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戦略の立て方 003 〜 マーケティング論

最新の経営学のマーケティング論を、3C/SWOT分析の観点から解説します。

戦略の立て方001と002では、顧客による選択の「決め手」が大きく変わってきていることに触れました。この変化は、最新のマーケティング論の焦点になっています。
 
2024年の現在、大半の日本企業はこの変化に対応できていません。ここ30年間の日本経済低迷の最大の原因だと言えるでしょう。

また、多くの働く日本人にとって、仕事が楽しくない・うまくすすめられないなどの悩みの原因にもなっています。
 
考え方自体が日本人にはわかりにくいことが、対応できていない理由だと思われます。基本的なことから始めて、可能な限りシンプルかつ簡潔に説明しようと思います。
 
 
1. マーケットは売手と買手が出会う場所

まず、マーケティングと3C/SWOT分析との関係について。

マーケットとは、売り手と買り手が出会う場所のことです。
 
日本語訳は市場ですが、「しじょう」ではなく「いちば」と読んだ方が現実をイメージしやすいでしょう。市場(しじょう)規模が何億何百億円などと言うけれど、買い手の選択は個別の市場(いちば)で個別に行われているのだから。
 
3C分析は、この「買い手の選択」に注目したものです。
 
売り手が買い手と出会い付き合っていく姿を設計するのが、マーケティング
 
売り手と買い手の双方にとって一番良い姿を描こうとするとき、SWOT分析が役に立ちます。


2. マーケティング理論は修正され続けている
 
経営学でのマーケティングの教科書は、P・コトラー先生の「マーケティング・マネージメント」です。
 
マーケティング学では、マーケティングの変化が大事です。世の中が変わりお客さんの購買行動が変化するので、これに適合するためにマーケティングも修正されます。コトラー先生の本の最新刊は第16版(2021年)。
 
今世紀に入って以降、最も大きな変化が、マーケティング第2世代から第3世代への移行です。
 
 
3. 現在のマーケティング論の焦点は第3世代
 
経営論としての第3世代マーケティングの理論的な枠組みは、既にコトラー先生が2010年に示してくれています(「マーケティング 3.0」*1)。
 
先行している欧米に較べて、日本は大きく立ち後れています。バブル期以降30年間の日本経済低迷の根本原因だとわたしは観ています。
 
最近の日本でも成功事例は散見されますが、マーケティング論に則って成功しているというより、事業に真剣に取り組むなかでの我流による成功、天才の成せる業です。
 
凡人のわたしはマーケティング論に沿って考えます。
 
 
4. 日本では第1・第2世代での大成功が徒(あだ)となっているのかも

マーケティングの変遷

第1世代は「製品中心のマーケティング」と呼ばれ、「より良いモノを作る」のが成功の鍵。いわゆる高度成長期の1960年代前後の時期がこれに当たります。日本企業は第1世代が結構得意で、GDPは西ドイツを抜いて世界第2位になりました(1968年)。
 
第2世代は「顧客中心のマーケティング」と呼ばれ、「顧客を満足させ繋ぎ止める」のが成功の鍵。1970年代の二度のオイルショックを経た1980年代前後の時期です。日本企業は世界の市場を席巻するチャンピオンに!
 
その後1990年代の移行期(ライフスタイル提案、ブランド、物語性重視、など)を経て、2000年頃から第3世代に入りました。
 
第3世代は「人間中心のマーケティング」と呼ばれ、「世界をより良い場所にする」のが成功の鍵です。第1・第2世代との発想の違いが大きく、欧米でも現在も暗中模索中です。
 
日本人には特に理解が難しいようで、第3世代への取り組みはまだ端緒にもついていません。GDPは4位になり、間もなくインドにも抜かれて5位へと、転落し続けています。

「人間中心」、「世界をより良い場所に」とか言われても、大半の日本人には意味不明でしょう。

5. 「決め手」の変化は第3世代マーケティングの核心
 
第3世代マーケティングについて詳しくは別稿に回して、ここでは買い手の選択の「決め手」に絞って解説します。第3世代への移行は、特にこの「決め手」を大きく転換させているからです。
 
