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【小説】アラサー公務員と仕事サボりのプロ・第5話【フィクション】

【前回の話はこちら】

「確かに、うちの市役所の中で、”僕だけ”にしかできない仕事は無いかもしれません。でも、こんなこと言いたくありませんが、うちの市役所には優秀な職員とそうでない職員がいます。そして、僕は優秀な方の職員だと自覚しています。僕がいま任されている仕事は、優秀な僕でなければ絶対にできない仕事です!」

「”優秀な職員”ねぇ…… 鈴木君が考える、優秀な職員ってどんな職員なの?」

「えっ…… それは…… 仕事ができる職員…… かな……」

「仕事ができる職員ね(笑) じゃあ仕事ができる職員とできない職員の違いは何かな?」

「それは……能力的に高いか低いかですよ! 現実問題としているじゃないですか! 能力が高い人と低い人が!」

「公務員に能力の高い低いはないよ。あるとしたら、経験の差だけだよ」

「はぁ? どういう意味ですか??」

「さっき鈴木君はさ、自分のことを『優秀な職員だ』って言ってたけど、どうしてそんな優秀な職員になれたの?」

「どうしてって……」

「だって鈴木君も入庁時から優秀だったわけじゃないでしょ?」

「う……」

「最初の頃の鈴木君はすごかったもんねぇ~(笑) 税金の計算を間違えたり、文書を送り忘れたり、クレーマーを余計に怒らせたり、あとは……」

「も、もう! 昔のことを言うのはやめてください!! あの時は佐藤さんや他の皆さんに本当に迷惑をかけたと思っていますから! でも……」

「でも?」

「今は違います」

「どうして?」

「……いろんな経験をして成長したから、、、」

「そうだね。鈴木君は、公務員になって、いろんな部署でいろいろな経験ができたから、今の鈴木君がいるんだと思う。たぶん今の鈴木君は、俺と一緒に仕事をしていた頃の鈴木君と全然違うんだろうね。」

「はい……」

「そして、確かに今の鈴木君と同じ質の仕事ができる人間は、例えば鈴木君の同期にはいないかもしれない。でもそれは、その人が鈴木君と全く同じ経験をしてこなかったからじゃないかな?」

「……そうかもしれません」

「だから俺は、公務員を能力の高い低いで区別しちゃいけないと思うんだ。そこにあるのは経験のあるなしだけなんだからね」

「そうですね。僕は幸運にも、先輩や配属される部署に恵まれていただけかもしれません。もし僕が経験した部署がクソだったり、クソ上司ばっかりだったら、今の僕にはなれていなかったかもしれません」

「じゃあ話を戻そうか。元の話題は、鈴木君にしかできない仕事があるかないかだったね」

「そうです! 確かに佐藤さんの話だと、公務員に能力の高い低いは無いってことになりますが、それでも経験の有無はあるんですよね? だったら経験豊富な僕にしかできない仕事もあるんじゃないですか?」

「ふふふ。じゃあ質問なんだけど、もし鈴木君が今年度に人事課へ配属されていなかったら、いま鈴木君がやっている仕事は、人事課ではやってなかったのかな?」

「えっ」

「違うよね。もし鈴木君が配属されていなくても、その仕事は誰かがやってたよね」

「そう…… かもしれません……」

「いや、絶対そうだよ。だっていま鈴木君がやっている仕事は、絶対にやらなきゃいけない重要な仕事なんでしょ?」

「はい…… たぶん……」

「ほら。やっぱり鈴木君じゃないとできない仕事じゃないよね」

「え…… でも……」

「人事課長の高橋さんが『鈴木君にしか任せられない』と言ったことかい? そんなの鈴木君をやる気にさせるための嘘に決まってるじゃないか(笑)」

「そんな…… まさか……」

「だいたいさ。鈴木君も『高橋課長はやる気が感じられない。無能な上司だ』って言ってたじゃないか(笑)」

「いや、そんな言い方はしてないですけど……」

「あれ、そうだっけ?(笑) まあ、いいや。でもそんなふうに思ってる課長の言うことを、鈴木君は信用するの?」

「うぅ……」

「まあ、人間は信用したいものだけを信用する生き物だから仕方ないんだけどね。」

「分かりました。百歩譲って、いま僕がやっている仕事は、僕にしかできない仕事ではないことは受け入れます。公務員の優秀さは、経験の有無に起因するものなのでしょう。でも、だからといって『公務員が仕事をサボっていい』とは絶対にならない。ここだけは譲れません! 絶対に!!」

「ふっふっふっ。そんなに強い言葉を使っていいのかな? 後で後悔してもしらないよ??」

「大丈夫ですよ。だってね、公務員には『職務専念義務』があります! 地方公務員法第30条にも『すべて職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならない』と規定されています! これでもなお、『公務員は仕事をサボっていい』と言えますか!?」

「言えるね。公務員はちょこちょこサボりながら仕事をするべきだ」

「もう!! なんでですか!!??」

「だって公務員がみんな真面目に仕事をして、その結果みんなメンタルダウンしちゃったらどうするの?」

「極論すぎる!! そんなのは詭弁です!!!」

「そうかい? じゃあ言い方を変えよう。 鈴木君は以前、『高橋課長はやる気がない。無能だ。最低の上司だ。○ねばいいのに』と言っていたよね?」

「いや、だからそんな言い方はしてません!!」

「はっはっは。まあいいじゃない。じゃあさ、どうして高橋課長はそんなにやる気がないんだと思う?」

「えっ?」

「だって人事課の課長を任せられるような人だよ?」

「う~ん……」


【つづきは明日投稿します】

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