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#1 私に台湾一周が必要だったわけ

枯渇。
私の中が、カラカラになって、乾いているような感覚に似ていた。

ここ数年、農繁期を除いては家の中でパソコンと向き合うことがほとんどで、遊び以外で家の外に出ると言えば、ゴミ出しと買い物くらい。

ほとんど外食もしないので、丸1日家から出ない日も珍しくない。

かつては、”家は寝に帰るだけ”のような暮らしをしていたこともあるのが信じられないくらい、いまでは家の中で過ごす時間が圧倒的に多い。

かといって、それが苦痛でもなかった。
コロナウイルスの感染拡大に伴って、在宅勤務の普及や休校、予防などさまざまな理由により、いわゆる”おうち時間”が世界的に増え、なかには、外出できないことが苦痛で、ストレスや気鬱を感じるという人も多くいた。

私ももれなくそのひとりになるだろうと思っていたけれど、おそらく持ち前のインドア気質が惜しみなく発揮され、気軽に旅行に行けないことに不自由さは感じたものの、ストレスは思っていたほどなかった。

とはいえ。
ゴミ出しと買い物に行くくらいでは、夫以外とまともに話す機会はほとんどない。
そりゃあ日常のなかの挨拶や必要最低限の会話はするけれど、脳みそブン回したり、コミュ力求められたりするような会話はまずない。

そして、私は日々何かを書いたり作ったりする、アウトプット的な仕事をしている。
もちろん、仕事に必要な読書や情報収集などのインプット的なものはあるけれど、それは感覚器官で言えば目、ときどき耳くらいしか使わない。

そうして、ゆるやかに、じわりじわりと枯渇した。

ここ数年で溜め込んだあらゆるワクワクや好奇心は、少しずづ削り取られるように減っていき、日常から得る情報だけでは、もう追いつかなくなっていた。

そしてこれは、1人でランチをしたり、友達とワイワイおしゃべりをしたり、ちょっと遠くに出かけたりするのでは補いきれなかった。

その時、もうすぐ水が枯れそうな井戸の底から、むくむくと、私の中で長く息をひそめていたアウトドア気質が表れる。
眠りから覚めたような彼女は、のそのそと動きながらも「あ、そろそろ出番ですか?」と言って、気付けば1番近い空港から出ている航空券を検索しはじめていた。

行き先が台湾だったのに、特別な理由はなかった。
ただ、1番近い空港から出ている国際線の、格安便の選択肢が台湾しかなかっただけだ。

でも、台湾はこれまで1人でも、夫と2人でも訪れている。
だから、なんのためらいも迷いもなく、「台湾か。よし。」という感じだった。

行くならがっつり行きたい。
発着日と航空券の値段とのにらめっこで出てきたベストが12日間だった。

さて。夫に相談しよう。

夫は、私が学生の頃から1人でも海外に行っていたことや、私にとってそういう時間が大切なことを理解はしてくれているけれど、さすがに相手の都合も考えず勝手に行くようなことはしない。ギリ。
彼も仕事が忙しい時期で残業三昧なことも、一緒に暮らしているからこそよく知っている。

そんななか1人で、約2週間も海外行きたいというのは呑気すぎるだろうか。
行くなとは言われないにしても、良くない反応されたらどうしよう、と、そもそもこれ自体が呑気とも思える不安は少なからずあった。

でも、彼はあっけらかんと、「え、1人で?いいんじゃない?」と。
「航空券いいのあったの?」「お金はどれくらいかかりそうなの?」「なんでその日数なの?」「仕事は大丈夫なの?」など、最低限の質問はあったけど、それは嫌がっている類のものではなく、行く理由の確認。

最後に、「そっか。で、いま行くことが必要なことなんでしょ?なら行っておいでよ。」と。

私が1人で海外に行くことを、”いま必要なこと”と認識してくれる。
遊びや道楽ではなく(実際仕事ではないからただの観光なのだけど)、必要だから行くという感覚に理解を示してくれる。
これは、本当にありがたいことであり、貴重なことだ。
私に対する人としての敬意を感じたし、それはまた彼への敬意にもつながる。

それからすぐに航空券を予約し、12日間をどのように過ごすかを考えた。
それは、どう遊ぶかというよりも、いまの私に必要なことをしっかり見つめるという作業に近い感覚だった。

せっかく時間に余裕があるのだから、南の方に行ってみよう。
台南は、美食の街としても有名だから、食いしん坊の私にちょうどいい。
でも、せっかく南に行くなら第二の都市・高雄にも行きたい。

ああ、そうだ、せっかく南に行くんだから、帰りは違うルートで台北に戻るのがいいよな。

なんだ、そうか。今回は台湾一周になるんだね。

そうして、流れるように私の台湾一周が決まった。

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