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電楽サロン
2021年4月6日 10:30
〈illustrated by おばあちゃん5歳〉承前地下クラブC/D 〈Chaos and Disorder〉は、がらんと静まりかえっていた。客が出ていった店内の中に、郊外とチエ、烏羽が残っていた。「エット、つまり郊外さんの弟子が幻蔵と権蔵なんです?」チエが絆創膏だらけの目を丸くする。C/D名物の腕試しの後である。烏羽とチエのふたりがかりですら、ものともしない郊外のシッペは、こ
2020年7月12日 06:29
〈illustrated by おばあちゃん5歳〉承前 パリン! 甲高い音が店内に響く。「ハッハ!まだ慣れんかい」 老婆は楽しげに笑いながら皿を洗う。年季の入ったエプロンには白い字で「喫茶ぱ~ぷるれいん」と書かれている。「ぱ」の〇が消えかかっていた。「......すいません」 髪文字は不服そうに塵取りを持ってくる。雨でずぶ濡れていた髪は艶を取り戻し、老婆と同じエプロンとサイズの合
2020年7月10日 00:21
〈illustrated by おばあちゃん5歳〉承前 あたしは緩慢に目を開けた。なんとか重たい頭を起こす。なんだかすっごく嫌な寝覚めだ。頭ははっきりしないし、身体の動きも効かない。金縛りってこんな感じなのかな。朝ごはんの時に兄さんに教えよう……横から唸り声が聞こえた。父さんだった。父さんの手は椅子に固定されて、猿ぐつわを嵌められてる。てか、ここリビングじゃん。 あたしは反対を向く。母さ
2020年7月7日 00:24
〈illustrated by おばあちゃん5歳〉承前 次の日。 土砂降りの雨だった。私は髪文字さんに肩をかして路地裏を走っていた。いや、はた目から見ればそれは足枷をつけた奴隷が鉄球を引きずるような速度だったのだけれども。とにかくその時の私には「奪徳から1ミリでも遠くに離れる」かつ「誰にも行き先を知られてはいけない」ことが最優先で、どちらもトチれば間違いなく死ぬ。放送の日に遅刻するスリ
2020年6月26日 19:20
〈illustrated by おばあちゃん5歳〉承前「いだだだ」「ねぇ、ねえってば!」「……。」「あだだだだ」「だっ、チエ!なんとか言ってよ!」「でででで」「はなせッコラ…!力ッ強!」「……。」 放課後。チエは人気の無くなった廊下を進み、散歩を嫌がる犬みたいなユキとなすがままのカナを引っ張っていた。「いい加減に……わっ」 突然手を離されたせいで、カナとユキがつんのめっ
2020年3月9日 00:56
〈illustrated by おばあちゃん5歳〉 承前 「うう......」男が始めに呼び起こしたのは、友達の家に行った小学校の記憶だった。薬局に並んでいたラベンダーの芳香剤の匂いが鼻をくすぐり、白を基調とした部屋の机には戦隊もののシール跡が残っていた。「幻蔵よ、計画は進んでいるか。」 声のする方に目を向けると、金色のボブカット男と、黒装束の男が話していた。それは異様な光景
2020年1月13日 16:20
〈illustrated by おばあちゃん5歳〉承前 月も星も死んだような闇が画面を覆う。リーン……リーン…… 開始を知らせる鈴の音が反響する。リーン……リーン…… 2度目の鈴で闇が裂け、それが幕だと気付く。その背後には錫杖を突く黒頭巾の使者が。隣にも縮小コピーしたような使者が錫杖を突き、怪しげな儀式を想起させる。リーン……リーン…… 黒頭巾は錫杖を突き続ける。幕が持ち上が
2020年1月1日 01:49
承前 金曜日の朝。 駆ける駆ける。 この調子なら3分前着だ。 火曜日の一件以来、私は何度もあの瞬間を再生していた。フラッパーの断末魔。怒り満ちた眼。 なんと言ってもあの長い髪。思い出すと耳が熱くなる。髪を伸ばして出歩くのは裸でふらついてるみたいで、ぞわぞわした。 ボブカット条例が敷かれたK区で髪を伸ばすのは破廉恥以外の何物でもない。なぜあんな真似を──。 「チエ、おそい!!」勢い
2019年12月10日 08:08
ひらり、一閃。漆黒の長髪が空を裂く。「ゴハァーーッ!!」 少女の放つ飛び後廻し蹴りが、フラッパーの側頭部にめり込んだ!!ボブカット頭がゴミ箱を打ち、ごぁんと派手に金属音がした。まずい、追手に気づかれる。「質実剛健ボブカット!!美意識追及ボブカット!!」 狂った掛け声が、少女のいる裏通りまで聞こえてきた。「フラッパー」 ──狂信者どもが「ボブカット十箇条」と言っていたK区のスローガンだ