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お金を使うと人間は「平均的」になっていく

 お金というのは「取引」のためにあるものであり、取引というのは本来、近しい信頼できる人間との間で行うものです。

 夫婦で言えば、お金を稼ぐ、一方で家を守り子供を育てる、というように役割分担をした上で、取引しているわけです。明文化されていなくても、近しい信頼できる人間なら、そういうものは自然に成り立つ。そういうのが成り立たない「信用できない人間」と取引するときに、お金は役立ちます。

 人間の歴史を、経済発展の歴史だとみる言説もありますが、それは「人間の生産と取引」のごく一部しか見ていないんです。お金に換算できる生産と取引だけを、数えているんです。経済が発展しても「生活が良くなっている」かどうかは、別です。


 例えば、人間が一人暮らしするようになれば、経済は発展するんですよ。5人家族(夫婦と子供3人)でも冷蔵庫は1台、洗濯機も1台、車はせいぜい2台です。

 でもそれぞれが一人暮らしをすれば(離婚して子供が独立)、冷蔵庫と洗濯機と車はそれぞれ5台、必要なんです。家だって5つ、必要。ということは生産が5倍になるわけで、経済が発展するということです。でも、それが「幸福な暮らし」になっているかどうかは、別でしょう。


 戦後の経済発展の歴史というのは、「一人暮らし」の歴史だと思います。田舎の大家族から離れて、都会に出てくる。そこに「良い面」もありますよ。都会でなければ花開かなかった才能もあるだろうし、村社会の束縛から逃れて自由になれたという人もいるでしょう。

 でもその一方で、都会で孤独に不幸に生きていかざるを得なかった人もいる。というか、そっちの方が多いと思います。ただ、その一人暮らしの歴史において、都会の不動産は高騰し、家電や自動車産業は好景気に沸いた。それだけ需要が増えたからです。


 しかし、戦後の「一人暮らし景気」も行き着くところまで行った感があります。少子化になり、都会へ出てくる絶対数も減ってきた。経済の歴史というのは、それまで、共同体が担ってきた生産や取引を、外部に委託してきた歴史です。

 では、今の経済は、何に向かっているのか。人間関係です。SNSをはじめとした情報というのは、人間関係です。これも「共同体」が担ってきたものなのですが、戦後と違って、今の若い人(僕ぐらいの世代も)は、生まれた時から共同体なんて無い。自力で人間関係を築かないといけない。

 これは性欲のような、本能的な欲求です。「いいね」がついて満たされれば、脳内物質が放出される。幸福感を得る。中毒になる。そのために行動する。SNSに付随する産業は山ほどあります。

 例えば、アパレル産業にしたって、もしこの世にSNSが無ければ、せっかく買った服を誰かに見せびらかすことができないのだから、市場はかなり縮小するでしょう。というように、人間関係の欲を外部に委託していく過程を、経済が発展しているとか、新しい産業だ、と言っているのです。


 身の回りの全てが、お金を通した関係になってくると起きる問題の一つが、全てが「均されてしまう」のです。お金を通すほど、商品やサービスは、個別対応とは遠くなっていきます。

 生産性は、多くの人を相手にすればするほど、高まります。ということで、身の回りの「消費物」は、平均的なものになっていきます。これの何が問題かというと、それに当てはまらないものは、誰でも、少なからず持っているんです。だって人間は一人一人、違うんですから。


 人間関係も含め、そしてさまざまな「商品」も含め、我々の周囲にあるものは、平均的なものになっていく。そこで囲まれて育ち、平均的なものになろう、なろうとして行きます。

 一方で、人間性を全て商品が担保できるわけではない。スーパーで売っている品で「僕のために」作ってくれたものは何一つとして無い。SNSに流れる情報で「僕のために」伝えてくれているものも無い。そういう中で育てば「自分探し」になるのも当然かと思います。


 インドに行ってもなかなか「自分」が見つからないのは、人間性というものは、集団の中での立ち位置で決まるからです。子供がいなけりゃ父親にはなれないし、妻がいなけりゃ夫になれない。「何者でも無い」というのは、人間関係が無いということです。

 そして、ただの労働者という替えの効くような存在に、人間は「自分」を見い出せません。インドに行って、日本で培ってきた「常識」が破壊されて、「自由でいいんだ!」と思っても、その先に、人間関係を築かないことには、立ち位置が決まらないんです。


 なので、毎度のことですけど、我々がやるべきことは、人間関係をきちんと作り、その中で、自分がやれることをやること。インターネットとか、もしくは市場経済という、膨大な世界の中での立ち位置を探すのではなく、周りの数人の中での立ち位置を探すこと。それが役割であり、個性です。

 そこで人間関係が築かれ、取引が行われれば、使う金銭が減り、必要な所得が減り、働く時間が短くなり、自由時間が増え、その時間を人間関係に投資し、また仲間内での取引が活発になるという好循環が生まれます。

 その結果、GDPは下がるんですけどね。ま、どうでもいいじゃないですか。日本のGDPが下がることなんて、我々が心配することじゃありませんし。そうやって、周りの人と仲良く協力し合うことが、幸せな生活につながると思います。またあした。

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