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行き付けのコンビニの店員が地下アイドルになっていた話



もうあの人には会えない__

そう思ってた。


「絶対会ったことあるよね?」


そう言いながらアイドルが
ビラを配りながら話しかけてきた


「・・・えっ?」



通学路にあったコンビニ


大学を機に上京した僕は
自転車で通学をしていた。

家から大学までの間に
5店舗くらいコンビニはあったが、
僕は家から3番目に近いコンビニへ
よく行っていた。

いつからかそのコンビニに居る
一人の小柄な店員さんに
惹かれていたからだ。


とはいえ、
彼女は店員であり、
僕はただの客。

ましてやコミュ力なんて
皆無なヲタクなので
話かけるなんて出来ない。

でも会いたい気持ちのままに
毎日のように通っていた。


大学の4限の授業は16時に終わる。

コンビニのシフトは
(だいたい17時からだろう)
という推測の元、

近くのパチンコ屋で
マンガを読み(たまに打ち)
時間を潰し、

頃合を見て
コンビニへ寄って帰った。


コンビニでバイトをしている友達に
相談したりもした。

「毎回同じやつ買うと覚えられる」
「レジでバーコードを上に向けると
(おっ)ってなる」

というアドバイスに素直に従い、
僕は金が無いなりに
(バーコードは無いけれど)
毎回からあげ棒を買って帰っていた。


アタックを試みる

特に何も進展も無いまま
月日が経ち、
僕は大学2年の冬を迎えていた。

(このまま何も出来ないまま、
苦しいままで終わりたくない、、)

(玉砕覚悟で連絡先を渡してみようか、)

そう思った僕は
小さな紙に連絡先を書き、
財布の中に入れた。

しかし、
いざレジで彼女を目の前にすると
やはりなかなか勇気は出なかった。


だいたいというもの、
11月11日のポッキーの日に

ぼく
「ポッキーってどこにありますか?」

店員さん
「あ!こちらにあります!」


(これくらいしかまともな
会話という会話をしていない相手から
連絡先を貰っても困るよな、、)

そんなこんなで結局渡せないまま
からあげ棒を、
たまにアメリカンドッグを
買う日々が続いた。

店員さんが辞めてしまった

その日、
僕の推しメンが卒業発表をした。

コンビニの店員さんに
想いを寄せる一方で、
僕は地下アイドルにも通っていた。

その地下アイドルの推しメンが
卒業発表をした。

会場で泣き崩れたり、
ヲタクに励まされながら
なんとか帰路に着き、

僕はその足のまま
家から3番目に近いコンビニへ
向かった。

メンタルがめちゃくちゃになっていた
僕はこの勢いのまま連絡先を
彼女に渡してしまおうと思ったのだ。

コンビニに着いた僕は
何か買ってレジへ行こうとした。

しかし、2口のレジには
若い男の店員が陣取っていて、
彼女はカウンターの中で
発注作業をしている様子だった。 

「あ〜〜〜くそ!だめかぁ〜〜!」

僕はからあげ棒を食べ、
家に帰った。

それから何度も
コンビニへ寄ったものの、


その日を最後に、
彼女をそのコンビニで
見ることは無かった。

「絶対会ったことあるよね?」

(あの人に何も出来ないまま
終わっちゃったな、、)

(もう会えないのか、)

僕はそんなことを頭の片隅に置きながら
日々を過ごしていた。

翌年、夏のピークが過ぎた頃

卒業した地下アイドルの推しメンが、
新たなグループで復活を遂げた。 

僕は推しメンの
対バンライブを見るべく

秋葉原のライブハウスへ足を運んだ。


「絶対会ったことあるよね?」


入口に入るなり
ビラ配りをしていたアイドルに
いきなり話しかけられた。

ぼく
(量産型の良くあるヲタク顔だしなあ、)
「えぇ〜?」


渡されたビラを見ながら僕は
テキトーに応えた。


「行きつけのコンビニどこ?」


ぼく
(なんやその質問、、、)


僕は目線を上げ、
彼女の顔を見た。


「えっ?もしかして?」


あのコンビニの元店員さんだった。


約2年間、
お近づきになりたいと
想い続けた憧れの人に、

憧れた人の方から、
話しかけて貰えた。

ぼく
「そんなことある?」


衝撃が止まらなかった。


アイドルになった彼女と僕は
もちろんすぐにチェキを撮った。

(いつかお話したい)
そう思ってた人と話せていることに、
嬉しさが溢れかえっていた。


「からあげ棒よく買ってたよね」

「お店の人と『今日この時間に
からあげ棒の人来なかったねー』
って話したりしてた」

「ヲタクだったんだね!」

同じものを買う作戦は概ね
成功だったのかもしれない。


アイドル卒業

衝撃の再会を果たしたのも束の間、
彼女は1ヶ月後に卒業する
発表をした。

もっと早く
彼女がアイドルになっていた
ことに気が付けていたら?

そう思ってしまった。


最後にどうしても伝えたかった。

「俺、実はずっと前から、、」


ちゃんと伝えられたのかは分からない。


最後に急に言われて
困っただけかもしれない。


「ありがとう」


そう彼女は言ってくれた。

 




もしあのとき
連絡先を渡せていたら
どうなっていただろう?

時折そんなことを思うことがある。

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