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横浜支部刀鑑賞会(2023.5)

長らくコロナの影響で日刀保横浜支部は活動が中止していたのですが、確か3か月ほど前から活動を再開しており、今日ようやく都合が合ったので約2年半振に刀鑑賞会に参加してきました。

石川町駅から徒歩3分ほどのかながわ労働ぷらざが会場

この期間中に辞められた方も多かったようで、今日の参加者は8名位だったでしょうか。コロナ前は倍位はいた気がするのでちょっと人数的にも寂しいものがありますが、その分刀はじっくり鑑賞できるので、鑑定刀を約2時間半じっくり見る事が出来ました。

という事で鑑定刀の振り返りをします。

・入札鑑定の結果

東京都支部は1本入札なのですが、横浜支部は何度も入札出来るので、間違えたら次を書いて提出、間違えたらまた次を書いて提出という事が出来ます。
「イヤ」や「能」の意味が分からない方はこちらをご覧ください。

1号刀 備前長船元重(大擦上無銘)

南北朝体配の大鋒で身幅の広い大振りの大太刀。
乱れ映りが判然と立ち、片落ち互の目、角互の目が見える。
地鉄は板目に杢。
この時点で兼光か元重どちらかで悩む。
そこを見極める能力は持ち合わせていないので勘を頼りに1札目、長船兼光に入れて「能」。
という事で2札目、元重に入れて「当」。
唐突に流れた肌があったり、尖った刃が見えるなどまとまりに欠けるような部分が見えたり、角互の目が間延びしたようなところ、青江気質を伴う所から兼光よりも元重に入れるのが妥当との事。

2号刀 和泉守国貞(親国貞)

菖蒲造りの脇差。
刃中に細かな働きが沢山みられる。
地鉄には大肌や杢目なども見られたので悩んだが、他の部分はややザングリしているようにも見える。
出羽大掾国路か親国貞で悩んだが、匂口の感じが国路だともう少し深くなりそうな感覚があり、1札目親国貞に入れて「当」。
解説を聞くと、親国貞は堀川一門の越後守国儔に師事していたと思われているが、のたれ刃に互の目を交えて尖り刃が交えるあたりは関風の作りなども見え国儔との繋がりが感じられる作風とのこと。
棟焼きがある事が一番のポイントでもあるとのこと。

3号刀 兼定(ノサダ)

小ぶりで内反りの鎌倉期のような直刃短刀。
フクラが枯れ帽子はやや大きめに丸に長く返っている。
沸映りのような、白け映りのようなものが立っている。
姿的には来や新藤五あたりだが、そこまで地鉄は潤んでいない印象を受ける。
という事で来から一格落として(この表現が正しいか分からないが)了戒か、白け映りとしてみた場合宇多国房あたりにも見える。
ただ姿がやはり鎌倉期の品格ある姿だったので1札目了戒に入れ「イヤ」。
では、という事で2札目宇多国房に入れるもこれも「イヤ」。

?!

ここで分からなくなる。
もしやもっと位が上…なのか…?
という事でそうは見えないものの、姿から3札目新藤五国光と入れて「イヤ」。
いよいよ分からない。
取り敢えず別の街道に行こうという事で4札目延寿に入れて「イヤ」。
因みに延寿は山城系統ともされているので、了戒で「イヤ」なら外して考えるべきとの事でした。

ここでギブアップ。
解説時に兼定(ノサダ)の二字銘を見て全ての点と線が繋がる。
どうやら重ねが厚いというのも一つ見所のようで、確かにあの厚さは鎌倉期にはほぼ見られない。厚藤四郎などはあるが。
非常に勉強になりました。
確かにノサダの来写しは過去にも2度ほど拝見した事があり、同様の出来でした。記憶から飛んでいました。
それにしても流石ノサダです。


4号刀 肥前国忠吉

反りの無い慶長新刀姿に、非常に板目の詰んだ地鉄。
丸止めの樋が入る。
肥前にしては帯状でもなく匂口はやや締まっているような気がするが非常に冴えている。
刃文はのたれに小互の目だろうか。志津のような出来でもあるが、あまりに時鉄が詰んでいたので、最初現代刀に思う。
しかし過去何度も入札鑑定で現代刀に入れて痛い目を見たので、新々刀の線(慶長新刀写し)で考える。
しかし正直誰もピンと来ないので、取り敢えず地鉄の様子と刃の冴えから 1札目左行秀と入れて「イヤ」。
ここで困った事に、新々刀の街道が分からない。
つまりイヤになり次どこに入れて良いか分からない。

そこで次に水心子正秀あたりにも見えたので入れて見ようと書いたが、これは街道が同じ刀工との事でした。
ここで時間となりギブアップ。
新刀の線も探ったのですが、反りの浅い姿かつ慶長新刀姿にどうもピンとこない。肌から堀川物でもなければ、南紀などでもない。
肥前刀であればもう少し反りが付いて帯状の匂口になるイメージがあったのでこれも除外。

解説によると、いわゆるそのような肥前刀の特徴が完成するのは初代忠吉が武蔵大掾を受領した以降の事であり、初代忠吉は村正や志津などをはじめ写し物も沢山作っており多種多様な作風が見られ、そこまで帯状の匂口にもならなければ、そこまで小糠肌にもならないとの事。
今回の作は志津を写した物だろうとの事でした。
とにもかくにも地鉄が非常に詰んでおり、こういう作は肥前に入れれば良いのかと勉強になりました。

5号刀 大慶直胤

鎌倉期を写したような姿。
地鉄が白っぽく見え、帽子も如何にも意図的にデザインされた感を感じる乱れ込みで新々刀の写し物の線で考える。
丁子刃に乱れ映りが綺麗に立っていたので、丁子刃の雰囲気から固山宗次か、映りが綺麗に立っている点から大慶直胤を考える。
以前大慶の重美の長光を写したような作を拝見した時には映りがかなり鮮明に立っていたので、そこまで鮮明には立っていない事から刃文の様子から 1札目、固山宗次に入れて「能」。
では、という事で2札目、大慶直胤に入れて「当」。


・終わりに

3号刀のノサダと4号刀の忠吉にはとても悩まされました。
1本入札でない分、思考回数が増えるので勉強になりました。
個人的に一番好きだった作は1号刀の元重。
大摺上げなもののとても美しい出来でした。

今回も読んで下さりありがとうございました。
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それでは皆様良き御刀ライフを~!

「イヤ」や「能」など入札鑑定時の用語って難しいですよね…。
私も未だに良く分からなくなる事があります。
以下にそれぞれの意味をまとめていますので、よろしければご覧ください。


↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)

「刀とくらす。」をコンセプトに刀を飾る展示ケースを製作販売してます。

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