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【読書感想文】凪良ゆう『春に翔ぶ』

思い通りに生きるとは
優しさの意味とは…。

経済的な理由で好きな研究を諦め
したくないことをする毎日を
苦しくはない、楽しくもない
どちらでもない
自分はもう翔べないという北原草介

自分は娼婦のようだという明日見菜々
菜々の生家は大きな病院で
彼女は婿を取って病院を継ぐのが
大命題でありそれ故菜々の日々は
苦渋に満ちていた

北原は菜々の通う高校の教師で
教室で座る菜々に
自分を律する強さにあふれた
孤独な姿を見る

菜々は翔ぶ夢を見ると言う
たぶんそれは
父親に抑えつけられるほど
縛られるほど
高く自由に翔ぼうとする
菜々の本当の姿のような気がする

敦は菜々の恋人でスノーボードの選手だ
北原と菜々の共通点は
敦のスノーボードを見て
解放された気分になることだ
北原はいろいろなことを諦め飲み込んで
もう心の底から高揚する事なんて
ないと思っていた
けれど自分の中にまだこんなに瑞々しい感情が
残っていたと気づくのだった。

菜々は敦の子を身ごもっていた
そして産みたいという。
それは許されることではなかった
北原は彼女を放っておけない
心配であると同時に
自分と彼女を重ね合わせていた

彼女はまだ間に合う
まだ羽ばたける
彼女を守ることで
自分の何かが救われる気がする
自分の手には彼女と子供が共に歩める
救いのカードが一枚あり
けれどそれは同時に北原の人生を壊す
カードでもあった。

敦が菜々に伸ばしかけた手を引っ込めたのを
見てしまった北原はそのカードを切ってしまう
その瞬間自分はそれまでの人生のレールを外れた
ことを知る

その人が一体どういう人間なのかは
土壇場にならないと分からない。
穏やかで理性的だと言われてきた北原は
自分が感情的で向こう見ずだったと気づく
それは初めて自らの意志で誰にも忖度せず
自らの生き方を選んだと言う事だった。
それは愚かな選択だったのかもしれない
でもそれがぼくという人間だったのだと
北原は言うのだ。

菜々は娘は死産だったと聞かされ
姿を消す

北原は菜々の娘を引き取り
結と名付ける
北原の子育ては一般的ではなかったが
これが自分の育児だと子育てに歓びを見出す
閉ざされたと思っていた研究の道に
思いもよらないルートで戻ることが
出来たと感じるのだ

北原は結を育てることで
自分を知る。
生きてると感じられたのでは
ないだろうか。

菜々は
敦は
思い通りに生きてるのだろうか。
北原は知らず知らずのうちに
二人から大切な何かを
奪ったのではないだろうか。

それはかつての北原のように

北原の親のように。

#読書感想文

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