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お店の刀を飾らせて頂く【PART1】刀「宮入小左衛門行平」

先日私の刀の友達から、銀座長州屋さんでお店の方が私の作る刀展示ケースについて興味を持たれているよ、というお話を聞き、ご挨拶を兼ねて銀座長州屋さんを訪れた時のことです。

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事前に電話にて来店の予約をさせて頂きお伺いさせて頂きました。
中村という苗字はありきたりなので分かりやすいように「刀箱師の中村です。」と伝えたものの、自分で勝手に造った「刀箱師」というワードを声に出して言うのはなかなかに恥ずかしい。
私も時々自分で思いますからね。なんだよ刀箱師って、と。
特に相手は本職の方ですから尚更。。。

…と心配していたのですが、予想とは裏腹になんとお店の方が私の活動を見て下さっていて、以下の「刀とくらす。」というコンセプトにとても共感して下さっていたのです。

ポスター_刀とくらす


とても嬉しい。そして色々と話が弾む。
加えてその話の流れでなんとお店にある刀を展示ケースに飾らせて頂ける事になりました!(どういう展開!)
という事で早速借用してきました。

これがその「宮入小左衛門行平(宮入恵)」刀匠の刀です!拵付!

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①「宮入小左衛門行平(宮入恵)」刀匠について

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宮入恵刀匠は、1957年に長野県で生まれます。
20歳の頃、人間国宝である父行平刀匠へ入門しますが修行半ばで父が他界。
以降は父行平刀匠の高弟であった藤安将平刀匠に師事。
因みに曽祖父の名が「小左衛門」、父の名が「行平」という事で、名を合わせた「小左衛門行平」と1996年に名を改められたようです。
その後もコンクールで最高賞の高松宮記念賞を6回受賞をはじめ、薫山賞をはじめとるする特賞も数多く受賞、2000年に刀匠の最高位である「無鑑査」認定を受け、現在も古刀再現の研究を続けているようです。

お弟子さんには川崎晶平さんや、河内一平さんなどがいらっしゃいます。
私も昨年デパートで開催されていた「宮入小左衛門行平一門展」を見てきたばかりなので、手元で宮入さんの刀が拝見出来る機会に恵まれてとても嬉しいです!

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②飾らせて頂いた刀について

今回のお借りした刀は宮入刀匠が無鑑査になった3年後の作になります。
姿は細身で、鎌倉期の太刀を大摺り上げしたような体配です。
聞くところによると幕末頃の拵えに合わせて作刀されたのだとか。
この時代はより実戦を意識するからか、手持ち感がとても良く使いやすそうに感じます。

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帽子は掃きかけて焼き詰め。この辺りは大和っぽさを感じる。

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刀身には地沸が良く付いて小沸が微塵に付いている様子から、刃、特に匂い口付近全体がふわっと光輝いているように見えます。
そして刃中には金線のようなものがしきりに入っています。
何となくですが大和の手掻包永あたりをイメージして作刀されたのものでしょうか?
全体的に古刀色を感じるのですが、そこを意識してあえて研ぎ減ったように作っているようにすら見える気もする。
真相は分かる所ではないですが、仮にもし大摺上げ体配を模していたとして、それに合わせて研ぎ減りまで再現していたとしたら…そうしていそうで技術の高さに絶句します。(因みにこの刀は当然ながら研ぎ減っているわけではない)

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地鉄は精美で詰んでいますが、いわゆる現代刀に良く見られる白っぽい地鉄ではなく、古調さを感じる地鉄という印象を受けました。
とにかく現代刀には見えずらく、古めかしさを感じる刀に見えます。
入札鑑定で出たらどこに多く票が入るのか見てみたい。
日を変えて鑑賞すると面白さが増してくるのもまた古刀のようで面白い。

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大和かな~と思い、棟を見てみる。
結構庵棟が立っている気もするがどうだろう。

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茎には「清心無我」の4文字が。

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宮入刀匠もしくは注文主のいわば座右の銘だろうか。
心を清らかにして無我の境地に至る、そんな意味合いにも思える。
帽子が返らず焼き詰めになっているのも「自分の道を進む、後には戻らない(返らない)」というような何か想いの部分が強く現れているような気もする。
以前の所有者の方の心意気というか人生観が伝わってくるようで、こういった銘が入った刀を見ると面白さを感じます。


