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成木鐔⑨紛れる無銘の成木鐔2

以前書いた現代鐔工、成木一成氏による信家の亀甲紋写の鐔。


よく見る成木氏独特の艶ある錆色とは異なり古風でしっとりした風合いの本鐔は、個人的にもとても良く出来ているように見え、仮にここに信家と銘があったら信家と信じてしまいそうな出来に見えるほど。もしくは江戸期の明珍あたり。

成木一成氏による無銘鐔


そんな折、信家鐔を詳しく知る方にお会いする機会があったので本鐔を実際に見て頂き、本歌信家との違いについて聞いてみたところ、良く出来てはいるが、紋がはっきりと入りすぎている点は違和感があるとのこと。
本歌はもっと時代のすり減りがあり、それが詫びに繋がっているのだという。

その場での比較は出来なかったので、画像をいくつかネットで探して比較してみる。
まず真玄堂さんのinstagram掲載の重要刀装具指定の信家鐔。

(画像出典:真玄堂instagram
(画像出典:真玄堂instagram

改めて以下は成木氏の鐔であるが、確かに亀甲紋の凹凸が本歌に比べてはっきりしているように見える。

次に銀座誠友堂さんの保存指定の信家鐔。


(画像出典:銀座誠友堂 信家
(画像出典:銀座誠友堂 信家

こちらは全体的に彫がはっきりしているようにも見えるが、表側の車輪の擦れ具合と亀甲紋の擦れ具合が全体として上手くバランスが取れているようにも見える。(車輪が磨れているのに、紋がやたらと深く健全に残っているというようなアンバランス感が見られない)

そしてもう1つ、真玄堂さんの重要鐔と誠友堂さんの保存鐔は亀甲紋が成木氏の物に比べて3分の2くらい小さい事に気が付いた。
「中村覚太夫信家鐔集」を見てみても、やはり信家の作は亀甲紋が小さい。
いや、成木氏の亀甲紋が大きいのだろう。

「中村覚太夫信家鐔集」より
「中村覚太夫信家鐔集」より
「中村覚太夫信家鐔集」より
「中村覚太夫信家鐔集」より


あえて亀甲紋を大きくデザインしたのは成木氏のデザインセンスによるものなのか、お客さんの要望で無銘で造りながらも信家の作ではないという、ある意味本歌に紛れさせない為の工夫なのか、今となっては分からない。

しかしこの打ち返し耳をここまで仕上げるのはなかなか出来ないとの事で、やはり成木さんだから出来たのではないかとのこと。


因みに信家のデザインは江戸時代以降も人気だったようで明珍はじめ沢山の人が写し物を作っています。
以下もその一つ明珍一派の作で、実物は拝見した事がないものの、時代感も加わり趣のありそうな1枚です。

(画像出典:銀座長州屋 亀甲文図鐔(信家写)

成木氏の鐔もあと200年位経った時どんな風合いになるかなどとても楽しみなのですが、その時まで生きていられないのが残念です…。

真玄堂さんへは年明けにお伺いしようと考えていたのでその際に先の信家鐔と成木鐔を並べてどう違うかを比較させて頂きたいななどと考えています。
もし出来ましたらまたブログ更新しようと思います。


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↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)

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