「今の自分を信じてみなよ」 現在地について20
昨年のあのゴリゴリ重厚な野音2022から、35thツアーの祝祭を経て、いったいどんなステージになるのか。
コンサートの4日前、不動の4人と細海魚さんのお名前が発表された。
私の認識が違うのかもしれないけど、サポートギターには歌係さんが歌に没入してしまってギターを弾くべきところで弾けなくなってしまう時の影武者的な役割もあるような印象。歌係さんは自分という楽器を奏でているから、同時に2つの楽器は鳴らせない。それが今回は不在ということは…。
「歌に専念する」のは「歌手だから」であり、その思いはソロ活動によって無事に成仏したのかもしれない。my room、Abbey Roadとふたつの 独演会を成功させ、「ソロ歌手としての弾き語り」が充実している今、4人の音を追求したい気持ちに対峙できるだけの、弾きながらでも歌える手応えを掴んだのだろうか。だとしたらやっぱり新しいフェーズなのかもしれない。
いや、そんな御託はもういい。
ゴリゴリの4人の音にこだわる気概を感じてヒリヒリする。
聴きたい曲があれもこれもと渦巻いて、でもサポートがいないならこの歌は可能性ないか…などと脳がパニック。期待値の針が最大値を振り切ったまま、当日を迎えた。
記憶がぶっ飛んでしまうのを覚悟で臨んだ神席だったけど、いざ始まってみると、忘れてしまったらもったいない、一瞬も見逃してなるものか、と強く思った。
そう思わせてくれる明るさがあった。
帰り道。
渡された重いものを抱えて、口を結んだまま帰路に着くのではなく、吹っ切れた爽快さを見届けて足取りも軽く、でもどっしりと重厚なサウンドに乗っているからふわふわしない。
そんなコンサートだった。
「自分とは何か? 何者なのか?」
「人生とは? 生きることの意味はなんだ?」
毎日を必死に生きる若者が自問自答を歌にぶつけた魂の咆哮は、文学的と評価はされてもセールスには直結しなかった。その不完全燃焼は、「俺はこんなもんじゃない、こんなはずじゃない」という承認欲求を伴って増幅していく。そして、その澱のようなやり場のない苦悩を吐露する絶唱が、いつしか持ち味とされるようになっていた。
この魂の叫びが方向性を変えるのが、19『昇れる太陽』と続く20『悪魔のささやき~そして、心に火を灯す旅~』。
悩むのはやめだ。
上り下りのエヴリデイを、新しく昇ってくる太陽の光を浴びて、毎日生まれ変わって、明日へとしっかりと生きていく。
35thアリーナツアーは、その決意を確認するかのように、この2枚のアルバムの曲が多かった。(その考察はこちら↓↓↓)
そして、その悩みと決別する前段階として、悩んでも答えは出ないと気づくのが、17『町を見下ろす丘』だと私は考えている。野音2023は、このアルバムを含めEMI期からの選曲が3分の1を占めた。
そこから見えてきたのは…、
自分と向き合い問い続けてきたこのひとは今、過去の自分と対話している。
悩んでもがいていた若き日の俺。
彼が追い求めることをやめた問いの答えは、夢を追い続けた道の先にあった。
だから、これからは一緒に生きていこう。
悩んで費やした時間を、青春を、もう一度ここから一緒に。
そんな、《昨日/過去の俺》と《今の俺》とのやりとりが見えた気がした。
1. 地元のダンナ
いきなり来た。文句なしのエレカシ史上最高最強の強迫観念&承認欲求ソング。
↓
ここから ‘かつての俺’ とのやりとりが始まる。
自分の歴史との戦い。
まだまだ行かなきゃならねえ が2回。
原曲の「行かなきゃあならない」が強気の語尾に。
1曲目からブチ上がる。
2. いつものとおり
目をつぶりがち。
口の右端をマイクに引っ掛けながらギターを弾く。
リードギター俺。
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歩いていくしかないから。
歩け歩け、若次よ。
↓
両手の人差し指を立てて大きく円を描くポーズ。
若次と今次の会話。
3. もしも願いが叶うなら
イントロ1音のみの原曲が、オサレアレンジされていて何の曲かわからない。
目をつぶって歌とアルペジオに集中。
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若次の苦悩。
涙のあとには笑いがあるはずさ。
いつもの俺を笑っちまうんだろう。
↓
若次の心の叫び。
↓
それに答えて、今次が若次を鼓舞する。
4. 季節はずれの男
Abbey Road で歌ったから、まさか!と。
嬉しい。イントロを聴いて震えた。
↓
ここの気合いすごかった。
いつだって本気で自分自身と戦う勝負の歌。
↓
若次から今次へ「おかえりなさい」。
↓
口の右端でマイクにかじりつく。
“No more cry” は ‘この空の下で’ と歌い上げるフレーズが印象的だし、“yes. I. do” でも ‘今日も星空の下cry'。《飛ぶ》《羽ばたく》、そして《空》もキーワードだと考えていたところに、
5. 赤き空よ!
