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『カタツムリレポート#2 株式会社放電精密加工研究所』 後編

JST「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」地域共創分野(慶應義塾大学✖️鎌倉市)リスペクトでつながる「共生アップサイクル社会」共創拠点の循環者学習分科会が運営するnoteです。こちらのnoteでは、子どもの目線でわかりやすく技術を伝えたり、研究者や技術者などの「みらいをつくる職業」をもっと身近に感じられるように、参画企業の取り組みやエピソードをインタビュー形式でご紹介していきます。


前編はこちら

研究にフォーカス!

今の取り組みや研究内容はどんなことですか?

社内で混合溶融とフィラメント化した木質高充填(もくしつこうじゅうてん)プラスチックを3Dプリンタで造形している様子

飯島
会社を飛び越えて現在取り組んでいる研究などがありましたら、お聞かせください。

高橋さん
取り組みとしては、弊社が本コンソーシアムに加盟した要素でもあります混合溶融技術という技術を活用した素材や製品化に向けた研究を行っています。簡単に言うと、素材を混ぜ合わせる技術で、プラスチックの新たなリサイクル手法としての活用や、バイオマス素材の木や竹とプラスチックを高配合で混ぜることで、新たなサイクルを生み出す素材にすることを奨励しています。現在、石油製プラスチックが問題になっていますが、じゃあ生分解性のプラスチックなら埋め立てできるからいいのかというと疑問です。プラスチックは、もともと日本の化学メーカーさんが頑張って技術の蓄積がされた本当にいい素材で、だからこそこれだけ世の中に普及していると言えます。何でもかんでもプラスチックが悪いかと言われると、そうではなのではないかと。海ごみは問題ですが、それは地上から流れてきていることが問題で、これからどういう価値観が社会に必要で、弊社で何ができるかというのを考えているところですね。

天然資源として有効活用されていないおが屑や竹などとプラスチックを溶融して再資源化した素材のサンプルをたくさん見せていただきました。金型を使って射出や押し出したものから、3Dプリンタで出力したものまで様々です。
おが屑をバイオマス原料とした場合のペレタイズまでの素材の工程。ブレンド剤であるPPとおが屑の粉末を混ぜることによってプラスチック加工の原料となるペレットが完成します。

飯島 
本当に必要なものを残していく上で、これはこういうふうに変えられるよねとか、これは必要な技術、高い技術があるから残して使った方がいいよねとか、そういうことを考えていくことが必要なのかなと思いました。それを考えていく上で、どのような視点を一番重要視されますか?

高橋さん 
難しい質問されましたね(笑)
例えば先ほどお話した木とプラスチックを混ぜる場合、木材が有名な産地もありますが、私は水源に整備が必要な県の木材から使うべきではないかという発想を持っています。林業が栄えないと山は衰退して結果として水源がダメになってしまいますので。一方、木とプラスチックを混ぜた製品を家でポイッてプラスチックごみとして捨てると、今の回収ルールではリサイクルするときに邪魔になります。回収処理の方からすれば、物性が何だかわからないから、たぶん燃えるゴミ行きか、埋めるゴミ扱いにされてしまいます。もちろん回収すればまたリサイクルできるのですが、それはあくまでも我々が回収できる前提であって、そういった観点でいくと、机だったら机、家だったら家というように、各製品や必要な単位での基準でループしていくものを分けていくことがよいのかなと。本コンソーシアムで提唱されているカタツムリモデルという考え方はまさしく大事な発想だと思っていて、その中で、本当に必要なものを弊社が提供できるようになっていくことが私の仕事だと思っています。

飯島 
ありがとうございます。難しい。。。

高橋さん 
難しいですよね。よく社内でもそのような話をするのですが、どういったものがあったらよいか自分たちだけが決めるわけではないので、まずは田中浩也先生や本コンソーシアムの企業さん、色々な方々と話し、学びながら具現化していく必要があるなと考えています。

研究者や製造・生産者について

飯島 
研究者や生産者などの製造側は、これまであまりクローズアップされてこなかったように思いますが、エンドユーザーが理解しやすくなったり、直接的な関係があれば、サステナブルな社会が実現していくのかなとイメージしたのですが、それに対して何かイメージがあれば教えていただきたいです。また、採用担当をされていたので、ものづくりをする上で向いてる性格や生き残るマインド、人材などについての2点を伺いたいです。

