Manslaughter...
Prologue
橙色、緑色、茶色、赤色。ぼやけた光は段々と形を結び、アンティークの照明、革張りのソファ、椅子を引きずった跡の残る床に変わった。
「オッ、目覚めたかい。」
赤色のハットはメニュー表から顔を上げた。
「ここは…。」
椅子から立ち上がれない──俺は両手が縛られていることに気付いた。左を見ると眉間にステーキナイフが刺さった男が座っている。
ハットが嬉しそうに揺れる。右手には真新しいナイフが握られていた。
「やめてくれ…。」
「驚いた!お前からそんな言葉が聞けるとは!人喰いギムレットの名が泣くぜ?」
俺が?人喰い?身に覚えのない話だ。
「人違いだ!」
「弟を殺してよく言うぜ。人喰いさんよォ!」
ハットがナイフを投げる。
俺は歯で受ける。
ナイフを手に滑り落とす。
紐を切る。
踏み込んでハットのこめかみに刺す。
全工程僅か20秒。俺は無意識の殺戮に戸惑った。記憶にない。これは過失致死だ。
その思いと裏腹に鏡に映る俺の顔は笑っていた。
(続く)
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