(人事視点)社内問題への対応プロセス
先日、知人から下記のようなご相談を頂いた。
(当たり障りの無いように少しデフォルメしています)
「今の職場でハラスメントのようなことがあって、上司に相談したのですが対応に不安があります。どうしたらいいですか?」
私は10年ほど人事として働いていたので、上記のような社内問題は、聞きなれた・・・というと語弊がありまくるけれど、一応に対応の経験があるので、簡単にプロセスでもまとめてみようかな。
①事案の発生
Aさんに対し、Bさんがハラスメント(と思われる)行為を行う
②事案の相談、報告
Aさん(被害者)から上司または人事に対して、①の事案についての相談がある
※被害者から上司、上司から人事という流れで連携される場合もある
③詳細内容の聴き取り
上司または人事(或いは両者)から被害者に対し、相談の詳細について聞き取りを行う
・いつ
・どのような状況で
・誰が
・どのような言動があったか
・どのような被害(物理的、精神的)があったか
・これまでに類似した事象があったか
・目撃者(証人)の有無
・証拠の有無
・どのような解決を望んでいるか
※単なる共有としたいのか、被疑者(Bさん)に対し何かしらの処分などを求めるのか、その他に就業上での配慮を求めるのかどうか
・関係者(被疑者、目撃者)への聞き取りを行うことの同意確認
・事実確認、対応方針が決定するまでの暫定措置についての確認
・面談内容に関する守秘義務についての確認
④事実確認、調査、聞き取り
被害者からの聞き取り内容を元にして、目撃者と被疑者に対し事実確認を行う。特に日時や言動について出来るだけ正確に確認する。
※事案の内容や状況によって、目撃者からの聞き取りを先に行う場合と、
被疑者への聞き取りを先に行う場合があります。
私の経験では、事案の内容が重い場合は目撃者への聞き取りを優先して行うことが多かった(証拠固め?)
※ハラスメント関連の事案については、2次被害などの発生を防ぐためにも、原則として情報の守秘に関する注意喚起を丁寧に行う。
⑤事実認定
被害者、被疑者、目撃者から得られた情報、その他に提出された証拠などを元に、実際に発生した事象、行為がどのようなものであったかを特定する。
※セクハラについては、目撃者がいない場合も多くあるため、基本的には被害者の証言が優先的に扱われることがある
⑥対応方針の決定
⑤で確認された事実について、就業規則に対しどのように抵触しているのか、またその程度(重要性、悪質性、影響)などを鑑みて、対応方針を決定する。
対応の大きなポイントとしては、懲戒処分とするかどうか。懲戒処分とする場合は処分内容をどのようにするか。
被害者が継続的に安心して働けるようにどのような配慮を行うか。
被疑者(加害者)に対して、更生のためにどのような指導、サポートを行うか。
※懲戒処分の内容については、企業内で類似案件に対する処分例と、一般的な処分例の双方を鑑みながら懲戒委員会にて決定する。(場合によっては社外弁護士などと相談して決定することがある)
⑦結果の共有及び処分内容の実施
被害者、被疑者に対して個別に調査結果と会社としての対応(処分)内容を伝える。
⑧定期的な経過観察
被害者に対し、その後の状況についてどうようのトラブルが発生していないか、或いは逆恨みのようなことが無いかを確認する。
加害者に対し、同様の問題行動が無いかを継続的な観察を行う。
■留意点
・安全第一
被害者が報復を受けたり、追加のハラスメントを受けることが無いように、勤務時間や勤務場所などの配慮を行う。
・情報管理
事案に関する情報が、関係の無い第3者に漏洩しないように最大限の留意が必要。
人事の基本スタンスとしては、全ての従業員が安心して継続的に働ける環境を維持すること。従って「○○さんがハラスメントをしたらしい」という情報は、事実かどうかに関わらず、社内関係においての悪影響を与えるリスクが大きい。
・バイアスの排除
事実確認が完了するまでは、実際に発生していた問題がどのようなものだったかが分からない。場合によっては、最初に相談をしてきた人(被害者)が、逆ハラスメントを行っていたというケースや、事実誤認というケースもありえる。
・一事不再理の原則への留意
一般的に社内の懲戒処分であっても、一事不再理の原則が適用されるため、二重処分を行うことが出来ないことを留意する。
例えば、ハラスメントを行った社員に対し、処分としての口頭注意を行った後に、事案の重要さが確認されたとしても、さらに重い処分に切り替えることが出来ない。従って安易に”処分”という言葉を使うべきではないし、誤認されるような対応をすべきではない。
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社内問題の対応について、ハラスメント事案であろうが、横領であろうが、基本的には上記のような流れで対応を進めていくことになる。
もちろん、事案の内容や影響範囲の大きさによって、社内の法務部門と相談しながら進めたり、社外弁護士と連携をすることなどもある。
忘れていけないポイントは2つ。
発生した事案が、就業規則のどこに抵触するかを確認すること。社会一般的に問題行動とされる内容だったとしても、就業規則に明確な定めがなければ、懲戒処分などを行うことが出来ないばかりか、会社側が安全配慮義務や監督責任を怠ったと判断されてしまうリスクも。
また、何かしらの処分を行う場合でも、基本的なスタンスとしては、従業員の雇用を守る(安心安全に働ける環境を維持する)ためであると考え、徒に重い処分を課そうとしたり、安易に懲戒解雇という判断をしないこと。(実際に懲戒解雇ができるケースはかなり限られている)
こんなところでしょうか。
被疑者とか証人とかっていう言葉から、刑事ドラマを連想したような方もいるかもしれません。実際に、私が人事として社内問題の調査などを行っていた際には、こまかく聞き取りをして、証拠を集めて「まるで警察みたいだなー」と感じることもありました。(実際の警察の仕事を知っているわけではありませんが)
個人的にはあまり好きな仕事ではなかったけれど、人事にとって非常に重要な役割でもありますね。それに、人事としての知見がグッと深まるタイミングでもあるので、そういう意味でも重要な仕事だったりもします。
でも、、、純粋に大変だったなー。
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