高橋さん 
資源循環はプラスチックだけではなく木や竹などもあり、それぞれの特性があります。弊社もバイオマス素材を扱っていますが、元々は金属加工が得意な会社で、私も学生時代に金属を勉強してきた人間なので、木や竹などに関して細かいことはわからなくて、生産者側の人たちとお話しすると普段から触れている人たちの知識量は全然違うものです。そこには苦労や想いがありますので、そういった方々とどう繋がり、お互いによりよいものづくりや社会の実現にむけて行動できるか、ということで相談させていただきながらいい関係が作れればと思っています。こうした輪が少しでも普及していければ、購入者の人たちも自分の地域のものだよねとか、これはこうした人たちが関わっているのだなぁとか、もっとイメージが湧きやすくなると思います。
二つ目のものづくりに向いている人ですが、話すことが苦手でも大丈夫だと思っています。ものをつくるという仕事になると、1日の就業時間で朝の挨拶で喋ったあとはひたすら機械を動かして集中しますので、人と喋る機会は正直少ないです。もちろん自分の考えを伝えることは大切なので、自己を正しく表現する仕方は会社でも伝えていきますが、大事なのは「作っていてあきらめない心」ですね。今できないものも翌日できるかもしれないし、10年後できるかもしれない。心が折れるのは常に自分側なので、技術者や研究者であれば、あきらめない心を持っているということが一番大事かなと思っています。

飯島
ありがとうございます。前回の花王松本さんの記事もリンクしました。今日できなくても明日できるかもしれない、失敗と思っていても、実はこっちの方が良かったじゃんというような。そこに気付ける自分で常にいるということ、潜在意識の中で常に持っているということを仰っていたなと思い出しました。

高橋さん 
そうですね。ものづくりはトライアンドエラーで、失敗というものは要求に対しては失敗かもしれないけど、その手段がまた違うときに役立つかもしれないですし、それが思い出せる思い出せないというところは、一つ大事なファクターだと思います。

飯島
研究で思い通りの結果にならなかったから、少し寝かせておこうということはあるのでしょうか。

高橋さん 
世間一般の研究とは、そういうケースが多いのではないでしょうか。

飯島 
そうなのですね。納期や期日などはどうなのでしょうか。

高橋さん 
研究の定義によるとは思いますが、一番代表的な研究機関は大学ですよね。ずっと同じテーマの研究を継続されている方もいれば、テーマを変えながらやっていく方法もあると思います。企業だと事業性のあるなしは大事なので、この期間までで答えが出なければ諦めるという区切りは絶対必要だと思いますが、仮に打ち切りになったとしても、結局そこでついてしまった火はなかなか消えないかもしれない。自分がまた火を起こすのか、他からの関わりで起こされるのか、というところは絶対残るものだと思います。

飯島 
研究のポイントごとに常に振り返りをしていらっしゃるということですね。あーだねこーだね、というようなコミュニケーションが常に大事ということでしょうか。

高橋さん 
そうですね。あとはそれを社内研究だけではなく、色々な方と話していくと、自社では役立たなかったけど、実は他社では役立つかもしれない、ということが結構ありますね。世間で難しいと言われていても、我々からすると簡単な技術であったり、切り口が違うだけで解決することもありますので、とにかく話すことが大事だなと思っています。

未来にフォーカス!

実はフクザツ。。。プラスチックの産業構造的なお話


飯島

プラスチックの資源循環というところで、色々な企業さんはある程度姿勢をオープンにしていく必要がこれからはあるのかなと思うのですが、そのあたりはいかがでしょうか。

高橋さん
過去から蓄積された技術内容をオープンにしますかと言われると、一番大事なところは正直言えないですし、御社で全部知っていると言われても、はいそうですとも言えない内容だったりするので、難しいと思います。ただし、そもそもですが、「プラスチック、じゃあどうする?」という話は絶対にオープンしなきゃいけないなと思っています。それが、私が大学や自治体と連携して取り組ませていただいている背景にもなります。