原曲イントロなし、オサレイントロ何の曲かわからないシリーズ。
「エビバデー!!」からの伸びやかな第一声。
ここでちょっと発声を落ち着かせる。
↓
若次よ、挫折しても敗北しても、輝かしい未来を夢見ていいんだぜ。
↓
その夢を叶えるためには、いつだって一日ずつをしっかり生きていく。
だから
↓
今次が、若次の来し方に想いを馳せる。
↓
若次と今次は「同じ星を見ている」。
↓
‘明日の空へ’ リフレインからの「行こう~~~」と原曲にないフレーズ。
ひとしきり涙を流したら、日常へ、明日の空へ。
→“No more cry” ‘涙よさらば’
涙は心の澱を流してくれる。
6. デーデ
「古い曲。」
テンポ遅め。
↓
ここのドヤ顔。
心身のペースを整える。
7. 珍奇男
このところお気に入りの前置きはなし。
「聞いてください、ああ、そう」
もしかしてこの歌が一番安心して聴いていられるかもしれない。
ハプニングがあったとしても(エレキに変えて少しして「アンプの位置を!」と右手を伸ばし掌をくるっと回して指示。イシクン硬直。上手のおたらさん険しい顔でミキサー調整。イシクン下手の丹下さんに熱視線。昔の映像で傾いた男椅子を直そうとして蹴り倒しちゃった時のような、今にもアンプを蹴りに行きそうな緊迫感。
ミヤジとイシクンが向かい合ってギターをかき鳴らしてる間、トミと成ちゃんはひっきりなしにアイコンタクト。
鬱屈を思いっきり発散させて、力づくで着地させる。
8. 穴があったら入いりたい
イントロのギターとピアノがかっこいい。
豚っ鼻のご機嫌ロックンロール。
↓
若次よ、今次は浮世小路で待ってるぜ。
9. 四月の風
曲前にチューニング。
アンプの上に白いチューナーが置いてある。画面の中央の赤ラインから左右に現れる緑ラインの扇形が均等になるようにチューニングするのがよく見えた。チューナーに向かって挑むように立ってペグをつまむ姿が超絶にエモい。
↓
今次が未来で待ってる。
↓
若次が仰ぐ空。
俺の全てがある赤き空の下で「今の俺」が暮らしている。
No more cry、この空の下で、心がうたうよ。
↓
若次に捧げよう。
↓
やっと若き日の自分と向かい合えた。
‘君に会えた 四月の風’ を高らかにリフレイン。
瑞々しい活気が漲ったところで第1部終了。
10. さらば青春
ギターとキーボードが綺麗。
1番Aメロまで歌って、
「ごめん、もう一回やっていい?」
「『sweet memory』ってベスト盤に入ってる、」
「自分で選んだんですけど、」
「30年くらい前。26、7年前。」
「すまん」←これもう眼福&耳福。
このコンサートの核。
↓
歌い直しても、1番で2番冒頭のこの言葉を二度。
雨まじりの初秋の野音は、冬のにおい。
↓
今次から見た若次。
今まさに、手を取り合って共に生きようとしている。
だから、歌を作った当時のリアルな感情よりも、今現在の自分が当時の自分に対して抱いている感情の方がどうしてもリアリティーがある。それらが錯綜したために歌詞が混乱した…のか…。
(そもそもポニーキャニオン期の特に『愛と夢』あたりは、Aメロが1番は2回、2番は1回だったり、1番と2番の歌詞が対になっていたり、サビ繰り返しのパターンも凝っていたりして、間違いが起こりやすそうな曲が多い。)
このコンサートは《若次の青春を取り返す》のがテーマだったように思う。
だから「さらば」という歌詞は難しい。
そこで懸命に感情を乗せられる言葉を探った結果、出てきたのは「俺」。‘俺は…遠い遠い思い出の中’ ‘俺は…輝き始めたけれど’ と「俺」が最前面に現れる。
なんというリアリティー。
そして「いつもの町に遠い遠い夢を重ね合わせて、ばからしいぜ」と思っている若次が、今次にはしっかり見えているから、1番の「何も見えなかった」よりも2番の「ばからしいぜ」がどうしても先に出てきてしまって、「何も見えなかった」がなかなか出てこない。
