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地方創生で東京のコンサルが使えない話(創業支援編)

最近、知り合いの知り合いの人が学校を作ると宣言した。

どうやら、創業を支援する学校らしい。

どこの地方においても、スタートアップ支援企業支援創業支援はネタとして多い。起業・創業支援塾があり、インキュベーションセンターがあり、創業相談無料窓口が期間限定などで設置されたり。

私も2012年から14年までの二年間は、奈良市が創出したスタートアップ支援機関のタウンマネージャーとして働いていた。私の業務はどちらかというと町の賑わい創出事業で奈良市の中で面白い人がつながるネットワークづくりの企画を主にしており、創業支援のメンター的役割やチャレンジショップの運営は他の人がやっていてとはいえ、創業支援に関わる人間ではあったので、自己否定のように聞こえるかもしれない。あ、あと奈良県桜井市で2017年に、創業支援塾を全8回コーディネートし、近畿圏で活躍している人や東京から有名人を読んできて講演会を行ったり、参加者の企業目標のヒアリング、アドバイスを行った。

で、多くの創業支援事業で果たして効果はあったのだろうか。

行政はそろそろこういった「創業支援」をしなければいけないという呪縛から離れるべきではないかと思う。こういった事業と、いわゆる「ビジネスプランコンテスト」の事務局を含む運営事業は東京のコンサルタントや大したことのないコンサルタントの絶好の仕事場である。ビジネスプランコンテストの最大のダメなところは、フォローアップが全くないことだ(本来これは主催である行政の商工経済部などの部局の仕事なのだろうが)

商店街活性などを目的とした「チャレンジショップ」などのは全国でかなり多くの取り組みがある。この分野で有名なのは、高松や高知や奈良の商店街など枚挙にいとまがないが、あくまで個々の商店が頑張って、商店街全体が盛り上がっている(ようにみえる)状態と、世代交代がうまく進み、まちに新しい人が来ているかということの「質」で見ると、いくつかの成功例に関してはそれが果たして「成功」であるかは疑わしい。日南市の油津商店街や高松のように、入ってほしいテナントを三顧の礼で迎え入れたり、自らもリスクを負って起業するなどとの違いを分析しなければならない。

そもそも、チャレンジショップは安い家賃で新規創業者を優遇して招致する。最初のテナント選定などからコンサルが入ることが多いが、果たしてそのビジネスが本当にうまくいくかどうかの責任を負わないので、有象無象の人が来ても、基本的にはとんでもない人以外のビジネスをスルーで受け入れてしまう。また、特に責任を負わないので「そのアドバイス自体も陳腐なものになる」。
そういったコンサルタントが行う講座も、マーケティングの基礎的な話であったり、ECサイトの成功例であったり、正直ビジネス書を一冊買えばどこにでも乗っているような話で、決してその人自身が創業して困った話や、失敗して明日をもわからぬ身になったような話ではない。簡単に言えば「血肉が通った話」ではない。

創業するということは、現在ではハードルはとても下がっているので、何か手に職があるのであればいつでも創業できるといって過言ではない。定款の作成や各種手続きなどは、市役所レベルでも教えてくれる話だし。ただ、そのビジネスを成功させるための方法や失敗を防ぐための具体的な取り組みは市役所や無料相談所レベルでは教えてくれない。そして、コンサルも教えてくれない。売り上げを伸ばすなら、ECサイトを構築しましょうとか、失敗防ぐために手元資金は潤沢にしましょう!とかいう程度である。

また、行政が行う創業支援の目的は、『町の起爆剤となるような新しい産業を興す』ということだ。しかしこの手のチャレンジショップや創業支援塾で参加してくる事業者は、そこまでの魅力があるものは少ない。オーガニックのカフェを作りたい、困っている人のための子ども食堂を開きたい、昔アパレルにいた経験を活かして小さなブティックを開いてゆくゆくは拡大して女性の雇用の場を開きたい、パソコンスクールを開きたい、、、それぞれの事業を否定はもちろんしないが、チャレンジショップでやることかというレベルのものもあるし、そもそも市内にある程度の活気があれば自然とそういったショップは民間資本で進出しているはずであり、そもそも創業を無理やりさせていいものかというビジネスもある。

