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刀の鑑定書があてにならない、という人もいるけども

日本刀は骨董品の中でも稀で、多くの人から信頼されている第三者機関(日刀保)が定めた鑑定書が付いている物が多くあります。
刀剣店に行けば大抵この鑑定書が付いた物が売買されています。(鑑定書といっても効果のない「旧鑑定書」もあるので注意。詳しくはこちら
基本的に鑑定書が付いていれば、市場では本物として扱われるので、刀の市場、つまり刀の値段に大きく影響を及ぼすのがこの鑑定書の有無だったりします。

さて、刀には作者銘の入っている在銘品と、後世に大摺上げなどされて銘が無くなってしまった無銘品があります。
特に在銘品には「偽銘」、つまり他の者が作者を偽って刻んだものがあります。偽銘と判断されると当然ながら鑑定書は発行されません。

ここで一つ問題になるのが、この時の鑑定書の精度について。
不合格になった際に書面などにはどの部分から判断して偽銘と判断したのかが書かれない為、不合格の理由が分からずブラックボックス化しています。
他にも再刃(刃を焼き直した物)であるにも関わらず、鑑定書に明記されていないなども時々聞きます。
あと刀装具に多いらしいとよく聞きますが、鑑定書が付いているのに現代の写し物であるケースや、時代物でも偽物であるケース。

このような事があるからか鑑定書の精度に疑問を抱く方が一定数います。
結局どちらが正しいのかについては私程度の知識では分かりませんが、鑑定書を出している方も人間なのでそういったミスを完全にゼロにする事は不可能でしょう。
また例えば30年以上前に鑑定されて合格となった物が、現代の知見で見ると怪しい物である可能性というのもゼロではないはずです。
しかし一度合格を受けた物は鑑定書の取り消しがされるわけではありません。つまり一度合格してしまえば、未来永劫正真物として扱われるのです。

こういった物が一部ある事から「鑑定書を妄信するな」という意見を耳にする事があります。
この言葉は正しいと思うのですが、中にはこの言葉を妄信して初心者であるにも関わらず「鑑定書は当てにならないから自分で買う(鑑定書付は高いし)」となる人がいます。
なぜそうなるのか。。

初心者でこれをすると大抵失敗するので気を付けた方が良いです。
私の周りで鑑定書があてにならないと言っている方はとにかく博識の方ばかりです。その道のプロとして何十年も生きてきた方もいれば、愛刀家の方で研究されている方など。

鑑定書の精度が仮に「正95:誤5」の精度だったとして(実際は不明)、その方達は例えば5%のミスがあるから「鑑定書が付いているからといって妄信するな」と言っているのです。
鑑定書を妄信しすぎると鑑定書自慢になります。
これは特別重要刀剣だから良い刀だ。という表現になります。
逆です。良い刀だから特別重要刀剣になるんです。
見るべきは鑑定書ではなく物なので、「鑑定書を妄信しない」という意見はとても大事なのですが捉え方は間違えないようにしたい所です。
少なくともこの言葉は初心者に向けた言葉ではありません。
初心者ほど鑑定書付きの物を買うべきなのは間違いないです。
(正40:誤60くらいなら鑑定書は無視すべきと思いますが、流石にそれは有りません)

あと鑑賞会などで「初心者は自分の眼を育ててから物を買うべき」という意見も目にします。
これも自分の眼を育てられる環境(良い物を沢山見れる環境)に身を置ける人であれば良いのですが、実際に月1に3時間程度の鑑賞会だけでは見る量が圧倒的に少なく目を育てるのに時間がかかります。
鑑賞会で見た刀を記憶にしっかり留めておければ良いですが、記憶は風化していくのでたった3時間程度で定着させるのはなかなか難しい。
鑑賞会の知識を基に刀を選ぼうとしても、記憶が風化しているとなかなか同じような基準の刀を選ぶのは難しいのではないでしょうか。

という事で私は初心者であれば刀屋さんで鑑定書付きの物の中から気に入った刀なり刀装具をまず一点買ってみるのが一番良いと思います。
自分の中で基準となる刀を買う事が出来れば、あとはその刀を毎日見る事で記憶にも定着します。
加えて、一度買えばそのお店で他にも作を見せて頂きやすくなるはずです。
その上で自分の刀と他の同銘作なり同門作と比較しながら勉強して研究して自分なりの意見を持ち、誰かに共有して他の博識な方の意見を聞いてみる。
そんな感じで良いのではないでしょうか。
それこそ物との対話を通して、自分なりの知見、眼を育てる事に繋がる気がします。

鑑定書は妄信してはいけないが、鑑定書付を買っていれば大きな失敗が防げる事も事実。
鑑定書が合っているかどうかは、自分で知識を付けてから答え合わせをするぐらいで良いのかもしれません。

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それでは皆様良き御刀ライフを~!

鑑定書の偽造も一部で行われています。
本物の鑑定書にはどんな工夫がされているのか、じっくり見てみた記事がこちら↓

↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)

「刀とくらす。」をコンセプトに刀を飾る展示ケースを製作販売してます。


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