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『カタツムリレポート#3 三菱ケミカル株式会社』 前編

JST「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」地域共創分野(慶應義塾大学✖️鎌倉市)リスペクトでつながる「共生アップサイクル社会」共創拠点の循環者学習分科会が運営するnoteです。こちらのnoteでは、子どもの目線でわかりやすく技術を伝えたり、研究者や技術者などの「みらいをつくる職業」をもっと身近に感じられるように、参画企業の取り組みやエピソードをインタビュー形式でご紹介していきます。


三菱ケミカル株式会社さんにお話を伺いました!

リサイクリエーション慶應鎌倉ラボにてインタビューを行いました。

こんにちは!大学生カタツムリレポーターの飯島詩(うた)です。
カタツムリレポート第3回目は、 三菱ケミカル株式会社さんにお話を伺いました。インタビューにお答えいただいたのは、グローバル企画本部戦略部GXグループの多田和信(ただかずのぶ)さんです。

人にフォーカス!

これまでのご経歴を教えてください。

飯島
鎌倉生まれ鎌倉育ちの大学生で飯島と申します。本日はよろしくお願いいたします。

多田さん
よろしくお願いします!実は私も鎌倉生まれで育ちは藤沢、ずっと湘南で生まれ育っていたのですが、大学院卒業後5年間滋賀県に転勤になり、今は希望で関東に帰ってきています。昨年まで研究員をしていて、現在はGX戦略部におりますので、昨年までの話をさせていただきますね。

飯島 
承知しました。まず大学院ではどんな研究をされて、どんなきっかけで入社されたのか、というところを教えていただけますか?

多田さん 
私は慶應義塾大学の大学院で、放射性廃液から貴重な金属を取り出すという研究をしていました。現在廃液は、地下に埋めたり処理したものを流すなど捨てるしか方法はないのですが、この中にはパラジウムなどの貴重な金属も溶けていたりします。それらをくりかえしリサイクルして有効活用しようという研究テーマがあり、当時学生なりに考えて、あと40年社会人をやるなら将来性のある研究をしたいなと思ってこの研究をしていました。
就活の時はリサイクル、化学、原発関係の会社などを見ていました。そのうち幅広く色々な製品に使われている素材メーカーに興味を抱き、あまり時代の流行り廃りに左右されない良さがあると思い、化学メーカーを選びました。元々化学専攻でしたので、そこもマッチしました。
リサイクルという領域にはずっと興味がありましたので入社したのですが、配属先はまさかの滋賀で(笑)希望は横浜の研究所だったのですが、またリサイクルとも一見離れたプラスチックフィルムの研究をまずはすることになります。

飯島 
現在の部署について教えていただけますか?

多田さん 
現在の仕事は戦略部のGXグループという部署におります。グリーントランスフォーメーションの略なのですが、リサイクルや脱炭素を戦略的に推進するグループにいます。素材のリサイクルを推進したり、時には提案などを行う部署ですね。自分で研究はしないけど、全体の業務を把握し、推進させていくような仕事です。

研究にフォーカス!

直近2年間のスマホフィルムの開発

飯島
まず昨年までされていた研究内容はどういったことなのでしょう。

多田さん
スマホの中に入っている粘着シートというものを作ってました。スマホはどんどん進化しており、従来の粘着剤では対応できないものが多いので、トラブルが起きにくい粘着剤を作っていました。簡単にいうと両面テープのようなイメージですね。スマホの中は何十種類ものフィルムや金属が入っているのですが、それだけ重ねるとバラバラになってしまうので、それらを繋ぎとめる役割をしています。そういった粘着シートを作り、スマホメーカーに提案し、試験→採用→搭載して頂く、という仕事をしていました。

飯島 
その研究で難しかった、逆にこういうときがおもしろかった!というような瞬間はどんな時でしたか?

多田さん 
難しかったことは、今までの粘着剤の常識からいくと、到底達成できないような性能をメーカーさんから要求された時ですね。まず粘着力(剥がれにくさ)と柔らかさ、これが今までは両立できなかったんですね。
なぜ両立できないかというと、粘着剤ってよく分子レベルではスパゲッティに例えられるんですね(笑)食べる時になかなかフォークで引き出せないようなスパゲッティを「剥がれにくい粘着剤」と言い、よく絡み合っているから粘着力が高い状態。でもどんどん絡めていくと、ガッチガチのスパゲッティになってしまって、柔らかさが出ない。お客さんが求めているのは、引き出しにくいスパゲッティだけど、全体としては柔らかさがあるもの、だけど柔らかすぎるとスパゲッティがちぎれたり抜けてしまうので、その両立が非常に難しかったです。
専門用語を使うと「貯蔵弾性率」と「損失弾性率」をコントロールするのですが、それをどう突破したかというと、スパゲッティでいうとお皿をイメージするとわかりやすいですが、実際には色々なものと接してくっついてる状態なので、このくっついてる材料との相性を考えることで無理だと思われた性能の両立をすることができました。「ぬれ性」というユニークな実験評価を行ったのですが、元々粘着剤だけにフォーカスしていたものを、ちょっと視野を広げたことで、ブレイクスルーできたことがやりがいになりました。

