白井差の山中豊彦さんからうかがった話

白井差口バス停の近くからマルイワの頭(P1313)に上がり、辺見尾根を歩いて清滝小屋からの下降開始直後、山岳事故の救助にあたっていた山中さんにお会いした。両神山表参道での立ち話と後日いただいた電話でのやりとりの要点を、ハイカーへの参考までに記録として残します。
.
/山中さんはどんな人か/
ネット上でそれなりの情報を拾えるのですが、真偽不明の記事がコピペされて「web上ではメジャーな情報」になるのはありがちなこと。当記事では以下のインタビューの紹介のみにとどめます。

/当日の山行記録/

〇 11月15日~翌年2月15日は猟期
「白井差口のバス停から尾根の下部を上がっているのを猟師さんグループに目撃されている。場所と時間からしてあなただと思うよ」
まさかこんなところを歩く人がいるとは思わず、ヤブの中を動くものがある、っていうんで最初は狙われたらしいよ、とも言われたが、脅しであってほしい。
「11月15日~翌年2月15日は猟期になる。地元では誰がどんなグループを作っていつどのへんの山に入るのか把握しているし、山に入る用事があれば猟師さんグループにその旨を伝えておく、入る場所に目印になるものを置いてゆく」
「年配の猟師さんは平日動くが、若い人たちはふだん仕事があるから山に入るのは週末になる。土曜日曜の天気の良い日にね」
経験の浅い猟師さんとハイカーが山に向かう行動パターンが重なっている。
「あまり高い所には行かないんだ。仕留めても下ろすのがたいへんだから。下ろしやすい、林道から入りやすい場所で待つことが多いね」
低山注意、麓ちかく注意。
「散弾銃は200~300mだけど、ライフルだと1200mまで届くからね」
.
〇 鹿よけネットの扱い
当日の記録に残したように、行程中は鹿よけネットが広範囲にわたり張り巡らされている。
「猟師さんたちが、鹿がいないはずのエリアに10頭以上の鹿がいた、っていうんだけど」
この指摘についてはきちんと状況説明と釈明をさせてもらう。山行中は2か所で左右から上がってきた鹿よけネットにはさまれ、ハイキングの続行が危ぶまれた場面があった。
まずco1000m付近では2本のポールの間を通過可能だったこと。鹿が通れるかはわからない。

続いてマルイワの頭(P1313)の手前100m地点。人為的にネットの下部が持ち上げられた形跡があり(ネットのペグが効いていない)、ネットと緑色のスカート部分を持ち上げて先にザックを通し、続いて這って通り抜けたこと。通過後はふたつのネットをもとどおり形を整えたこと。鹿がネットを持ち上げるのかどうか、私にはわかりません。
なお山中さんによれば、記録者が「鹿をからめとるため」と思い込んでいた下部の緑のスカート部分は、
「あれはイノシシよけ。ネットの手前に穴を掘って向こう側に抜けちゃうんだよ」とのこと。


〇 熊
「10月01日に二子山で熊に襲われた動画は見たかい?」
バズってるやつですね、それなら見てます。
「その5日前に、二子山で群馬県側に落っこちる死亡事故がおきている。現場は埼玉県側は急なんだが群馬側はそうでもない。あっちに墜ちるのはヘンだなと思ってたんだけど。おなじ熊かもしれないね」
驚いた登山者が逃げ惑って足元を失うのなら、ありうる話だ。切り傷・ひっかき傷はなかったということだが。
「熊はあんな切り立った稜線に上がらない。下のほうで人に会ったりして上がってきたのかもしれないが、いっぺん上がると熊でも崖は降りられない。尾根伝いは登山道で人が通るし」
「熊に濡れ衣を着せるわけにもいかんけどね」
もうひとつ。
「岩をひっぺがして、陰にいるアリや虫を掌で叩いてなめる、ってことをやるよ。力があるからね、かなり大きな岩でもはがす」
結果として人為的もとい熊為的落石が起こるそうだ。

〇 天理岳の通行止め
「7月に高齢者グループが山に入って尾根間違いをおこしたのがはじまり。岩場で帽子を落としてふたりで取りに降り、回収して登りなおすときに
『あっ!』と声がした。後ろを見たら誰もいなかった、と」
「天理岳も事故が多い。それで通行止めになったよ。オレの山じゃないけどね」
「通行止めの山で遭難して保険の扱いがどうなるかは、わからんけどね」
.
以上。
歩かせてもらっている尾根や山は「誰かのもの」だ。設備を損なったり遭難事故をおこせば持ち主に迷惑がかかることをあらためて、強く、教えていただいた。
山中さんは400以上の遭難遺体を降ろした経験があるそうだ。自分の庭にポロポロと人が落ちてきたらたまらないだろう。ご自分の山林内にとどまらず、広く山岳遭難の救助にあたっている山中さんに、深くお礼を申し上げます。絶対に事故を起こしません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?