見出し画像

天職の優先順位

 天職の見つけ方、みたいな自己啓発系というか、そういう本を読むと、「できること」「やりたいこと」「人の役に立つこと」「お金になること」を満たすことが天職だ、と。さて、僕は毎度、人間の本能は数万年間、変わっておらず、未だ「100人ぐらいの集団での狩猟採取生活」をしていると、遺伝子は想定している、そして我々の思考もその環境に最適化されている、と言っています。もちろん、現代社会は狩猟採取社会では無いので、さまざまなズレが生じて、問題が発生していると思っています。

「天職の見つけ方」も、ズレた結果だと思っています。本来、できることは、そのまま、やりたいことであり、人の役に立つことであり、お金はそもそも存在しなかったから、お金になるかどうかも関係無かった。ただ「やりたいことをやっていれば、うまくいった」世界だと思います。それは、そういう環境だから、うまくいくんです。でも環境が変わってきたから、できることが、やりたいことや、人の役に立つことや、お金になる(利益を得られる)ことではなくなってきた。環境が変わったから、行動が分裂してきたんです。

 例えば「歌を歌う」という能力があるとしましょう。話はそれるけど、古代、歌は「本」だったのだろうと思っています。物語とか、知識の伝承を、歌にして伝えていたと思っています。歌にすると覚えやすいでしょう。歌なら平気で何曲も覚えられても、あれを「文章」で覚えようとすると、苦労する。文字の無い時代は口承伝承しかありませんし、人間の本能は未だ「文字」にも対応していない。だけど「歌」には対応しているから、歌だと簡単に覚えられるんです。

 話を戻して、歌を歌うという能力。これは100人集団であれば、その人は知識の伝達役でもあり、エンターテイナーでもある。だから、歌を歌うという「できること」が、そのまま「人の役に立つこと」になる。でも、現代のように、世界中の音楽が配信されれば、エンターテイナーとしての歌手は、日本(1億人)に1000人ぐらいいれば十分です。10万人に1人です。能力がある人は、もっといるはずなのに。それだけ「役に立つ」チャンスが少なくなる。

 これは、1億人に歌を届けられるという技術革新により「環境」が変化したからです。だから、やりたいことと、役に立つことが、一致しなくなった。また、淡々とした工場労働のようなものが「人の役に立つ」し「お金になる」としても、人間の本能は、そのような働き方を想定していない。工場のベルトコンベアーは、想定外の環境なんです。だから、そこで働くことに、本能的なインセンティブ、つまり「喜び」が無い。だから、役に立つことだけど、やりたいことではなくなる、のです。

「天職の探し方」という本が必要とされているのは、それだけ、環境がズレているということです。で、大きな、そして根本的な解決策としては、このズレを無くすことです。ただ、それは社会改革というレベルの話ですので、もっと話を小さくして、一人の人間が、もちろん全て兼ね備えた「天職」を見つけられれば、それに越したことは無いのですが、そうもうまくは行かない。その場合、何を優先させるべきか。「できること」「やりたいこと」「人の役に立つこと」「お金になること」のどれが重要か。

 僕は、まず「人の役に立つこと」を優先すべきだと思います。次が「できること」。で、次が「やりたいこと」。最後が「お金になること」です。で、なぜこの順番かというと、もっともズレが激しいのが「お金」だからです。そして「お金になること」は時代や地域でも変化しまくるので、追いかけるのが大変です。だから、そこは、当たればラッキーぐらいに思っていた方が良い。

 そして、これも毎度の話ですが、お金というのは、価値交換のためのツールです。本質は「価値交換」です。そして、価値とは、普通は人同士で交換するものです。なので、役に立つことをすること、価値を誰かに与えることが、本質的なことです。で、「できること」をしないと、そんなに価値を生み出せないので、やりたいことよりは、できることをした方が良い。下手の横好きになりますから。で、できることで、人の役に立つことをしていれば、褒められますので、だんだんと「やりたいこと」になっていくはずです。

 そして、そこに運があれば、お金を払って頼んでくる人がいるかもしれない。これは「お金を払ってくる人がいる」ことがゴールであり、そこを目指す、ということじゃ無いんです。お金というのは、もう、毎度の話ですいませんが、共同体外部との価値交換のツールですから、外部に広がれば、お金で依頼する人が出てくるだろう、ということです。出てこないことも、ありますよ。共同体内部で、例えば、育児や家事といった本質的な、時間のかかる仕事をしていれば、これは外部に広がりにくいから、お金になりにくいでしょう。

 また、普通は人間の幸せというのは、人間関係に依存します。だからこそ、優先すべきが「人の役に立つこと」です。人の役に立つことをしていれば、人間関係は生まれてきます。なので幸せになりやすい。お金は人間関係をむしろ壊してしまうので、幸福になりにくい。

 もちろん「お金」を目的にするのであれば、お金になることをするべきだし、やりたいことがあるのなら、やりたいことをすればいいんです。それは全然構わない。そうじゃなくて、迷っているなら、何を優先すべきかという話です。ということで、本能と環境がズレまくった現代社会で幸福に生きるためには、まず、人の役に立つことをしよう、という、当たり前といえば当たり前の話でした。またあした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?