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夢の森のヌシ

美しい森に立っていた。
素足は柔らかい草と苔に包まれ、頭上からは鮮やかな葉から漏れた光が降り注いでいる。昔、画材店で見た300色セットの色鉛筆のように、緻密な色差で構成された美しい景色だ。きっと、現実には存在しえないだろう。
惚れ惚れと見渡しながら、ゆっくり歩く。
人の顔ほどもある蝶が、名画のような羽を羽ばたかせて飛んでいく。宝石のような青い翼を持った鳥が、長い尾羽根を風になびかせる。
ふと、鈴の音がした気がして足を止めた。
深みのあるピンク色の花が咲いた低木。その向こうから何やら話し声が聞こえる。
「行こうよ!大丈夫だよ!!」
「でも……怖いよ…………。」
「平気だって!ほら!!」
「あ、危ないよー!」
ガサガサと低木が揺れ、大きな何かが飛び出してきた。反射的に避けると、大きい何かはズザーッと地面に滑った。
くま……?いや。それにしては毛並みが羊っぽい。それにカラフルな蓑みたいなものを着ている。
「だから危ないって言ったのに……。」
低木からもう1人(?)が出てきた。
毛並みは同じだが、耳が地面に付きそうなほど長く、蓑の色も落ち着いている。身長は私の腰ぐらいだが、横幅も同じぐらいある上に頭身が湯婆婆すぎて圧迫感がある。手をいっぱいに広げたぐらいの大きい目で私を見上げてきた。宇宙みたいな青い瞳だ。
「ごめんねーうるさくて。」
「いえ、おかまいなく……。」
思わず首と手を振る。
「まるで僕がお騒がせ者みたいじゃないか!」
カラフルな方が起き上がって、ノシノシと詰め寄ってきた。こっちはテディベア感がある。耳が丸いし、なんか麻呂眉付いてるし、顔面に対して緑の目がつぶらで可愛らしい。
「騒がしいじゃないか。」
「な、いいもん!じゃあ僕とこの子だけで行くから。」
テディベアが私の手を掴む。
わーすごいもこもこ^^
人生で体験したこのと無いもこもこ感に、思考が停止した。
テディベアと垂れ耳が何やら言い合っているが、私は手のひらの感覚に全神経を向けていて聞こえない。
抜け毛とかあるのかな。ちょっと持ち帰らせてもらえないかな。この毛に埋もれて寝たい。
そんな事を考えていると、反対の手も極上の毛に包まれる。
「行こう。良いもの見せてあげる。」
垂れ耳がのそのそと歩き出した。
もう十分良い思いしてる。このふわふわ感最高。猫もきっと気に入るだろう。
はっと意識が戻った。
得体の知れない生き物に手を引かれて、よくわからないまま付いていってるけど、これってまずいのでは?
「あの、どこに行くんですか?」
慌てて2人に話しかける。
「良いところだよ!」
「きっと気にいるよー」
可愛い見た目で怪しい文句を言うな。
未成年に話しかけてるキモジジイみたいな言葉に心の中で突っ込みつつも、毛の誘惑に勝てなくて手を離せない。
やはりもふもふは正義か。
そう思っていると、だんだんスピードが上がってきた。
「行くよ!」
「なにが!?」
うきうきのテディベアに突っ込んだ瞬間、地面がなくなった。同時にふわふわの手が離れていく。
「ぎゃー!!!!!」
情けない声を上げながら、遙か下の森に落ちていく。しかし、思ったような衝撃はなく、トランポリンのように身体が跳ねた。
「あはは!びっくりした?」
「そんなに叫ばなくても大丈夫だよー」
ぽよんぽよんと跳ねながら笑う2人に、顔が赤くなるのを感じる。
「このっ、待て!!!」
恥ずかしさから2人を追いかけると、笑いながら縦横無尽に跳ねて逃げ回る。2人の耳に付いた、青と緑の耳飾りがキラキラと輝き、揺れる蓑の隙間から尻尾が見えた。
飛ぶように走っていると、突然視界が開ける。眩しさに手をかざして尻もちをついた。
「さあ、見てごらん。」
左右に立った2人の向こうに、美しい湖が広がっていた。
大きなクリスタルなのでは無いかと思うような湖面に、木々の鮮やかな緑や空の青が反射して、オーロラのような模様が浮かび上がっている。
「気に入った?」
「……うん、すごくきれい。」
あまりに幻想的な光景に言葉が遅れる。そんな私を見て、2人はにっこりと満面の笑みを浮かべた。
「またおいで。」
「いつでも待ってるよ!」



夢でした。私はよく変わった夢を見るのですが、大概は良い夢では無いです。しかし今回は、今までにないほど美しく楽しい夢でした。あの光景を絵にするのは難しいので、森のヌシのようだった2人のあみぐるみを作りました。
せっかくなので、売りに出しています。もしかしたら、幻想的な森に連れて行ってくれるかも?

販売先(メルカリ)↓


制作裏話ですが、材料にこだわって丸一日歩き回り、気に入ったものを選んだところ材料費が凄いことになりました。主に耳飾りの宝石で……。でも、かなり見た通りに作れたので満足しています。
良い夢見てねっ!



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