自分は粘着剤屋さんなのだけど、他のメーカーさんが作っている材料もフォーカスしながら、情報提供がないときは文献を調べたり会話する中で類推したり、関連部署に相談しながら、なかなか一筋縄ではいかない2年間でした。

図解で詳しく説明してくださいました。ちなみに分子レベルの粘着剤は、たしかにスパゲッティのようなビジュアルをしています。
三菱ケミカルさんの粘着シート。
スマホの中に入っているそうです。

飯島 
粘着性と柔らかさというわけですね。新しいスマホならではの苦労ですよね。

多田さん 
そうですね。最近よく新しいスマホのCMを見ると、おそらく普通の人はどんな機能なんだろうと考えると思いますが、僕はどんな粘着剤なんだろうと、見えない部分が気になります(笑)。

飯島 
その研究は三菱ケミカルさん独自のポリシーですか?

多田さん 
はい。他にも競合他社さんがいらっしゃいますが、それぞれの粘着剤のポリシーや特徴があります。
また、従来の粘着剤は、地中から掘ってきた石油を使用して作られています。これだと空気中の二酸化炭素が増えて環境に良くないんですね。今後はディスプレイも環境に優しい素材で作る需要が高まると予想し、私はバイオマスタイプの粘着シートを発明したりもしていました。

入社当初の研究はプラスチックフィルムのリサイクル技術の開発

飯島
リサイクルというような領域にはずっと興味があったのですか?

多田さん
元々興味があって入社したのですが、配属先の滋賀ではプラスチックフィルムの研究をすることになりました。
どういうところに使われているかというと、基本的に保護フィルムの目的で、例えばサロンパスの剥がすフィルムや保護シートを貼るときに剥がして捨てるフィルムです。そのフィルムも最初は特性をどんどん良くしようという方向で開発されていましたが、次第にリサイクルの観点になり、剥がして捨てるこのフィルムを何とかしようと。そこでまたまた原点に戻り、リサイクルの研究で結果を残して、新しいスマホに取り組みました。だから3年間フィルムリサイクル、2年間スマホへの取り組みで合計5年間研究していました。

飯島 
そもそもなのですが、フィルムってどうやって作るんですか(笑)

多田さん 
最初はペレットと呼ばれるお米のような粒なんです。あれを溶かしてドロドロに溶けているものをシート状にして伸ばしていくんですね。普通に伸ばすと真ん中だけ伸びてしまうので、色々な方法があり、縦に伸ばした後に横に伸ばす、同時に伸ばす、斜めに伸ばすなど様々で、各社それぞれのこだわりを持っています。フィルムも普通のフィルムではなく、コーティングが片面または両面にされているんですね。

飯島 
あのフィルムって剥がしてくっつかないじゃないですか。あれはなぜなんですか?

多田さん 
あれはですね、離れる型と書いて離型(りけい)フィルムと言います。剥がれやすいようなコーティングをしています。あのようなフィルムを単純にリサイクルしようとすると、余計なコーティングがいっぱいついていて邪魔なんですね。これらを上手く使いこなしてリサイクル可能にすることが、この3年間でやっていた研究です。

飯島 
どうするんですか?

多田さん 
はい。特殊な処理方法を開発しました。詳細はヒミツです(笑)。ちょっと大げさですが、コーティングの種類は星の数ほどあり、先ほどの離型コーティングもですが、指紋がつきにくい、静電気を帯びない、埃がつきにくいなど、様々なコーティングがあります。それらをひっくるめてリサイクルできる研究をしていましたね。でも実はそういったニーズのある会社が何社もあり、うちの会社のフィルムだけリサイクルすればいいというものではなく、色々な会社のフィルムを全部リサイクルできるような技術を作った、というのが最初の3年間でした。

飯島 
かなり独自技術ですね!でもこれができると各社リサイクルができるようになるんですね。

多田さん 
そうですね。どの会社のどのフィルムでも、弊社で一括処理できるということが元々掲げた高い目標で、それを何とかブレイクスルーできたということが、最初の研究で自信につながったとてもよい経験でした。

ーー後編へ続く。



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