社から駐在員としてアメリカに来ていた時のことです。日本から来た少人数の駐在員と200名あまりのアメリカ現地社員が力を合わせ、アメリカでの初の自社開発新薬の承認を目指して楽しく働いていました。駐在して1年余りたちようやくアメリカでの仕事にも慣れてきた時に、突然、合併に伴いアメリカ支社がニュージャージー州からシカゴ郊外へ移転することとなりました。ほとんどの現地社員はシカゴへの異動のオファーはもらえず、数か月後の移転完了とともにレイオフとなりました。今までとても仲良く一丸となってプロジェクトを推進してきた駐在員とアメリカ現地社員の関係が一気に冷え込んでしまいました。駐在員のほとんどはそのまま自動的にシカゴに移動し、任期が終われば日本へ帰って元の部署に戻るだけです。現地社員は一生懸命プロジェクトのために仕事をしても数か月後にはニュージャージーオフィスは閉鎖され、会社を去るだけになってしまうのです。移転発表後、移転完了を待たずして、現地社員は次々と新たな転職先を見つけて去っていきました。

大きなマイルストン達成後の突然のレイオフ

僕が駐在員を辞めて、アメリカで仕事を見つけてずっと生きていくと決めた最初の会社でそれは起こりました。小さな100名足らずの会社でした。たったひとつの新薬プロジェクトの承認申請のために全社員一丸となって働いていました。僕は、アメリカ人の上司とたったふたりの小さな部署で承認申請のために忙しく働いていました。そして全社員一丸となって働いた甲斐あって、とても厳しいタイムラインの中、承認申請を達成できたのです。申請をしても、承認が認められるまでは、まだまだ長い道のりです。でも、とりあえず大きなマイルストンを達成したので、僕はしばらく帰っていなかった日本へ休暇をとって帰ることにしました。その休暇中に大きなレイオフが起こったのです。

僕の直属のアメリカ人の上司、そのさらに上のリサーチのトップ、さらに半数を超える社員が、承認申請達成直後にレイオフされてしまったのです。今後も新薬が承認されるまで仕事は続きます。しかし、これまでの申請準備と比べると、今後の仕事量は圧倒的に少なくなります。小さな会社が、これまで働いてくれた100名近くの全社員を雇用し続ける余裕はありませんでした。僕は、自分の上司や一緒に働いてきたたくさんの同僚を一気になくしました。しかも、それを日本でメールで知りました。

アメリカに戻り、オフィスに行くと、オフィスの雰囲気ま全く変わっていました。たくさんのオフィスが空きになっていました。空きになったオフィスには、たくさんの資料が雑多に残されたままになっており、レイオフが突然行われたことが分かりました。ある日の朝一番にひとりずつ突然呼び出され、通告され、そのまま個人の荷物をまとめて去ることになったようです。残った社員からは、ある人は泣き、ある人は怒りに震えて、ある人は怒号を飛ばして去っていったと聞きました。僕は、日本へ帰国していたため、その現場に居合わせずに幸運だったのかもしれないと思いました。

プロジェクトの終焉とともにレイオフ

僕は、休暇中に自分の直属の上司がレイオフされ、たった一人残され、会社のオフィスにいても仕事に手がつかず、今後どうすればよいのかとボーっとしていました。突然電話がかかり、それはレイオフされた上司でした。自分がレイオフされたにもかかわらず、残された僕を心配して電話をくれたのでした。そして「立場は変わったけど、俺たちはまだ友達だろ? 約束していたプロジェクト達成のお祝いを俺の家でやろう」と言ってくれました。僕は、そんな人格者の上司をもてて、うれしくて泣いてしまいました。

僕はレイオフされずに、新薬の承認を勝ち取るまで会社に残ることになりました。しかし、その約一年後、新薬は承認されず、さらなる追加臨床試験が必要との回答を得てしまいました。会社は、このプロジェクトをこれ以上続ける余力はなく、プロジェクトは終焉を迎えることとなりました。そしてとうとう僕もプロジェクトの終焉とともにレイオフとなったのでした。


ジョブ型雇用で生き残るためにできること

超ジョブ型雇用のアメリカで生き残っていくために、どのようなことができるか?その後の転職の経験も踏まえて考えてみました。

自分の価値をいつも意識する

初めてレイオフされた時は、今後どうすればよいだろうと途方にくれました。しかも、慣れないアメリカで転職先など見つかるだろうかと。。。
しかし、結局は転職先は自分でもびっくりするくらい早く見つかりました。自分の専門性を磨き、きちんと実績を残し、それを転職候補先に自信をもって示すことができれば、興味を持ってくれる雇用先はあるものだと経験しました。その意味で、自分の職場における価値をいつも意識することが大切であると痛感しました。
1. 同じ部署の上司、同僚、部下から見た評価
2. プロジェクトで関わる他部署の人から見た評価
3. 社外の同業界の人から見た評価
を意識して、自分の専門家としての価値を磨くことが大切であると思います。