③幕末の拵も実戦を見据えた工夫が多くされていて面白い

幕末というと言わば新撰組なんかが活躍した時代であり動乱の時代です。
そんな動乱の時代の拵だからか分かりませんが、実戦に役立つ面白い工夫が沢山されていました。

・柄は握りやすく滑りにくいシボ革

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私はまだ知識不足で良く分からないのですが、この柄巻きの技術はとても素晴らしいらしいです。
というのも側面から見るとB点よりもA点の方が高さが低い事が分かります。これは作業が上手い人の特徴とのこと。

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そしてひし形の数に注目。
普通は「奇数+ひし形半分」らしい。昔は奇数が好まれていた為という。
しかしこれはひし形が20個+半分。つまり「偶数+ひし形半分」。
あえて偶数にしている事からこれは使いやすさを優先したのではないかと考えられるとのこと。

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・手を掛ける位置が狭い

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他の一般的な拵えと比較すると下のような感じ。
上のは手を掛けると指が1本以上はみ出る。
対して一般的な拵えは指が全部納まる。
何故狭いかの理由もとても面白いものだった。

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この隙間が狭い事でここに手を掛けた瞬間に鐔が少し浮き、刀を抜く初動がワンテンポ早くなるらしい。
まさにコンマ何秒というスピードをギリギリまで削り抜いている印象が伝わってくる。実に幕末らしい。

・帯引っ掛けが珍しい形

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この間に帯を入れる事で抜刀時にこの丸い部分に帯が引っ掛かり鞘が共に抜ける事を防ぐのだとか。
拵は実に細かいところまで考えられて作られているんですね!


④終わりに

という事でまさかこんな展開になるとは思わず私自身が一番驚いているわけですが、とても有難いことにお店の方からは定期的に貸出も良いよと言って下さっているので、「お店の刀を飾らせて頂きました」的なコラムを新しく作って、最初は2週間に1回位のペースで現代刀、新々刀、新刀、古刀と順繰りに紹介していくのも面白いかななんて考えています。

あくまで今回のように素人視点の感想をつらつら書く感じにはなるかと思いますが、プロでないからこそより初心者に近い視点で刀について気づきの部分なんかも書ける気がしています。
一方で見え方などはあくまで私個人の感覚であり、実際と異なる場合もあるかと思います。そこはご了承ください。

因みに刀屋さん見学会もそうですが、私としては特に1つのお店とだけ密にやろうというつもりはありません。
今回の刀紹介もそうですが、たまたま縁があった刀屋さんとそういった試みがスタートしているだけで、今回紹介した経緯が全てです。
刀屋さん見学会も私が普段刀を買っているお店にお願いしてやらせて頂いています)

全国には色々な刀屋さんがありそれぞれの色があります。
人にも性格があるようにお店と合う合わないは人それぞれなので、刀を買う場合はいきなり入ったお店で買うのではなく、是非色々なお店を周ってみて下さい
私が刀を買う上でお気に入りのお店は勿論ありますが、万人に合うはずもないので…。

その為こうした刀の紹介記事を書く上ではそういう私情は挟まず、ただ単純に刀を見て私個人が純粋に楽しんで書いているという事、そんな様子を発信する事で日本刀に興味を持つ入口を増やしたいという目的があります。

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勿論私自身も様々な刀を、製作した展示ケースに飾る事が出来るのでケースを製作する上でのデータベース作りにも役立ちますし、刀そのものの勉強も出来るのでとても有難く嬉しい事です。

そして当然このコラム(コラム化するか分かりませんが)で紹介する刀はお店で販売中の刀になるので、もしこの記事を見て気になった方がいれば、お店に「刀箱師のブログで紹介されていた刀なんですが~」などとお伝えすればご紹介頂けるかと思います。

また他の刀剣店さんでももしご縁があれば色々な形で御一緒に何か刀業界に親しんでもらったり盛り上げられるような施策が共に出来れば私としても嬉しく思います。
お気軽にご連絡頂けると嬉しいです。
恐らくこのブログを読んで下さっている読者の方も、特定の刀屋さんばかりではなく色々な刀屋さんのお話が出てきた方が面白いかと思いますので。

※注意
こちらの刀は執筆時点においてお店で販売されている刀になります。
ここに書いた内容は個人意見であり刀の購入を勧めるものではありません。刀を買う場合は必ずお店で現物を良く見てご自身で納得された上でご購入されてください。

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今回も読んで下さりありがとうございました!
面白かった方はハートマークを押して頂けると嬉しいです^^
記事更新の励みになります。
それでは皆様良き御刀ライフを~!

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↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)

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「刀とくらす。」をコンセプトに刀を飾る展示ケースを製作販売してます。

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