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地域建設企業は建設業界の人手不足問題にどう立ち向かうか

最近、「建設DX」という言葉を聞くことが多くなってきました。「DX」といえば、デジタル技術を利活用して何らかのイノベーションや顧客価値を生み出すことだと思いますが、建設業界における「DX」の目的は、「生産性向上」として語られることが殆どです。

なぜ「生産性向上」なのかと言うと、建設業界は就業者数が減少の一途を辿っており、このままではインフラ整備・維持管理の公共ニーズや、住宅・マンション建設等の民間ニーズに応えることができなくなる!という危機感からだと思います。

一方で、デジタルの力で効率化できること、生産性を向上できることにも限界があります。何だか「デジタル」や「DX」が、一時期の「コンサル」のように、何でも解決できる魔法の杖のように扱われているような気がしてなりません(だからこそ、現場の人たちからは食わず嫌いされがち)。

国を挙げて掲げている「建設DX」とは、本当に人手不足問題を解決しうるものなのか?現実的に実現可能な解決策とセットでなければ、それは課題とは言えない気もします。

そんなことを斜に構えて考えていたとき、ふと、「人手不足」という問題を、そもそも全然自分事化できていないことに気づきました。

建設業界全体のことを憂うには、家業はちっぽけ過ぎますし、自分にも全く影響力はありません。ただ、建設業界の行く末に、家業が影響を受けることは間違いありません。中小零細企業は、事業環境の変化に柔軟に、そして事業にしがみつく執着心がなければ、即座に吹っ飛びます。

では、建設業界の人手不足問題は、地域建設企業にどのような影響を与えるのでしょうか?そして、どう立ち向かっていけば良いのでしょうか?

今回は、そんなnoteを書いてみようと思います。

建設業就業者数の推移

まずはじめに、就業者数の推移を見てみました。
建設業界(土木・建築など全て)には、2000年時点で653万人の就業者がいましたが、20年後の2020年時点で492万人となっており、2000年対比で約25%減少しています(4人に1人が居なくなったと考えると結構大きい!)

建設業就業者数の推移(出所:国土交通省)

確かに、自分が中学生でサッカーに明け暮れて、建設業界のことなんて何にも考えていなかった頃、家業の建設会社でさえ、何となく今よりもっと多くの人が出入りしていたような気がします。

公共工事の話になってしまいますが、弊社の事業エリアでも、仕事(公募)はあるが、応札者がいないという不札・不落案件がここ数年増加しています。実際、元請の弊社においても、協力会社(職人さん)の手配が非常に頭を悩ませる事態になっています。

建設業就業者数の内訳

建設業の就業者といっても、多種多様な役割・業務があります。

今回は、管理職(ここでは、施工管理等の技術者や経営・営業・事務などの総称)、技能職(現場で作業を行う職人さん)の2つに分けて見てみます。

管理職は、建設業就業者数の約35%を占めているのですが、2000年の221万人から平均年率約1.2%で減少し、2020年時点で174万人となっています(20年対比約21%減少)

管理職の就業者数推移(出所:国土交通省)

一方、技能職については、建設業就業者数の約65%を占めており、いわゆる現場で作業を行う職人さんの割合が圧倒的に多いことがわかります。建設技能者は、2000年の432万人から平均年率約1.5%で減少し、2020年時点で318万人となっています(20年対比約26%減少)

技能職の就業者数推移(出所:国土交通省)

こうして改めて数字を眺めてみると、技能職(職人さん)の減少が顕著であり、建設業界全体へのインパクトも大きいことが分かります。

そして、このまま成り行きで行くと、今後20年かけてさらに就業者が1/4減ることになります。そうなると現状の生産性だとこれまでの3/4しか生産(供給)できなくなる、ニーズに応えられない、だから生産性を向上しよう、というのが「建設DX」のストーリーになっているかと思います。

これが、業界の行く末だとすると、地域建設企業も調達可能な労働力が3/4になり、同様に生産性を4/3に上げていかないと、顧客のニーズに応えることができず、事業規模も維持できません。むしろ、現状を鑑みると、事業環境や人材市場は将来もっと厳しいものになっていそうです。

では、このような前途多難な未来に対して、どう対応していけば良いのでしょうか?
(以後、地方中小建設業のバイアスが多分に入っていそうで恐縮です)

管理職の人手不足について

まず管理職の中でも営業職や一般事務職については、シンプルに人手不足に陥っていません。弊社でも営業・事務職を希望される方の問い合わせは毎年あるのですが、大変残念ながら、彼らに担っていただける役割・仕事が十分に無く、そもそも採用活動を行っていない状態です。

これらの職種は、以前から門戸が狭く、大手も中小もスリム化を図っていて、むしろ、ChatGPTが物議を醸しているように人手不足を飛び越して「AIが人間から仕事を奪う」次元に移っていきそうです。

一方、人手不足を感じているのは、技術職(施工管理)になります。

国内全体的に土木や建築工学を専攻する学生が減少しています。そのような学生から人気があるのは、発注者サイド(官公庁など)の就職であり、建設会社の就職を希望する学生がいたとしても、殆どが大手・中堅~地場大手ゼネコンに採用されていきます。同様に、即戦力になるような中途の技術者も、より条件の良い大手ゼネコンに転職をしていきます。

実際、ここ数年弊社が採用している人材の多くが、文系出身の新卒学生や、製造業等からの中途・未経験者になっています。この傾向は、大手ゼネコンの経営環境が悪化し、技術職の大量リストラでも慣行されない限り、今後もずっと続きそうです。

大手ゼネコンがリアルに「生産性向上」を果たすとすると、人材が余ってくるので、地域建設企業がその受け皿になり得る、という何だか変な希望的観測はあるのですが、大手も含めて人手不足だと嘆いている現状において、これらを期待するのは良くなさそうです。

