自治体はいかにジェントリフィケーション的な活動をするか

先日の記事が非常によく読まれているが、あの記事の真意としては、半分は「行政主体によるまちづくり、エリアブランディング手法や考え方への警告」であり、もう半分は「いかに弱き人にとって支援の体制やかたちを作ることが難しいか」ということを知ってもらおうというものである。

そんな折、とある市の市長と話をする機会があり、貧困層の方々が住むエリア(ストレートに言えば部落)などに対して、行政はどのような手を使うのかという質問をしたのだが、これがまた正直にその手法を教えていただいた。前もって言っておくが、この手法や市長の態度はおそらく行政のTOPとして当然のものである。貧困の人たちが暮らすエリアをいかにして解消するかという問題にはどこの首長も頭を悩ませている中で、もっと違う手法(しかも厳しい手法)をしているところは多い。しかし、その中で欠けているのは、貧困層を生まない状況をいかにして作って行くかという視点である。

その手法とは、対象のエリアに対して「家賃の安いアパートの建設、運営を認めない」というものだ。

つまり、安いアパートにはそれなりの人が来てしまう、そのために、そういった人の住む場所を作ることを抑えてしまおうという話である。

こういったアパートは別にこの市内だけでなく全国的に多く見ることができる。特に、外国人労働者の住む場所としてはこういった安いアパートにせざるを得ないことが多く、近隣には外国人向け食材ショップなどができたりすることで、その兆候を見て取ることができる。関東北部のまちでは工場従業員の外国人労働者がこういった場所に住んで、しかも一部屋に3,4人は当たり前という環境で生活を送っていた。農業地域でも、外国人労働者(研修生という名の格安労働力など含む)がこういった環境で暮らしていることをしばしば見かける。

しかし、これは日本の事情でそういった環境を強いられているものであり、このSDGsの理念が高まっている世の中でどこまで許されていくか甚だ疑問である(もちろん、その従業員が勝手に祖国から家族を呼び寄せている場合もあるが、、、)。フェア・トレードはココアやコーヒー豆だけでなく、世界中の産業に波及していく。そうでないとおかしい。国内の産業でこういった状況を許している業界は多い。しかし、行政としては、企業誘致に対して未だ積極的にならざるを得ず(そういう「地域おこし」を掲げてしまっているので)、誘致をした結果起きる問題に対しては目をつむりがちである。

こういった問題に対して当の市民も無関心であると思う。外国人が増えてきて治安が不安だという声もあろうが、トラブルを起こすのは大概外国人同士(稀にその企業内)で、長いこと暮らしていると学校の多くに外国人が通い、溶け込んでいる。うまく溶け込んでいるのなら批判はしない。しかし、その中で、日本語が拙くて授業についていけない子供たちのケアをしているのは学校の先生で、その人たちの負担で何とか成り立っている状況のところもある。(前述の市長や北関東の行政では、この点に関しては行政負担でスペイン語ができる先生などを雇用してケアに務めたりなどしている。)

原因は企業誘致だけにとどまらない。昔からの貧困層が多く住むエリアもある。また、病気やリストラなどで突然の貧困に見舞われ、こういう場所に住まざるを得ない人もいる。もちろん、「貧困ビジネス」をもって行政の悩みの種となる住民がいることもある(前述の市長曰く、そういう人を徹底的に無視するよう指示を徹底した結果、他のまちに引っ越してしまったという。そんな例は稀だと思うが)。そういったエリアでは、新しい建設を認めない以外はあまり効果的で即応的な手法は無いらしい。再開発という名の手法などを除いて。

行政として、ジェントリフィケーション的な活動で最悪の手法なのは「追い出す」ことだと考えている。生活を根こそぎ捨てさせるというのは簡単なことではない。もちろんそのままの生活でいてほしいということでもなく、またその人たちへの支援が無いわけでもない。問題は、その支援の圧倒的少なさや、ミスマッチにある。また、支援を必要としている人も高齢化し、どこかで働いて自活力を高めるという手法がもはや限界に近い。そういった人々は高齢化だけでなく何らか大きな不健康状態を抱えていることも多く(保険にも入っていないことが多い)、悪循環の状態である。
余談ではあるが、大阪のとある病院に務める知人は、毎日のようにそういった状況の人が運ばれて、病人の家族に連絡がつかない、保険に入っていない、病人(90歳オーバー)の生活保護に収入を頼っているため何とか生き永らえさせろという自称家族の方々を相手にしている。

こういった状況を解決しうるのは、とにかくにも「貧困になる前に救う」手立ての充実と認知が必要だと考える。外国人労働者を雇う農産業工業の企業に負担をさせることはもちろん、工場閉鎖の際の再就職のあっせんなどを地元金融機関や商工会総出で行うことも必要だろう(かつて亀山のシャープ工場が閉鎖したときは、奈良市などに大量の求職者の情報があふれていたが、大手人材会社が仕切って何とか再就職先を探していた)。行政がチェック機能を充実させ(そこでICTは活用できるはず)、健康状態収入状態から、救いが必要になりそうな人を早期に見つけ出す仕組みを作るべきだと考える(そのために、マイナンバーカードの普及や保険証との一元化や銀行口座との紐づけを推進してほしい)。

今貧困状態で支援を必要としている人も多い。しかし、これには多くの人の手助けがいる。リカレント教育や再就職支援だけでは追い付かない。理想的にはすべての人が救われるようにしてほしいが現実的ではない。

市長はじめ多くの行政者でも、見捨てようというような心無い人はほとんどないと思う。単純に問題の大きさに対して行政ではリソース不足なのである。少なくとも、これ以上膨らまないようにという手法をとることに対して、100%賛成はできないかもしれないが、ただ批判することは無意味だろう。当地の市民だけでなく、多くの人が「明日は我が身」考えていかなければならない問題なのである。コロナ禍でその状況に陥る可能性がある人が増えていることもあるのだから。

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