ヨガと予知と中央線・14『景子の二日目』
お腹も大満足したので私たちはお店を出ると、今度は明さんに私の買い物に付き合ってもらう。そう言えば当初の目的は私のバッグを買うことだったけど、すっかり忘れていた。明さんのおかげで九十万ほどのお金が手に入ったけど、迷いに迷って、前と同じバッグを買った。
良い水玉模様のバッグが他になかったからね。水玉のバッグは私のこだわりの一つ。私の憧れのナタリー・ポートマンが持っているのを見て、格好いいと思ったからってだけなんだけどね。
私たちはしたいことも終わったので帰ることにした。デートと考えれば帰るにはまだまだ空が明るいけれど、よくよく考えると明さんは私を守ってくれているんだよね。
昨日襲われたけど、何だかあれは夢だったような気がして、ほとんど実感がない自分がいる。人ってどんなに警戒していても死ぬときは死ぬから、私はあまり深く考えない。だから私は気軽にしているけど、明さんはちゃんと周りを警戒しているみたいで、疲れていた。朝も早かったから眠そうだしね。
コインロッカーで荷物を取り出すと、明さんは袋の幅で脇が閉まらなくなっていた。まるでボディービルダーのポージングの一つみたい。スーツは郵送にしてもらったのにね。その姿を改めてみると、ちょっと調子に乗って買わせすぎたかなと私は反省した。でも楽しかったので後悔はしていないけどね。
私は反省の意も込めて明さんの袋を三個持つ。それでも明さんはバーゲンで欲張りすぎた奥さんより荷物が多かった。
「まるで服屋さんになった気分だ。仕入れは十分やね」
明さんがそう言って笑顔になる。
「ほんと、よく買いましたね」
「いやいや! 勧めたんケイさんやん」
「そう言われると思ってました」
私は笑いながら言った。
「ところで今日はいくら使ったんですか?」
「財布に二万しか残ってなかったから、九十五万くらいかな」
「え? そんなに使ったんですか」
「だから勧めたのケイさんやろ」
「そうですけど、何にそんなに使いましたっけ?」
「オーダーメイドのスーツが三十万で、スーツに合わせた靴も十万近くしてたやん」
「ああ、そう言えば」
こんな会話を電車でしていたら、あっという間に吉祥寺に着いていた。楽しい会話をしていると新宿から吉祥寺の電車なんて、あってないようなものだね。
吉祥寺駅からサンロード商店街を通っていく。歩き慣れたこの商店街は平日だろうとお構いなしに人で賑わっている。土日になると早歩きも難しくなるほど人でごった返したりする。木曜の今日は大丈夫だけど、夏休みのためか若者が多いね。
私たちはゆっくりと商店街を抜けて、まず明さんの家に向かうことにした。荷物がありすぎるので、一度荷物を置いてから私の家まで送ってもらうことにしたのだ。私と明さんの家はそんなに離れてなかった。距離にして歩いて五分くらい。でも明さんの家は武蔵野市で私は練馬区になる。最寄り駅が同じ吉祥寺でも、道路を少しずれると区が変わってしまったりするんだよね。武蔵野市の方がゴミの収集にうるさいらしいから私は練馬区でラッキーだったのかもしれない。
明さんは二階建てアパートの二階に住んでいた。綺麗でも汚くもない、どこにでもありそうなアパートだった。部屋の中に荷物を運ぶ明さんを玄関の前で待つ。中を少しだけ覗くと、何となく予想していたけどあまり何もない部屋だった。冷蔵庫と本棚とテレビだけが見える。畳の部屋なのでベッドもない。キッチンとバストイレがあるワンルームみたいだ。
荷物がなくなってすっきりした明さんとともに、今度は私のマンションに向かう。昨日襲われた自動販売機の前まで来ると、さすがの私も少し周りを警戒した。でもまだ日も暮れてないので景色は平和そのもの。犬の散歩をする少年や買い物袋を下げたお姉さんが歩いていた。
「じゃあ、明日も同じ時間に迎えに来るから」
「はい」と私は返事した。そのとき、私はとても喜んでいる自分を発見していた。迎えに来てもらえるのって、何だか嬉しい。そう思いながら私は明さんの背中を見送った。
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