商店街活性化で大切なのは、「①ビジネスチャンスは十分であるが場所がない(土地を持っている人が貸してくれないなど)」「②人口が減少しすぎていてビジネスが成り立たない」「③近隣に大型店舗ができて、旧市街地に人が来なくなった(既存の旧市街地ビジネスは存続しているが後継者不足など)」といった現状に合わせた対策が必要である。よく名目で使われるのは①で、だから空き地にチャレンジショップを作り、そこで成長したビジネスが近隣の空き店舗(ただし持ち主が貸したがらない)を地域の信頼を得ることで借りる、というストーリーだが、そもそも貸したくない人はいくら家賃を積まれても貸さないし、だいたいは②か③の理由である。だから、本来なら創業支援事業は、0からスタートというより、これからどうしたらいいか真剣に悩んでいる中小企業に限って、第2創業や経営改善、IT化などの支援に費やされるべきだと私は考える。実際私が今主体で取り組んでいる事業はそこである(農林水産業に偏っているが)

この考え方は商店街活性化だけでなく、地方経済の多くに当てはまる。なぜ地域の経済の衰退理由に向き合おうとせず、0からの新しい人たちに期待するかというと、それまで担ってきた、今も名目上経済を担っている旧来の経済主体に行政も、そして一部の民間も諦めがあるからである。

しかし、経済対策はしなければならない。お決まりのテコ入れと称したバラマキや商品券はゾンビ企業を増やすことだけだとわかっていても。なので、そうではない新しい経済対策として創業支援策をアリバイ的にやったふりをする。東京のコンサル(一部、その地元にいるコンサルも)も、しっかり取り組んで藪蛇をつつきかねない旧来の経済主体に対してなんらか関わるよりも、創業支援などのほうがオペレーションもコンサル内容も簡単なので、そういうことを自治体にそそのかしたり、そういうことで活性化したという「事例紹介」を積極的に行う。かくして大したことはないお金が行政から出てくる。

私が桜井市で創業支援塾で行ったのは、会社の作り方とかビジネスモデルの作り方とかだけではない。第2創業や経営改善を真剣に考える人広くに参加してもらい、「失敗」を恐れないこと、ビジネスが壁にぶち当たったときにどう乗り越えていくかということ、失敗をなるべく回避するためにどういうマーケティング思考やデザイン思考が必要かなどといったことを織り込んだ内容にした。たぶん、他のエリアで行われている創業支援塾とは異質だったと思う。もちろん、これが効果があったかと言われれば、2つの中小企業の後継ぎに小さなアイデアや希望を与えたくらいである。もう1年やらせてもらえればという思いもあったが。本来は、ハンズオンでいろいろな人のメンターであり具体的な経営課題の改善といったことに関わり続けることが大切なのだが、そういった取り組みまで行政が考えていることは稀だ。愛媛県の農業人材育成研修事業はここ数年同じ事業者が研修を受託しているが、2回目3回目と受講する農業者がいて、毎年売り上げを伸ばしている。

学習塾を考えてみればわかるように、何度も何度も先生から教えられてやっと理解し、伸びる子供もいるように、中小企業だって同じなのである。根気よく寄り添える人が必要なのだ。一番大変だし、一番面倒くさい(寄り添う人にとっては割に合わない)ことなのだが。

創業支援事業の内容を、講座だけとかビジネスプランコンテスト的に、経営計画事業計画のブラッシュアップだけで提案するコンサルタントははっきり言って金の無駄である。そのエリアに数年以上寄り添う気が無ければ、地域活性化には1ミクロンも寄与しないのである。

創業しようという人が多いことは大切であるが、実際成功したりしている人、創業した人のほとんどは、こういった創業支援事業(講座)が元でというよりは、自分で勝手にスタートした人の方が多い。そもそも、事業はタイミングなので長いこと講座を月1回ペースで受けるというのはニーズに合わない。いずれ起業しようかな、という人が受講する場合がほとんどだが、そういう人が本当に起業したという話は結構少ないのである。

さて、冒頭に出した学校の件だが、創業した後のことを全く考えていないようなので、さすがにこれで多くの人が集まってくるとは思わない。しかし、こういった人の「今まで創業支援1000件やってきました!」ようなキャッチコピーに引っかかる人がまだまだいるのも事実で、その雰囲気を醸成してしまっているのは、各地の東京コンサルの食い物だけの創業支援事業と、脚色された成功例や行政のPRのせいだと思っている。


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