8/26の粒「怒ってる男の子」

わたしの男の子は いつも怒っている

魚を焦がして怒ってる
時間を間違えて怒ってる
パソコンがうまくうごかなくて怒ってる

間違うと怒っちゃう
予定通りにいかないと怒っちゃう

わたしの男の子は
いつも誰かに怒ってて
いつも何かに怒ってる

わたしはその都度 
男の子が怒った原因のさらに奥に自分のせいじゃないかという種を
探したり
なにを言えば 怒りがおさまるのかなって
怯えながら考えるの
小さな猫のように
そして「怒らないで」ってお祈りしていたけれど

わたしはわたしの世界を生きることにしたので
男の子が怒っていても
わたしは静かな湖の湖畔にいることができるようになった

わたしの男の子は あいかわらず
 いつも誰かに怒ってて
いつも何かに怒ってて
いつも自分に怒ってる
自分の世界に怒ってる

ある日
わたしはその怒りを じっと見つめてみた
するとそこに

泣いている男の子がいた

「どうしたの?」と聞いた
しばらく黙っていた男の子は
赤い空が群青色になってから、夜空にひとつ星があらわれたように
ぽつっと答えた
「わかってもらえない」

「さみしい」
「かなしい」

そう言いながら 口調がだんだん強くなっていき
それが 赤い焔のようにうねり さみしいとかなしいを消していった

そうか
怒っていたのは、わかってもらえなくてさみしくてかなしかったんだ
そんな自分をきらいだったんだ
だから誰かと自分に怒っていたんだ

わたしはわたしの男の子を抱きしめる
でも
怒っている男の子の気持ちを なだめることはできない
わたしの世界と 男の子の世界は 鏡のように映り合っているだけだから

だから
わたしはわたしの中にいる女の子をなだめようと思った

だいじょうぶ だいじょうぶ
お魚がこげたって だいじょうぶ
時間を間違えてもいいじゃない
パソコンが動かなくてもどうにかなる
予定通りにならなくてもいい
だいじょうぶ だいじょうぶ
さみしかったね かなしかったね くやしかったね
だいじょうぶ
あいしてる
どんなあなたでもあいしてる
だめなんてことはひとつもない

ひとつもない

あのときの あのときの 女の子に
その都度 だいじょうぶだいじょうぶと伝える
男の子と一緒に だきしめ なでる

いつも怒っている わたしの男の子
大事な男の子
きみを変えることなんて
わたしにはできない
ただただ抱きしめるだけ
わたしの女の子と わたしが 変わるだけ








 



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