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アジアカップ2019セミファイナル突入~公式戦14年ぶりにイランと対峙するにあたり~

 アジアカップ2019 in UAEも遂にセミファイナルに突入。ロシアワールドカップに出場した韓国、オーストラリア、サウジアラビアが敗退し、ベスト4はイラン(FIFAランキング29位/アジア内1位)、日本(50位/3位)、UAE(79位/8位)、カタール(93位/13位)が出揃うことになった。

接戦続きのノックアウトステージの中、余裕すら感じるイランのゲームコントロール力は脅威


 ノックアウトステージに進んでからというもの、1点差の試合がほとんどとなっており、90分で決着がつかず延長戦・PKで雌雄を決す劇的な試合も多い。そんな中、ノックアウトステージにて唯一90分以内で2点差以上をつけ、しかも無失点でセミファイナルまで駒を進めているのが、次の日本の対戦相手、イラン代表というチームである(ちなみにイラン代表、今大会通して12得点0失点。もちろん一度もリードを奪われていない)。

近年圧倒的な戦績を収めるイランだが、あくまで等身大の相手と戦うことが重要


 約6年間アジア勢に対して39試合無敗継続中。2015年アジアカップ以来、直近公式戦30試合で敗戦はワールドカップでのスペイン戦での1試合のみ。アジアカップでは92年大会以来32試合連続無敗。

 イランについて、公式戦における圧倒的戦績は並べるときりがない。
 しかしながら上記の“経歴”に対しては、実はあまり意味はないと思っている。イランと日本代表は、公式戦に限れば2005年8月のワールドカップアジア予選以降、対戦実績はない。イランの対アジアの圧倒的戦績も、ワールドカップでの善戦も、日本相手に作られたものではないということなのだ。
 かつてオーストラリアと日本の間にあった、2006年ワールドカップ本戦から始まった公式戦での相性の悪さに比べると、実績面だけ考えれば何ら気持ち悪さはない。ようやくアジアの最上位チームと日本は公式戦で試合をすることが出来る。ポジティブに一挑戦者として、試合当日のイランに対し最終的にどう優位に立つのか、その対策だけ考えるべきで、必要以上に相手を大きくする必要はない。ただし、等身大の相手がとてつもなく大きいということは、往々にしてあることではある。

チームとしての戦術面の積み上げはイランに分があり。ワールドカップまで遡ると鮮明になる幅広さと熟成感


 イラン代表を率いるカルロス・ケイロス監督は就任して何と8年目になる。かつては名古屋グランパスを率いたこともあったポルトガル人監督が長期政権によって植え付けてきたその戦術的継続性・チームとしての練度は、森保体制間もない日本にとっては意識すべき劣位であると言える。
 例えば、アジア大会の中でイランは主に奪い行く守備を実践し、そのクオリティの高さから多くのチャンスを構築しゴールシーンを創出している。しかし、2018年ロシアワールドカップでは非常に統制のとれた待ち構える守備を敷き、レベルの高いチーム相手に渡り合うことが出来ていた。今回のイランというチームは少なくとも上記2パターンの守備を集団戦術として高度に実行することが出来る。
 今大会においては韓国やオーストラリアのように、個の力だけを比較すれば優位と言えるチームがベスト4に入れずに散っている。攻守において”単調”なシーンが目立つ。個の特性と軸となる戦術のアンマッチが生じる。自分たちの優位を取れるスタイルを相手に押し付け戦うことのできる強者の姿はそこになかった。ロシアでのワールドカップ閉幕後に新たな監督が就任し、同時に選手の世代交代も行ってきたことで、アジアカップに向け戦術浸透が不十分だったことがうかがい知れる。
 日本代表においても、その一面は要所で感じ取れる。支配権を握られたサウジアラビアの猛攻に耐え、ベトナムの進歩に対し苦戦を強いられながら、ここまで全試合最低得点差での勝利を続けてきている。コンディション上ベストメンバーを揃えられないことは致し方ない。中島や大迫の代役に同じことを求めるのは酷だ。しかし、森保監督の元で好発進した前年の親善試合の内容とも、遡ってロシアワールドカップでの試合とも、このアジアカップの中でさえ、チームとして志向する何らかの共通スタイルは、あるはずだが見えてこない。
 正直、今の段階から集団戦術を固め成熟度の高いイランとやりあうのは無理がある。
とはいえ、大会期間中に全く進展がないわけではない。2・3名のユニット単位での連携を高めることはできている。大迫-南野-堂安のラインはそろそろ結果が出そうな予感。守備においては、サウジアラビア戦では個人戦術に長けた遠藤・冨安・吉田が時にユニット組みながら獅子奮迅の働きを見せていた。GK権田とのラインに大きな不安を抱えながら、個の力でここまでカバーしきったのは衝撃だった。

”組織の日本”は捨てる。”個の力”+αで相手組織を瓦解させるのが勝ち筋か

 
 日本がチームとしてどのようなゲームプランを練ってくるのか、正直森保一という監督がどのくらいそれを落とし込めるのか、メンバーがどこまでそこに自身の判断を加えていくか、アジアカップのここまでの流れを見ても予想がつかない。今大会、選手が自ら判断し試合途中で位置取りをいじったという報道もあったくらいだ。
 組織としての練度で個々の劣位を補おうとする考え方をしていると、おそらく強度不足に付け込まれる。であれば、個の力に依存した勝負に持ち込んだほうが、中央に大迫・冨安・吉田、サイドに酒井・長友を擁する日本が分の良い戦いになるのではないであろうか。決してマンマークとは言わないが、ブロックを形成しており安定していると誤信したタイミングにこそ、イランは付け込んでくる。攻撃においても、不要な人数をかけるよりも、相手のゾーンの繋ぎ目(イランのコンパクトネスは非常に高水準なのでとても狭いスペースになるだろうが)をベトナム戦よりもシンプルに突いていくことが有効なのではないだろうか。少しずつ繋がり始めた大迫-堂安-南野のユニットで相手の脅威となる場面を作ることが出来れば、相手カウンターで数的不利をとるリスクは最小限となる。

いずれにしても、日本視点では事実上の決勝戦であり、アジアの盟主を決める戦い


 イランと公式戦で相対するのは14年ぶりとのことだ。レバノン、中国、カタールでそれぞれアジアカップを制した際も、イランとは対戦していない。史上最高とも謳われる現在のイランだが近年アジアカップの優勝は実現できておらず、カルロス・ケイロス監督はこのアジアカップを自身のイランにおける集大成と位置付けている、という話もある。
 下馬評では、現在のアジア最強はイランである。日本としては、実際に勝つことでその位置づけを変えてしまいたいところだ。いずれにしても、両国ともにモチベーションに不足はなさそうだ。緊迫した好試合となることに期待したい。

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