にしても、遠い遠い遠い~、俺は俺には俺には俺には~って、…天才。。。
11. 甘き絶望
↓
若次よ、その光に向かって歩け。
↓
「自分」と右手の人差し指で胸を突く。
若次の未来にいる「今の自分」。
12. 武蔵野
湿り気を帯びた風が、東から西へ(上手から下手へ)吹きわたった。
野音の神が降臨したと思った。本番中に体感した風はそのひと吹きのみ。
ギターを弾きながら顎を上げて歌う姿はMVのまま。
↓
胸に手を当てる。
13. Baby自転車
イントロやり直し。
一瞬また “四月の風” をやるのかと。からの(嬉)
↓
今次と若次の二人乗り。
↓
「越えよう」リフレイン。
↓
この辺りでちょっとこみ上げて泣きそうになって、小鼻が膨らむのが見えた。
14. 流れ星のやうな人生
「野音ベイベー〜〜
ようこそ〜〜 素敵な時間を過ごそうぜ〜
エブリィバディ~~~」
イントロわからないシリーズ。
↓
ステージ前方に歩いてきてガオーポーズ、床にへばりつく。
暴れて照れ隠ししたくなるほど、本気で明日を追いかけ回してきたのかい。
↓
夜空の向こうには明日があるのに辿り着けない。
でも、陽が沈んでまた昇って、流されてゆく流れ星。
↓
自分探しを続けてきた若次から今次へのメッセージ。
15. 悲しみの果て
「それ(雨)も含めて楽しんでくれ。
今日の野音。10月8日!みんなに捧げます」
↓
今次から若次へ、そして全てのエブリバディへ。
16. はじまりは今
イントロわからないシリーズ。
新しいフェーズ。最も聴きたい歌だった。
だが、若くてポップなこの歌を…まさかやってくれるとは(泣)
↓
“さらば青春”「遠い遠い夢を重ね合わせて、ばからしいぜ」と感じていた《いつもの町》。
“赤き空よ!”「出かけてゆく、暮らす世間」。それが鮮やかに見えた。
↓
今次が若次に、僕らの夢を迎えに行こう、と呼びかける。
このあたりから、、、こみ上げてきてる。。。
↓
「僕」と右手の人差し指で胸を突く。
今次が若次をつかまえた。
今次から若次へのメッセージ。
…ここで今次の涙腺ダム決壊。。。
いつもの町が鮮やかに見えた。光る町。
その町の夢を、未来を、君に届ける!
ここから共に。はじまりは今、僕らの目の前にある。
↓
今次が若次を迎えに行く。
町に咲く花を、ステージ上で浴びる光を、届けに行くよ。
…そりゃあ、泣くわ。。。
この歌での涙は、《my room》の “君がここにいる” で流れた涙と通じるものがあるような気がする。
“yes. I. do” 。答えを見つけた現在の自分から、答えを探して悩みまくっていた頃の自分 ‘かつての俺’ に対して謝りたい。「謝る」という字は、謝罪の謝だけど感謝の謝でもある。その上で今、その過去の自分を迎えに行く。もう一度、ここから一緒に始めよう、と。
そんな想いがめぐったように感じた。
17. 星くずの中のジパング
イントロわからないシリーズ。
↓
誰のことだろう。
悩みすぎて望んだ栄光を掴めなかった若き日の自分?
↓
滅んだヒーローは星の数ほどいるけど、
戦いにこだわって敗れ行く定めだとしても、
太陽と共に生まれ変わって、生きろ。
↓
まだまだ旅の途中だから。
原曲の「さあ行ってみよう」の部分、「もう一回」と。
↓
若次が今次と共に切り拓いていく未来。
↓
力強くリフレイン。今いる場所。
18. パワー・イン・ザ・ワールド
↓
「やっぱり飽き足らない」の前に、原曲にはない「でも」。
「でもやっぱり飽きたらない」
19. No more cry
「出来たてホヤホヤの。」
「大好きな歌です。歌詞が好きなんですよ。」
レルロレル歌ってるのかと思ったら、終演直後にMVが公開され…、英語だった。
この音韻に意味を乗せられるようになったのか!しかも英語で!
