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街の記憶、いま語る

まー、近頃は狂人が街にうろつきまくってたんですわ。もうどこ行っても狂人!玄関出たら、便座を振り回して正座するのを繰り返す男がいましてね。
「オイ、何やってんだ」って聞きましたら、「ノーベル賞不受賞の舞」なんて答えまして。不受賞ってなんだ!もらう前提かい!なんつってね。
そもそも、こんな街からノーベル賞取るやつなんざ生まれねぇよ!なんて思ったもんです。

それから、少し歩いてね、薬局行こうと思ったんです。あたしはアレルギー持ちですからね。鼻炎薬買いに行こうとすると、またいるんですワ。狂人が。今度は8人。
なんだかいがみ合ってるワケなんですね。
「俺が最初だ!」
「違う!!俺が最初だ!」
「ポケットWi-Fiには折り紙がつきます!」
「おにぎりーおにぎりー快適なおにぎりサブスクはこちらからー」
「喰わせろ!たらこ味のネジ入りで!」
「だめだ!俺が最初だ!」
「何言ってんだ!俺が最初だ!」

……んでまた最初に戻るんです。もうなんのこっちゃ分からない。結局おにぎりサブスクを勧めるやつも、手に丸めたトイレットペーパーを持ってるだけですから味もへったくれも無い。

驚いてますが、こんなのは日常茶飯事ですからね!アナタ。こんなことで驚いてちゃ街で生きていけないですよ。

そもそもどうしてとち狂った人間ばっかになったかって?これには2つの説があります。

1つは、狂人デンパ説。ここで言うデンパは、伝えるに播磨屋の播のほう。そう、伝播説。
ある時、この街に飛びっきりのZ級の宇宙世紀初のルナティックベイビーが生まれましてね。その赤ん坊がオギャッとひと泣きしたら、みーんな土を食い始めたり、スパゲティに味噌汁をかけだしたりしたみたいです。

まぁ、役場に正式に歴史が残ってるわけじゃないです。どっかの狂人の又聞きが変わったのかも知れません。
2つ目が、給食発狂成分混入説です。まぁ、説明せんでもおおかた想像はつくでしょう。

だけどね、あたしは密かに語られる第三の説を推してるんです……。それはね……耳を貸してください。

…… … ………

薬局に戻りますよ?いいですね?
薬局に入ると、今度はレジの譲り合いをし続けてる2人がおりました。
よく顔を見ると…アラマ!街で一番の殺し屋と街で一番の殺し屋殺し屋じゃないか!

殺し屋は、顔はエビみたいですが、腰にさした巨人の尺骨みたいな大鉈はマジもんです。さっき殺したばっかなのか履いてるジーンズが赤黒くなってましたから。

殺し屋殺し屋というと、髪はピンクで前髪が切りそろえられてましてね、鼻筋の通った美人。レインボー柄の探偵服と、キャンディ色の電鋸は死のサインとしてここらでは有名でした。
殺し屋は、シャンプー片手にドーゾドーゾ。殺し屋殺し屋はハンドクリームとリップ片手にドーゾドーゾ。
あとで聞くと、2人ともこないだ別れたばっかなんですね。殺し合う中でも愛が生まれるんですねえ。オドロキです。

暢気に構えてると、この街のことです。次々と狂人がやってきます。
なんもしらんタンクトップの中年がね、レジに割り込んだんです。
そしたら、まぁ大変。大変というかギガ大変ですね。いっちめん血の煙ですよ。人間一匹でこんなにでるのかってくらい噴出しまして。
あたしは、目をちゃんと開いてたつもりなんですがね。殺し屋は大鉈を振るう動作も見せず、殺し屋殺し屋も動いたように見えなかったんです。でも、2人とも位置が入れ替わってる。

そんでもって仲良くレジでお会計済ませてんの。

「俺が悪かったよ…」

「私こそ…」

まぁ想像ですけど、あの斬り合いでお互いの胸の内のつかえが取れたんでしょうね。中年は、思いがけずキューピットになったわけです。天井に目玉が張り付いてましたけど。

で、その後あたしは…、アッ!……買い忘れちゃったよ。

もっかい薬屋行ってきます。なぁに、今日はまだ残ってますから。ちょっとここでまっとってください。
分かってますヨォ。鍵は閉めとくんで。この街ではあってないようなもんですが……。

それからね、アナタ。

腕のロープは絶対にとっちゃダメですからね。
(おわり)


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