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マッキンゼー、BCGも注目。自律分散型の「アジャイル組織」とは

こんにちは、コードシティ株式会社の加藤章太朗(@katoshow)です。

前回のnoteでは、自律分散型の組織に移行する上での失敗や成功の鍵を説明いたしました。

今回は、自律分散型の組織の1つの形態である「アジャイル組織」について説明します。SpotifyなどのIT企業やINGグループの巨大金融企業も取り入れており、マッキンゼー・アンド・カンパニーやボストン・コンサルティング・グループもかなり研究を進めています。

アジャイル組織とは

アジャイル組織とは、ソフトウェア開発で取り入られているアジャイル開発の概念を、開発組織だけではなく組織全体に適応する考え方です。

20200325_アジャイル組織のコンサルティング_-_Google_スライド

従来、ソフトウェア開発の世界では、ウォーターフォール開発という考え方が主流でした。最初にすべての機能を設計・計画し、計画に従って実装をし、テストをする開発手法です。

完璧な設計や計画が求められ、リリースまでに長い期間がかかります。例えば、1ヶ月間で要件定義し、3ヶ月間で設計をし、6ヶ月間実装し、2ヶ月間テストをし、12ヶ月後にリリースするというようなイメージです。

アジャイル組織_-_Google_スライド

確実性の高い開発手法ではあるものの、変化が激しい世の中では、1年前に考えていたことが陳腐化しており「リリースしてはみたものの全く顧客に受け入れられない」という可能性があります。

これに対し、アジャイル開発とは、小さな単位で設計・実装・テスト・リリースを繰り返す開発手法です。

例えば、ある特定のコア機能に絞って、2週間単位でリリースをしていくような開発手法です。アジャイル開発では単純計算で年間に26回のリリースが行われます。

アジャイル組織_-_Google_スライド

アジャイルとは「素早い」「機敏な」という意味ですが、小さくても良いので素早く顧客に価値を届け、顧客のニーズを学習することを重視します。

全社戦略_ver1_0_-_Google_スライド

アジャイル組織は、このアジャイル開発の考え方や働き方を開発チームだけでなく組織全体にスケールさせます。これをAgile at scaleと呼びます。

結果として、組織のすべての領域で顧客に対し素早く価値を届け、学習を繰り返すようになります。

なぜアジャイル組織が求められているか

マッキンゼー・アンド・カンパニーが行っている「McKinsey Global Survey(ビジネスリーダー2,500人へのアンケート)」によると、回答者の75%が「組織のアジャイル化」を優先事項のトップ3に挙げたそうです(*1)。

(*1)The five trademarks of agile organizationsより

アジャイル組織への移行が求められるようになったのは、変化が激しい競争環境になったことが最も大きな理由です。(自律分散型の組織が必要とされる背景と同様)

1900年代初頭から広がった中央集権型の組織は、フレデリック・テイラー氏が提唱した「科学的管理法」が起源と言われていますが、現代より100年以上前の「変化が少ない世の中」を前提に設計されています。

20200305__「フラットでルールが少ない組織」はストレス地獄。自律分散型の組織の正しい創り方_-_Google_スライド

中央集権型の組織も素晴らしい組織形態ではありますが、100年を経て企業を取り巻く競争環境が大きく変わっています。特に破壊的テクノロジーの出現により、ある業界の競争のルールが一気に変わるといったことが起きています。例えば、Uberが自動車業界に現れ、Mobilityの概念が変わってしまうなどの事象です。

実際、世界の時価総額の上位は、短い期間で大きく入れ替わるようになりました。2008年と2018年の世界の時価総額トップ10の比較が以下です。

全社戦略_ver1_0_-_Google_スライド

このような世の中では、変化に適応できない企業は生き残ることが難しく、組織の柔軟性や変化への適応力が求められるようになっているのです。

全社戦略_ver1_0_-_Google_スライド

中央集権型組織と全く異なるSquad単位の組織形態

アジャイル組織は、中央集権型組織のピラミッド構造とは全く異なる組織形態を取ります。

以下、アジャイル組織の例としてよく取り上げられるSpotifyやINGグループが採用していた組織形態です。(現時点ではこれらの組織は他の形態を取っている可能性があります。)INGグループはオランダ発祥の金融機関で、従業員50,000人ほどの規模です。

20200325_アジャイル組織のコンサルティング_-_Google_スライド

Squad(分隊)というチームを基本単位として運営が行われます。Squadの特徴は以下です。

20200325_アジャイル組織のコンサルティング_-_Google_スライド

<Squad(分隊)の特徴>
・9人以下のスタートアップのような雰囲気のチーム
・Tribeの優先順位を鑑みて、目的、権限、責務が設定される
・単独で顧客に価値を提供できる「End to Endの単位」で区切る
・プロダクトオーナーが設置され、仕事の優先順位付け、プロジェクトマネジメントを行う

Squadは、自分たちだけで、アイデアを考え顧客に価値を届けるため、エンジニア、デザイナー、マーケター、営業、など様々な能力を持ったメンバーがアサインされます。機能別の縦割りのチームではないというのがポイントです。例えば、以下ではSquad毎にスマートフォンとPCに領域を分けています。自分達で単独で意思決定できる範囲で分割することがポイントです。

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そして、Squadがいくつも集まり、Tribe(部隊)となります。Tribeの特徴は以下です。

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<Tribe(部隊)の特徴>
・Squadの集合をTribe(部隊)と言う。
・最大150人の規模。
・Chapter、Tribe Lead、Agile Coachという役割を設置し、アジャイル型のワークスタイルが成り立つよう支援している。