…これは画期的。。。
涙よさらば。なぜなら、
↓
これは
許せかつての俺よ、
俺は今を生きてゆくぜ。
と語りかけた今次への、若次からのリプライ。
「昨日の俺」から、「俺」に呼びかけている。
これを歌えたことによって、過去の呪縛から解き放たれた…。
壮大に空へ空へと羽ばたく第2部のエンディング。
20. シグナル
アンプの向きを気にする。
丹下さんが出てきて、少し方向を変えて、後ろのつまみを調整したように見えた。
↓
今次から若次への励まし。
若次が歩んだ時間が、今次のシグナル。
21. 友達がいるのさ
ミヤジ、成ちゃんと向き合ってチューニングを合わせる。
続けてイシクンと向き合ってチューニングを合わせる。
「この音でいいんだっけ?」
2022新春以来。2022野音でも35thアリーナツアーでも演奏されなかったから久々に聴く。
やっと帰って来られたんだ、バンドに。
まるでフィナーレかと思うような盛り上がり。
友達に会いに町へ行くんじゃない。
友達が、地元で待っててくれるあいつらがいるから、どこへだって出かけて行ける。
22. RAINBOW
からの、友達との結束を力強く確かめたところで、俺がヒーローさ。
もはやテーマソング。
歌が終わってミヤジが余韻ポーズをしている間、それが解かれるまで、イシクンはスクワット、成ちゃんは俯いて、トミはトミュートのまま頭を垂れて静止している。
数秒が永遠にも感じられるもの凄い荘厳さ。
23. so many people
“ガストロンジャー” の「勝ちに行こうぜ!」じゃなくて、
↓
目を剥いてガナる表情はMVと変わらない。若次のヒリヒリやスンみが、醸成された貫禄を纏って、聴衆の渾身の拳を先導して、この上なく輝いていた。
この歌と出会って、自分の中に革命を積み重ねて今、この歌に合わせて両腕を突き上げられる自分が最高で最幸と思える。ありがとう!
24. yes. I. do
↓
「あるのさ」を「あるだろ」と。
35th での “旅” 、「ぶざまなツラで言い訳なんかしたくないのさ やってやろうぜ」を「言い訳なんかしたくないだろ やってやろうぜ」 と歌ったの思い出してシビれる。
25. ズレてる方がいい
↓
若次と今次の夢。
今次は若次と泣きたい。
26. 俺たちの明日
「OK…っていきなり英語ですけど。
さあ、やってやろうぜ!さあ、出かけようぜ!さあ!さあ!」
ここではもう、今も昔もなくて、ステージと聴衆のエール交換。
27. ファイティングマン
「エブリバディ、ファイティングマン!!」が久しぶりに聴けて嬉しい(泣)。
野音でしか言わないのかもしれない。
↓
渾身の歌唱。
「俺を力づけなくていいよぉ~」と言っていた22歳が、57歳では客席に降臨ですよ、、、
もうこの瞬間は夢だったのかと…(神が、神が、ほぼ目の前でベンチの上に立たれた…)
100年目の、35周年の、33回目の、強いオーラに包まれて本編フィナーレ。
28. 星の降るような夜に
聴きたい歌を書き出した時に真っ先に思いついたのがこの歌。
仲間と歩いて行く歌。
「明日にはそれぞれの道を追いかけてゆくだろう、風に吹かれてゆこう」じゃなくて、
29. 今宵の月のように
この歌に対しては、複雑な感情を抱いていたのではないかと思っている。
ヒットもしているし、多くの人に愛されて取り上げられることも多いから、愛おしさはもちろんある。でも、俺が売れたいのはこういう歌でじゃないんだ!という相剋もどこかにあった。だから、ソロ充実期の2022年の野音~2023年の春フェスではやらなかった。
その歌を、35thツアー~夏フェスの大観衆の前でのパフォーマンスを経て、やっと受け入れることができた。認めることができた。「唯一のヒット曲、聴いてくれ」という前置きでセトリのこの位置に持って来ることができた。これも新生エレファントカシマシの新しい1ページに他ならない。
30. 花男
伝説の渋谷公会堂ライブのアンコールもこの歌。
粋なことをしてくれる…(泣)
エレファントカシマシは《青春の実験場所》であるべきだし、ソロ活動は《音楽の実験場所、エンターテインメントの実験場所》であるべき、と宮本は語っていた。
30周年の頃、バンドが疲弊してしまったのは、長いこと《音楽の実験場所》をバンドに求めてきていたから。その解決を図るためにソロに振り切った。そして自由になったバンドは《青春の実験場所》に還ることができた。
目をつぶって歌とギターに集中する姿、ギターを下ろした途端に目が開いて躍動する姿から、その葛藤と解放の軌跡が溢れているようで、眩しかった。
「今の自分を信じてみなよ」
何のために生きているのか?
意味なんてない。
夢を追う人ならば知ってる
生きる それが答えさ
ここに辿り着くまでの、夢を追いかけてきた time is time。
その青春の時間を取り返そうとするかのような、明るい歌ばかりだった。
No more cry
この空の下で
No more cry
心がうたうよ
本当にキラキラと輝いていた。
青春を、懐古でも回顧でもノスタルジーでもなくて、本気でやり直す…、取り戻す…、
いや上手い表現が見つからない、
35年目の青春が、ただただそこに在って、輝いていた…
…隅田川の水面のように。
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