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お店の刀を飾らせて頂く【PART2】脇差「大慶直胤」

お店の刀を製作した展示ケースに飾らせて頂く企画第2弾です!(第1弾はこちら
第1弾に続き今回も銀座長州屋さんより展示刀をご提供頂いています。
第2弾は新々刀期の名工「大慶直胤」の脇差です!

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①大慶直胤について

安永8年(1779年) ~安政4年(1857年)。
江戸時代末期に活躍した新々刀期の刀工。79歳で没。

新々刀期の巨匠である水心子正秀の弟子であり、その技量は師を遥かに凌ぐと評価され、源清磨と共に新々刀期の「江戸三作」に数えられる最上作の評価を受けた名工です。
師である水心子正秀が復古刀を提唱しましたが、それを忠実に実践した第一人者が大慶直胤であり、その卓越した技術があったからこそ復古刀論がここまで広まったのかもしれません。
1821年に筑前大掾、1848年には美濃介を受領。
約50年間鍛刀を行っています。

亡くなる4年前(1853年)に行われた「松代藩荒試し」では、刀の脆弱さが露になるなどの逸話も聞かれる所ではありますが、直胤の目標とした作域は古名刀の再現にあり、戦の最前線で激しく打ち合っても折れないような刀をそもそも作ろうとしていたわけではなかったようです。
例えば正札事件というものがあります。
土佐藩士が幕府の御触書を引き抜いて踏みつけているところを新選組に見とがめられて土佐藩士が切られた事件ですが、この際に土佐藩士が使用していた刀は刃長が長く、重ねが厚いもので荒試しなどに好んで使用されるような剛刀だったといいます。
しかしそういった剛刀は取り回しがしづらかったり、刀を数回打ち合わせるだけで息が上がってしまう事も想像されます。
それなりに腕に自信のある土佐藩士がことごとく討ち取られたという事実は実戦の厳しさや刀に必要な機能について改めて感じさせてくれるようにも思います。
折れず曲がらずよく切れるというのは確かに大事な事かもしれませんが、
そこだけを過剰なまでに突き詰めた刀が良いかといえば恐らくそうではなく、それ以上にその刀を使う人が自らの力量や剣術の用法に則した刀である事が大切なのかもしれません。


②姿

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1尺6寸(刃長約48㎝)の脇差という事でとても小柄です。
脇差は特に姿作りが難しそうなイメージがありますが踏ん張りが付きとても美しく見える。聞くところによると大慶直胤は姿が上手らしいです。
彫り物の入っている物も多く、月山派の刀と似ている所も多いらしい。

茎を見て見ると、佩き表に「荘司筑前大掾大慶直胤(花押)」と受領銘入りの銘が、佩き裏に「文政十二年仲春」と年期が入っています。

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面白さを感じたのは太刀銘(刃を下にして飾った時に銘が手前に来る)として入っている事でしょうか。
太刀の摺り上げを意識したのか、それとも別の理由があるのか…。
私には分かりませんが、大慶直胤の他の脇差を見ても刀銘(刃を上にして飾った時に銘が手前に来る)が多いので、この脇差には何か特別な意味が込められているのかもしれないと感じた次第です。もしかしたら子供用の稚児差しだったりとか?

因みに新々刀期という事もありますが、厚みがありがっしりとしていてとても健全です。

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③刃文

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刃から優しい印象を受けます。
恐らく細かい小さな沸(小沸)が微塵に付いて匂口が柔らかいからこのような印象を受けるのだと思います。鎌倉期などは小沸の物が多い印象です。
丁子のようになっている箇所が随所に見られて、備前伝あたりを意識した感じが伝わってきます。
中には尖り刃のような所や、刃中には砂流しも確認出来ます。

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帽子を見ると一文字のような作風にも思えます。
銀座長州屋さんのサイトに押形が掲載されていますので紹介します。

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(画像出典:銀座長州屋 荘司筑前大掾大慶直胤(花押)文政十二年仲春

大慶直胤の作には映りを鮮明に出す備前伝もありますが、こちらの脇差には映りを確認する事が出来ません。
しかし映りを出そうとした試行錯誤の跡が飛び焼きのようなところから分かるとのこと。これは弟子である次郎太郎直勝にも現れる手癖との事で試行錯誤の伝わってくる面白い作に感じました。

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④地鉄

展示ケースの地鉄ライトをONにして観た時の写真です。

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肌立っていて地景を楽しむ事が出来ます。肌の立ち方は古刀にも似ている気も。

⑤なんと所載品

なんとこちらの脇差は「水心子正秀とその一門」の所載品です。
本に載っていると何となく嬉しくなるのは愛刀家あるあるかもしれません。

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(画像出典:「水心子正秀とその一門」より)

⑥終わりに

樋の入り方は新々刀期や現代刀を参考にすると良いらしいです。
ネルの上から樋をなぞるようにして指に感覚を覚えさせる、とにかく感覚で覚える、これをする事で後から入れられた樋などを違和感で分かるようになるとの事です。
確かに手持ちの鎌倉期の刀の樋をネル上から指でなぞると凸凹しているのが分かります。
これは一度曲がった刀身を戻そうとして出来た凹凸なのかもしれない。
樋から分かる情報も多い事を知りました。

話は変わりますが、白鞘袋についていた茎型ネームプレートがとても良かったです。佩き表に直胤の銘が、佩き裏に年期が入っています。
何とも洒落た工夫ですね^^

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今回の直胤の脇差の詳細が知りたい方は以下に刀身の詳細な全体写真などありますので、ご覧ください。


※注意
こちらの刀は執筆時点においてお店で販売されている刀になります。
ここに書いた内容は個人意見であり刀の購入を勧めるものではありません。刀を買う場合は必ずお店で現物を良く見てご自身で納得された上でご購入されてください。


今回も読んで下さりありがとうございました!
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それでは皆様良き御刀ライフを~!

第1弾は以下からご覧いただけます。

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↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)

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「刀とくらす。」をコンセプトに刀を飾る展示ケースを製作販売してます。

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