Tribeの規模の目安は150人です。これは、ダンバー数という、人間が安定的な関係を維持できる数を元に決められています。

Tribe Leadは、Tribe内の優先順位を決めたり、予算をSquadに分配します。また、他のTribeとの情報共有を行います。

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Agile CoachというSquadが高いパフォーマンスを上げることを手助けする役割も存在します。

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また、TribeやSquadの他に、ChapterというSquadを横断した職種ごとのグループがあり、ナレッジの共有を行います。Chapter Leadは、各メンバーのコーチングやパフォーマンス・マネジメントを行います。

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アジャイル組織に移行するための5つのポイント

アジャイル組織に移行する上で重要なポイントは様々ですが、特に重要なポイントを挙げます。なお、これらは自律分散型の組織に移行するためのポイントとかぶります。

<アジャイル組織に移行するための5つのポイント>
1.変化に強い組織への移行の意思決定
2.素早い学習サイクル
3.End to Endの単位での組織設計
4.パーパス(目的)ドリブン
5.ピープルマネジメント

1.組織形態の変更の意思決定

アジャイル組織は、変化への適応を前提として設計される組織であり、中央集権型の組織と組織形態や運営哲学が異なります。

中央集権型の組織形態のまま、権限を分散したり、アジャイル型の仕事の進め方を一部取り入れてもあまりうまくいかないようです。

中央集権型の組織から、組織形態を変更するトップの意思決定が必要です。

2.素早い学習サイクル

アジャイル組織では、変化に適応するために学習を重視します。壮大で完璧な計画をするのではなく、コアの価値を素早く顧客に届け学習する「俊敏性の高いアジャイル型の仕事」が求められます。

開発の領域だけでなく、バックオフィスなども組織のすべてに、学習を重視するアジャイル型の仕事を浸透させる努力が必要です。

なお、バックオフィスなど従業員にサービスを提供するチームの場合は、顧客=従業員と捉えると良いと思います。

3.End to Endの単位での組織設計

End to Endとは、アイデアを考え顧客に価値を届けるまでの最初から最後までという意味です。

組織として、素早い学習サイクルを担保するためには、アイデアから価値提供までを自律的に判断し、許可を取らずに迅速に実行できることが重要です。そのため、Squadなど組織構造を設計する際に、End to Endを意識しなければなりません。そして、各Squadには目的、権限、責務が設定されます。

End to Endで分割するので、チームにはエンジニア、デザイナー、マーケター、営業、など価値を届けるために必要なメンバーがアサインされます。

4.パーパス(目的)ドリブン

End to Endで分割されたチームが自律的に動くためには、パーパス(目的)を明確にし、パーパスドリブンで動くことがとても重要です。

組織全体の目的から、各Tribeの目的が設定され、それを元にSquadの目的が設定される。目的が曖昧だと、各Squadが自律的に動けなくなってしまいます。

そのため、ミッションやビジョンが神棚に置かれている状態を脱却し、会社のメンバーが熱意を持って前進できるような魂のこもったミッションやビジョンが策定・運用されることが求められます。

5.ピープルマネジメント

アジャイル組織は、従来の中央集権型の組織のように上司がマネジメントをする、という組織ではありません。

その代わり、Chapter leadがコーチングやパフォーマンス・マネジメントを行います。これは、メンバーの成功にコミットし、立て直しをする「ピープルマネジメント」と言えるでしょう。

人が自律的に動くためには、必ず立て直しをする役割が必要です。

アジャイル組織への移行プロセス

アジャイル組織に移行する上では、パイロットチームでの施行後に組織にスケールさせることを繰り返していきます。

アジャイル組織_-_Google_スライド

弊社RELATIONSが自律分散型の組織に移行する際も、上記プロセスを意識し、少しずつ組織に広げていきました。

中央集権型組織の権限分散との違い

中央集権型の組織形態での権限分散との大きな違いは、乱暴に言うと以下です。

中央集権型の組織:
 基本NGだが、許可を取ればOK
自律分散型の組織(アジャイル組織やホラクラシー):
 基本OKだが、明文化されている他の権限に触れるのはNG

中央集権型の組織で大きく権限分散するということもできると思いますが、多くの場合は「予算」の分配です。

予算以外の例えば「顧客に前例のない施策を実施する」といった時に単独で意思決定ができるか?と言えば難しいと思います。

また、予算についても分配されても「◯◯円以上は稟議が必要」といった形で利用に許可が必要な場合が多いかと思います。

このように、中央集権型の組織では「基本はNG」で「許可を取ればOK」という設計となっています。

これに対し、アジャイル組織やホラクラシーなどの自律分散型の組織では、「目的のためであれば何でもやって良い。ただし明文化されている他の領域の権限は侵さないでください。」という哲学が根底にあります。

つまり、自律分散型の組織では「基本はOK」で「明文化されている他の権限に触れるのはNG」という設計です。

これは「日本では国民が自由に行動ができる。ただし、明文化されている日本国憲法には抵触しないでください。」という私生活と同じ考え方になります。

アジャイル組織とホラクラシーの類似点

アジャイル組織とホラクラシーは、自律分散型の組織という点では同じであり、フレームワークの違いくらいとして捉えたほうがわかりやすいと思います。

アジャイル組織のTribeやSquadはホラクラシーのサークルやロールに似てます。

ホラクラシーの詳細についてはこちら。

どちらも、標準化されつつある組織運営のフレームワークなので、比較的取り入れやすいと思います。

今後も、組織や自律分散型の組織について発信していくので、もし良ければフォローお願いいたします!

Twitter:@katoshow

※参考ソース:
Spotify Rhythm - Agila Sverige.pptx
ING’s agile transformation

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