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客先常駐企業の採用担当の悲哀

  私はいま現在ニートの身ではあるが、大学に所属している時は人並みに就活というようなものをしていた時がある。その時にIT系も一つの視野に入ってくることがあった。そんな中で思ったことを今日は一つ書いてみようと思う。


  まず表題の件について話す前に、これを読んでいる人の中で「客先常駐」という言葉に馴染みがある人はどれくらい居るだろうか。この言葉の定義をインターネットで軽くググってみると

所属会社から派遣されて、別企業で働く勤務形態で、
IT業界に客先常駐が多い

https://mynavi-agent.jp/knowledge/it/278.html

というマイナビのサイトが出てくる。私が軽く調べた限りだと客先常駐というのは大抵、数ヶ月単位でさまざまな企業に派遣されて、行った先のプロジェクトをこなすという形態らしい。


  この客先常駐という働き方は世間では散々ひどい言われようで、Googleのサジェストキーワードにも「客先常駐 やばい」とか「客先常駐 やめとけ」とか軽く検索しただけでサジェストされる有様である。私の知り合いにIT系の学部を出てそろそろ就職しようとする男がいるのだが、彼に実際に「客先常駐ってどうなん?」と聞いてみても「みんなやめとけって言ってるわ」という返答が返ってくる。客先常駐企業はできることなら避けるべし、というのはどうやら界隈での一般的常識であるらしい。


  一体、この形態の何がそんなに悪いのか。私がインターネットで調べた意見を大体総括すると

•仕事先によっては研修など全くない状態で現場に放り込まれることもある

•行く仕事先によってどんな扱いをされるかは全く違うから、ハズレの職場を引いてしまうとパワハラがまかり通ってしまう

•仕事先がどんどん変わるので、キャリアとして書けるようなスキルが身に付きづらい

ということらしい。要はせっかく企業に就職したと思ったのに、バイトのようにいろんな現場に駆り出され、流浪させられるハメになる上に会社に中抜きされるというのがこの働き方の良くないところらしい。


  インターネットでも現場でもこれほど客先常駐の悪評が立っているのだから、そんなところを選んで勤める馬鹿はいないと賢明な読者諸氏は思われるかもしれない。しかし驚くなかれ、全IT企業のうち92.3%はなんらかの形で客先常駐を行っているという統計があるのである。これではIT系の企業にやたらめったらエントリーして入社してみたら大体客先常駐企業ということになってしまう。どうしてこんな歪なことになっているのか私にはわからないのだが、IT業界というのは現状そういうことになってしまっているらしい。


  長い前置きになってしまったが、これから私の体験について話そうと思う。大学4年の春のある日、マイナビからそれらしい企業を探し出してとあるオンライン説明会をぼんやりと視聴していたことがあった。その企業はIT系で、何をやっているのかはよくわからないが、まあ条件は悪くないのでなんとなくみてみるかくらいの気持ちで説明会を見ていた。


  その説明会を担当していた人事の人は「我が社は客先常駐です…」という説明をしてるところで明らかに歯切れが悪くなり、言葉の勢いが衰え、いかにもバツが悪そうな調子でなんとか言葉を搾り出していた。このとき私は「人事の人でもこんなに言いづらそうにすることあるんだ…!」と驚いたのだった。


  就活は基本的に企業が採用するかどうか決めるのだから、当たり前だけれど就活生の方がこういうバツの悪い感じで話さざるを得なくなる。けれど先述した通り「客先常駐」というのは就活で言えば避けて当たり前、トランプで言えばババを持っているくらいの悪条件なのである。だからこの企業の採用担当は、嘘をつくわけにもいかないから非常に気まずい思いをしながら「客先常駐です…」とモゴモゴ言わざるを得なくなっていたのだった。


  本来ならば堂々としていなければならない説明会で、親に怒られた子供のように話す人事の人を見ると「客先常駐企業の人事って、可哀想だな」と思わざるを得なかった。こういう「どう転んでも不都合な真実を話さなきゃいけない」というときって、人間は一体どうすればいいのだろうか。わたしは就活というやりとりの中でそういう経験をたくさんしたものだから、思わず人事の人に同情してしまった。この人はこんな説明会を何度も何度も繰り返しているのだろうから、やりづらいことこの上ないはずだ。前世でどんな悪行をすればこんな貧乏くじを引かされてしまうのだろうか。


  就活というのは会社と就活生の欲望の折衝、ライアーゲームの場である。そんな場所でほとんど最悪と言っていい配牌をされた人は一体どうすればいいのだろうか。わたしは罰ゲームのような説明会をさせられている人事のひとを見て、社会というのはやはり厳しい場所だなあと思わざるを得なかったのだった。普段は話さないような話題を話してしまうくらいには、あの光景は私に印象を与えたのだった。
  

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