なぜSpotifyはOKRをやめた?アジャイル組織に最適な目標管理「Spotify Rhythm」とは
こんにちは、加藤章太朗(@katoshow)です。
前回のnoteでは、自律分散型の組織の1形態である「アジャイル組織」について説明しました。
今回は、アジャイル組織の代表Spotifyが採用する目標管理のフレームワーク(戦略フレームワーク)についてお伝えします。
Spotifyでは、2014年まではOKRを採用していました。Googleなどで大きな成果を上げたOKRは、日本でも昨今導入が進んでいます。しかし、SpotifyはOKRをやめ、Spotify Rhythm(スポティファイリズム)という独自の目標管理フレームワーク(戦略フレームワーク)に移行しました。
SpotifyがなぜOKRをやめたのか?そしてSpotify Rhythmとはどのようなものか?について説明していきます。
※本記事は2016年時点のSpotify HR Blogを参照しており、Spotifyの最新状況を反映しているものではありません。
SpotifyがOKRをやめた理由
OKRについては、こちらの記事を参照していただきたいのですが、以下が優れた点だと思います。
この図のように、会社の目標から個人の目標までが、アラインされます(連動します)。また、ObjectivesやKey Resultsの個数(3〜5個など)が決まっており、重要なことにフォーカスする仕組みとなっています。また、OKRを設定する際は、上から「この目標を追ってくれ」と落とすのではなく、会社やチームの目標を提示した上で、そこに紐づく個人の目標をメンバーに自律的に考えてもらいます。
OKRがしっかりと機能すれば、組織の力が集中され、とてもパワフルな結果に繋がります。
しかし、2014年にSpotifyはOKRの採用をやめました。
SpotifyのHR Blogによると、OKRはCompany(Corporate) Levelの方向性をわかりやすく提示する、という点では機能していたそうです。
しかしながら、Spotifyはアジャイル組織です(こちらの記事を参照)。アジャイル組織は、スピーディに変化していく組織なので、Company LevelのOKRも機敏に変わります。
その変化にあわせ、個人OKRを設定することが大きなコストになっていたようです。
更に言えば、Spotifyでは個人OKRとは別に毎月仕事の「優先順位」を設定しており、優れた個人OKRは、「優先順位」と変わらないものとなっていたようです。
弊社でもアジャイル組織に近しいホラクラシー組織を採用し、OKRで目標を設定しているので、個人OKRの設定コストが大きいことは実感があります。
OKRが悪いと言うよりは「アジャイル組織のように変化に適応していく組織だと、OKRは少し重すぎる」という理由でやめたようです。
Spotify Rhythmの設計思想
さて、OKRをやめたSpotifyはどのような目標管理をしているのでしょうか。
彼らは、「とても速いスピードで成長したり変化するビジネスの場合、HowよりもWhyが重要だ」と考えました。
会社レベルでは、細かいHowを提示せず、どこに行くか?なぜそこに行くのか?というWhyを「優先順位」という形で設定し全員に共有する。そして、その優先順位を見て、チームや個人がHowを考え、Howの優先順位を設定する、という設計思想にたどり着きました。
(※)Spotify Engineering Culture (by Henrik Kniberg)を参考に作成
上の図で言うと、右上の象限になるのですが、会社レベルでは「川を渡る。なぜならば〜」というWhyを伝え、そこに対して「どう渡るか?」というHowは、自律的に考えてもらうという設計思想です。
以下のOKRの特徴は大切にしつつも、より軽量的に運用できる形を目指しました。
Spotify Rhythmの全体像
以下がSpotify Rhythmの全体像です。なお、Spotifyは規模が大きいので、理解しやすいよう簡略化しております。
組織の規模に応じて、項目には何段階かステップが入ります。また、期間、見直し頻度、作成者もチューニング要素です。
まず、Company Beliefsという中長期戦略を作成します。そしてそれにひもづけて、North Star & 2years Goalという2年間の目標にブレークダウンします。これは、野心的で計測可能であることが求められます。
North Star & 2years Goalにひもづけて、会社レベルで何を優先するか?というBetを決めます。アジャイル組織の場合、Tribeという単位で組織が構成されるのですが、1つのTribeは150人以下の規模です。
そのため、150人以下の会社だとCompany=Tribeとなり、North Star & 2years GoalにひもづいたTribe Betが設定されます。
Betの設定では、優先順位を明確にする必要があり、優先度①、②、③はそれぞれ1つにしなければなりません。
また、一気に着手をするのではなく、以下のように期間に対して適切な数の優先事項を設定し、今の優先事項に集中します。
そして、TribeのBetをもとに、各Squadが同じようにSquadのBetを決めます。
例えば、あるケースでは、Tribe Betは3ヶ月毎に見直され、優先順位が変わります。そして、Tribe BetにもとづきSquad Betは1.5ヶ月毎に見直されます。
なぜそれを優先するのか?(Why)を明示にする
先程、変化が激しいビジネスでは、Howよりも「どこに行くのか?それはなぜか?」というWhyを提示することが重要だと話しました。その考えに基づき、優先事項であるBetの1つ1つには、2ページの説明が付与されます。
1つ目のページには、達成指標や鍵となるステークホルダーなどの情報が記載されます。2つ目のページには、DIBBというなぜ優先事項なのか?を示す情報が記載されます。
Spotify RhythmとOKRの比較
ここまで見てきたように、Spotify RhythmはOKRの特徴であるアライン、フォーカス、自律を保ちつつも、より柔軟性の高いフレームとなっているように思います。
Spotify Rhythmの場合は、上位の優先順位を見ながら、自分たちの優先順位を決める形式であり、アラインが意識されつつも、OKRより自由度が高い印象があります。
以下、Spotify RhythmとOKRとの比較です。
以上、OKRの良い部分を踏襲しながらもより柔軟でシンプルなSpotify Rhythmを紹介しました。
今後も自律分散型の組織やアジャイル組織について発信していきます。
Twitter:@katoshow
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