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夏の終わりの快挙!

高齢者施設で、クッキー・モンスターとなっている88歳の母。認知機能に難ありで、大腸がん患者なのに、なぜか食欲旺盛でおやつの要求が激しい。部屋でやることがないから、食べるしかないと言い訳をするので、「塗り絵でもやる?」と聞いてみた。「やる!」という元気な返事は戻ってきたが、あまり期待はしていなかった。

1年ほど前だったか、塗り絵をやりたいと母が言うので、はりきって豪華50色の色鉛筆セットと、趣や難易度の違う塗り絵ブック3冊をすぐに送った。本にそのまま塗りたくないというので、施設の介護士さんがコピーもとってくれた。だけど「集中力がない」とかいう理由で一枚も塗られることなく放置され、半年後には下の階の人にもらわれていった。

ま、ダメもとでということで、今回は適当に36色の色鉛筆とやさしい塗り絵本を一冊送った。そうしたら、なんと。今回も介護士さんにコピーをとってもらい、母はそこに書かれたいくつものリンゴの絵を一生懸命塗っていた。「これいいねえ、楽しいよ」

さらに2日後、母はスイカの絵に取り掛かっていた。夏の終わりの快挙だ。去年より一歳年を取って、集中力が養われたのか?

とにもかくにも、塗ってもらえて私も嬉しい。

そして母は見守りカメラに向けて、自分が取り組んでいる塗り絵を見せる。「スイカを塗ってるの。子供の絵もあるから大変だけど、がんばるよ」、「こりゃ楽しい。できたら、壁に飾るよ」

とりあえず「上手に塗れたね。すごいね」と褒める。私には子供がいないのでわからないが、子供が自慢げに塗り絵をみせにきた時と、同じような感じかしら? 配偶者にも報告し、友人にも「ついに母が塗り絵!」とラインした。「あらすごい」と返事してくれた友人は、尊い。

「上手だね」とかける言葉は同じでも、やっぱり母に向かってそう口にするのは、なんとなく抵抗がある。そうか、年をとると塗り絵でも自慢したくなるのか。そうか、やっぱり年をとると子供にかえるのかなあ。

母が「楽しい」と感じてくれることは嬉しい。だけど私自身も、いつかは太い線でくっきりと描かれた大きな果物の絵に色を塗って、「楽しい」と思う日が来るのかもと思うと、やるせない。


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