飯島
そうすると製品ごとでのガイドラインをつくったり、各会社さんで足並みある程度そろえたりして、リサイクルしやすい状況を作るみたいにしていく必要があるのかなと思いましたが、いかがでしょうか。

高橋さん
色々なアプローチがある中で、ガイドラインを作るということが一番いい方法じゃないかなって思っても、業界ごとに特有の課題や様々な事情があると思います。業界の垣根を越えて、プラスチックリサイクルは今まさに取り組みだされていますので、それがもう少し機能的なイメージができるといいのかなと思っています。

飯島
ありがとうございます。複雑なのですね。

高橋さん
プラスチックに関していえば、私は複雑だなと思っています。もともとの素材から製品までを考えると、プラスチック素材を化学メーカーさんが作って、製品屋さんが製品化するのだけど、横には金型屋さんがいて、それを販売する人や商社がいて、最終的に使った後に回収する事業者さんがいるというところで。じゃあ回収している人たちから化学メーカーさんに情報が帰りますかというとなかなか帰らない世界で、とても分断されている印象です。弊社は混ぜる素材提供から製品化まで繋げていますが、あれもこれもできてしまうからこそ「ん?」という疑問点が正直あります。何が一番よいかというところを模索しながらやっていこうと思っています。

飯島
サイクルが一つじゃないということでしょうか。

高橋さん
ですね。どうしてもイメージするものはペットボトルやカトラリー、ストローというようなものがまず最優先で出てきますが、ではそれ以外のプラスチックでは、例えば日用品のフィルムやビニールは確かに捨てますが、家電を捨てますかと言われるとそんなに捨てないですし。その製品のライフサイクルごとにまとまりがあると思います。そこが能動的に動いてくるとよいのかなと思います。

こちらのデジタルサーボプレス機エリアではバイオマスプラスチック等のものづくりが進められています。業界を超えたコトづくりのために機械のシェアリングサービスを開始しているとのことで、詳しくはこちらのサイトをご覧ください。
バイオマスプラスチックのプレス成形試験の様子

これからの子どもたちに向けて

飯島
ありがとうございます。子供たちに向けてというところで、研究成果や自社の取り組みなどを、どんなふうに使ってほしいですか?

高橋さん
弊社はお客様すなわち社会の役に立つことが自社の為になるという考え方がありますので、いままでもこれからの時代も子どもだろうが大人だろうが、これを利用していていいねと思われるものを提供していきたいと考えています。現在取り組んでいるプラスチックの資源循環も、皆さんが納得できるものを提供したいと考えています。要は「日常になる」という表現が一番いいと思っています。今だからこれ目指しますという話ではなく、これが当たり前だよねという世界観になることが理想です。それが5年なのか10年なのか、まだまだ先かもしれないが。

飯島
この技術やこの製品があるから、生活が送れるとか。

高橋さん
そうですね。そういうものに関与していくということですね。

この研究の先に見る夢


飯島

ありがとうございます。最後になりますが、今の取り組みの先に見る夢はどういったことでしょうか。

高橋さん
ものづくりが好きな人がもっと増えてほしいなと思っています。本当に、ものを作ることは楽しいので(笑)今取り組んでいるテーマは価値観の変革が必要という難しさもありますが、資源を循環させていくという技術ができ、それを推進していく1人として、「循環を生み出す人」とは何だろうと考えたときに、こうやってものを作っていく人たちがいるのだなと、循環の輪のことをもっと知ってほしいです。
それは弊社だけではなくて、例えば原材料の生産者の方々でもいいと思いますし、加工品や製品なども含め、ものを作る人たち、生産者·製造者の人たちが、もっとクローズアップされていく時代になるとうれしいな、ということが今の私の夢ですね。

ーーー高橋さん、ありがとうございました!!
複雑で難しいからこそ、業界全体や他の機関との連携が重要ということをおっしゃっていたことが印象的でした。本当に必要なものって何だろうということを考え、それが当たり前に日常になっていくことは、企業側、消費者側、どの立場の方々にとっても大切なことなのだなと感じました。(飯島)


カタツムリレポート#3はこちら


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