結論から言います。
買い手が、
「わたしたちの毎日をより良くしてくれるモノ」
「より良くしようとしてくれる会社だから応援したい」
と思うかどうかが「決め手」になります*2。
 
「わたしたち」とは、自分が心情的に帰属する仲間・グループのこと。家族やご近所、友達や仲間、職場、日本、地球、宇宙など大小様々です。欧米では community と呼ばれ、community manager という新職種も登場しています。
 
わかりにくいので具体例を挙げます。
 
商品レビューでは、
「わたしたちの毎日をより良くしてくれる会社を高評価で応援したい/そうでない会社を低評価で排除したい」
「そうすることで自分も毎日をより良くすることに貢献したい」
こんな深層心理がレビューを書く動機になっている、
そう解釈するとマーケティング論と整合します。
 
「わたしたち」の“外”にいると感じる企業広告はあまり信用せず、“中”にいる人(自分に近いと感じる他の消費者)のレビューを参考にする ーーー これが広がり始めたのは2002年。以降、マスメディアと大手広告代理店の凋落が止まりません。
 
ステマ(ステルス マーケティング = 普通の消費者のレビューを装った広告)が法律で禁止されたのは昨年(2023年)。“外” の人が “中” の人のフリをするのは許せません。
 
 
6. 会社と社員の存在理由が問われる時代
 
企業にとって一番大事なのは、「世界/わたしたち/community」を本気で「より良くしよう」という動機・目的で、全ての事業活動が行われること。
 
事業の目的、働く動機、つまり、会社と社員の存在理由が問われ試されているのです。
 
欧米企業ではパーパス経営、ミッション・バリュー、ブランド(特にブランド インテグリティー)などが重視されるようになりましたが、これが理由です。残念ながら大半の日本企業ではただのお題目になっています。
 
エコも事業活動の動機・目的ではなく、“対応コスト”扱いをしている日本企業がほとんど。
 
ファン作りを重視する日本企業も増えてきていますが、その目的が “売上を伸ばしたいから” では消費者にすぐに見透かされます。売上も利益も結果であって目的ではありません。これでは本末転倒なのは昔から変わりません。
 
 
7. 人間中心
 
「世界をより良い場所にする」ことを会社の目的に据え、社員の働く動機となり、社内の全ての活動が行われるようになったなら、お客さんと同じかそれ以上に、社員にとって本当に幸せなことでしょう。
 
社員がお客さんの community の “中” の人と受け止められる振る舞いをする(会社の論理よりも community をより良くすることを優先する)職場を作ることが、マネージメント(HRM)の核心になってきています。
 
お客さんの購買行動の変化に適合する社員は「わたしたちの毎日をより良くする」ために働く、つまり、人間らしく働く。*3
お客さんが人間らしく行動するのだから、社員も人間らしく働く。
第3世代「人間中心のマーケティング」が目指すゴールです。


注釈
 
*1: コトラー先生は第3世代マーケティングへの移行に特化した本を何冊か出版されています。「マーケティング 3.0」(2010)、「マーケティング 4.0」(2017)、「マーケティング 5.0」(2021)と出ていますが、いずれも第3世代に関するものです。3.0 は理論編、4.0 はマネージメント編、5.0 が技術編といったところ。昨年 6.0 の原著が出たので、たぶん今年中には日本語訳が出版されるでしょう。
 
*2: マーケット(市場)には、消費市場(いわゆるB2C)とビジネス市場(B2B)がありますが、ここでは消費市場について書いています。ビジネス市場も第3世代への移行が進行しておりその本質は同じです。それでも消費市場とは異なる点もありますので今後別稿で書くつもりです。
 
*3: 「わたしたちの毎日をより良くする」ために働くことが人間らしく働くことだ、と言い切るのには違和感を覚える人もいるかもしれません。だとすると、その違和感の正体を自問自答してみることが、第3世代マーケティングの理解の助けになるかもしれません。「人はお互い助け合って世界(community)を生きている」。この原点に立ち返れば、人が「働く」ということの本来の意味を思い出せることでしょう。


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