ChatGPTじゃないですが、自らの仕事を奪い、破壊するようなレベルのことを自らやる人たちなんてそうはいません。だいたい破壊的なイノベーションは、スタートアップなど外部の勢力が起こします。
(なので、「建設DX」は、工事を請け負ってくれる人がいなくなると困る、発注者の理屈が強いと思われます)

だいぶ話が逸れました。

このような状況を踏まえると、今後も土木・建築経験者や学生を確保することはできない、と考えておいたほうが良さそうです。

それを踏まえて、弊社で何ができるか?を考えてみたところ、

①未経験者の就業・成長の促進
②働く環境・業務の改善(効率化/負担軽減)

この2つが、重要な課題に位置付けられそうです。

①については、人手の少ない中小企業には若手育成にかける余力も無く苦手とするところで(背中を見て覚えろ的な)、これまでは即戦力採用が基本となっていました。これはスタートアップでも同じだと思います。

ただ、もはや言い逃れできません。採用できる層が変わってしまったことを現実として受け入れ、未経験者の入職促進(離職抑制)や若手育成に取り組む必要があります。

②については(①を達成する手段とも言えますが)、まずは業務の分業化がポイントだと考えています。これまで施工管理業務は現場担当者(技術者)が様々な業務を担うのが一般的でした。しかし、図面・書類作成などの業務を切り出して集約し、それを専業とする内勤の人材を充てることで効率的に業務を回せる可能性があります。

モバイルインターネットやクラウドの進展で現場情報の社内共有が容易になったことも追い風です。現場に出ないのであれば男性に比べて体力の劣る女性でも働きやすいということで、“営業・事務職なら働きたい”という求職者の確保に繋がるかもしれません。

また、デジタル技術の新たな活用については、技術者は主に現場の生の情報を扱うので、まだまだ抜本的な効率化の余地は低そうですが、多くのICT製品・SaaSが出てきているので、それらのツールを積極的に活用していきたいと思っています。

特に、公共工事の世界では、法規制に掛かる申請や発注者への報告等、とにかく書類の数が多く、過去に比べてどんどん担当者の業務負担が増えており、それが生産性向上の足枷にもなっています。この辺りは、デジタルが力を発揮してくれそうです。

しかし、これらに取り組んだとして今後20年かけて4/3も管理業務の生産性を上げられるものなのか…残業時間の短縮(5~10%)程度であればイメージできますが、30%近い効率化は前途多難です。

また、もともとは1人あたりの労働時間(残業時間)が比較的長いことを前提に業務を回してきたので、今後より労働時間に制約がかかっていくとすると、一人あたりの生産性は上がっても、組織全体の生産量を維持するのはさすがに難しいかなと思っています。

ただ、だからと言ってやらない理由にはならず、一つひとつ積み上げていくしかありません。

技能職の人手不足について

一方で、技能職の人手不足については、、、
これはちょっと、のっぴきならない問題かもしれません

年齢別の内訳を見てみると、60歳以上が25%を占めているようです。
現在、20代の新規入職者が少ないことを踏まえると、さすがに10年後にはがっつり職人さんの総数が減ってしまいそうです…

技能職の年齢別内訳(出所:国土交通省)

実際に、弊社の協力会社でも、技能レベルの高い(”歩掛”と呼ばれる作業員1人が1日にできる作業量の多い)ベテランさんと若手では、作業量・スピードに大きな違いがあり、それが工期や原価に直接影響しています。

職人さんには、生産性が高い人/低い人、かなりバラツキがあるのが正直なところで、職人さんの生産性を底上げできる何かがあれば良いのですが、有効な施策が中々思いあたりません。そもそも、スキルや能力が定量的に可視化されているわけではないので、そこからなのかもしれません。

こうなるといよいよ建設ロボットによる代替を図りたくなるのですが、ロボットは屋内よりも屋外のほうが技術的なハードルが高く、毎回作業環境が変わる建設現場となるとさらに難しい。地方中小建設会社が手掛けるような狭い現場になると、コスト的にも見合わず、さらに難しくなる。

「難しい」のオンパレードで、合理的な解決の糸口をなかなか見出すことができません

ただの願掛けになってしまいますが、まずは大手ゼネコンの大規模現場から職人さんの作業をどんどん自動化してもらっていって、本来そこで囲っていたはずの職人さんを地方の中小現場に回してほしいなと思っています。

そんな大変難しい状況の中、弊社でも取り組めることを考えてみると、

①直営作業班の育成・技能伝承
②協力会社との関係強化
③海外労働力の確保

といったことが挙げられます。これらは短期間で実現できるものではないため、中長期的な視点で取り組んでいく必要があります。

デジタルとどう向き合う?

こうして「人手不足」という事象について少し解像度を上げてみると、問題や課題の本質が少し見えてきたような気がします。

実は、「デジタル」や「DX」は、本質的な課題ではなく、まずはデジタル関係なく取り組むべきことがあるようです。

また、「DX」という言葉から想起されるような、人手不足を一発で解消し、生産性を抜本的に高めてくれるようなソリューションはこの世に存在しません。もちろん「デジタル」はどんどん利活用すべきですが、あくまで1つの手段です。

そして、デジタルに関しては、あらゆる業務において、どう活用したら効率的になるのか、組織がより良くなるのか、創意工夫しながら泥臭くやっていく必要があります。「習うより慣れよ」で、最初は、学習コストのほうが大きくなりそうです。

ホームラン狙いではなく、ヒット狙い、何ならバントしてでも繋いでいく。一つひとつを積み上げていくスタイルで、デジタルを推進していこうと思います。

何だか取り留めなく、とても長くなってしまいましたので、今日はここでやめておきます。

最後までお読みいただき、どうもありがとうございました。


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