ブレない働き方をする

自分がレイオフされることになった時、自分から頼みに行く前に、元上司、さらに上の上司、同僚から、今後の転職先や転職方法などの情報をいっぱいいただくことができました。コミュニケーションの基本として、Clear (明確に)、Honest (正直に)、Polite (謙虚に)を貫くことにしていたので、一緒に働いてきた仲間と信頼関係を築く事ができていました。そのため、転職活動の際、仲間からいっぱい助けてもらうことができました。

ネットワーク

ジョブ型雇用で自分の価値を高めることが大切と言っても、仕事はひとりではできません。自分の価値の大きな部分が、どのように仲間と一緒に仕事をしていけるか?の能力です。転職活動の際にも、結局は自分一人だけの力で成し遂げられるものではなく、元同僚や上司に助けてもらうこともたくさん発生します。人材の流動が激しいアメリカだからこそ、レイオフされた戻同僚や、転職していった同僚などともLinkedInなどで繋がっておき、自分にとって重要な仲間とのネットワークを大切にしておくことが重要です。

ハイパフォーマンス

当然自分が本当にできたハイパフォーマンスをCV(履歴書・職務経歴書)に記載できれば、ジョブ型雇用ではたくさんの雇用先が興味を持ってくれます。どんなリーダーシップを発揮して、仲間にどのように感謝されたか?会社にどのように貢献できたか?を意識する。圧倒的ハイクォリティのプレゼンをして仲間の信頼を勝ち取る。などを意識して、ハイパフォーマンスを維持することはジョブ型雇用では必須です。

社外発表

自分の活動を社内だけにとどめず、それを積極的に社外に発信していくことがこれからはとても大切になってくると思っています。自分の達成した仕事を、社内だけの成果に留めず、もうひと頑張りして、それを学会発表や一般科学雑誌への論文投稿に持っていければ、自分の価値をさらに一段アップさせることができます。

会社の方から残ってほしいと言われる存在でいる

自分のパフォーマンスを俯瞰し、自分は、会社の方から、「去ってもらっては困る。残ってほしい。」と言ってもらえる存在かどうかを意識することで、上記のブレない働き方やハイパフォーマンスを維持することを常に見直して改善することができます。

いつでも転職できる体制でいる

いくら自分が全力を尽くしてハイパフォーマンスを維持し、会社に貢献しても、プロジェクトの進行に伴い、会社の中に自分の専門性を発揮できる仕事縮小していき、自分の居場所がなくなることもあります。自分の経験・知識・能力を生かして、新たな貢献先をいつでも見つけられると思える用意しておくことが心の余裕を持ち、さらに自分を成長させることにつながります。


それでもジョブ型雇用が必要

超ジョブ型雇用のアメリカで容赦ないレイオフを見てきたし、自分も体験しましたが、それでもジョブ型雇用は絶対に必要で、下記のような理由で、今後もさらに進化していくでしょう。

業界全体のレベルが上がる

アメリカの製薬会社で痛感することのひとつです。専門性の高い人材がある会社から別の会社へと次々と流動するので、様々なノウハウが新たに導入され、自然と製薬業界全体のレベルが上がり、画期的新薬が生まれやすくなっていると痛感します。大学を卒業してから定年退職までひとつの会社だけで専門性を磨いている研究者がほとんどという会社と比べたら、レベルが格段に違ってしまっても不思議ではないでしょう。

各人の仕事満足度・充実度が高い

各人が自分の専門性を認められて雇用されるので、自分の「得意」「好き」が仕事になっています。当然、自分の仕事に誇りを持てるし、楽しく働くことができます。仕事が自分の夢と直結しています。

仕事をこなすこと自体が自己成長につながる

毎日する仕事自体が未来の自分の知識・経験・能力の糧となるわけなので、仕事=自己成長となります。さらに仕事で常に発生するストレス・プレッシャーが健全なものであれな、自己成長を飛躍的に加速させることが期待できます。

レイオフ・転職自体が飛躍的な次元上昇を導く

レイオフ自体は試練でしたが、現時点からさかのぼってみると、あのレイオフは自分にはなくてはならないものでした。レイオフがあったから、自分は日本の製薬会社から純アメリカの製薬会社に転職することができました。それをきっかけに、駐在員で2~3年アメリカを経験するという夢から、アメリカに永住して純アメリカ企業で働き続けるという夢に、自分の夢も大きく次元上昇することができました。

ジョブ型雇用からプロジェクト型雇用へさらに進化していく

ジョブ型雇用はこれからもさらに進化し、雇用主と雇用者という関係から、各人が専門性を会社に売るフリーランサーのような立場に変わりつつあると思います。各人が、その専門性を武器に最も貢献できる時期に、プロジェクトに、会社に所属し、それが終われば、次に活躍できる場に移るという、ジョブ型からさらに進化したプロジェクト型雇用と言えるようなものになっていくのでは期待しています。










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