「日本刀の装い展」を見て【後編】刀装具
現在刀剣博物館にて「日本刀の装い 豊かなる刀装・刀装具と名刀展」が行われています。
結論から言うと刀は重文や国宝のみ15振の名品が並び、刀装や刀装具も特別重要指定品含む個人蔵の名品も多く並んでいて見応えがありました。
また目貫や、柄、鎺などの製作方法が工程ごとに分かりやすく展示されており、またそれらを製作する道具にまで言及された展示で非常に内容の濃い良い展示に思いました。
その為、前編では刀について、中編では刀装、後編では刀装具について見てきた感想を書こうと思います。
今回は刀装具について、特に気になった物3点についての感想です。
・刀装具
拵の展示が多かったため、刀装具自体の展示は8点とそこまで多くないのですが特別重要刀装具1点、重要刀装具7点と、貴重な品ばかりが並んでいました。(重要刀装具と聞くと重要刀剣と同じように聞こえるかもしれませんが、実態としては指定数が刀の4分の1から5分の1程度しかなく、重要刀装具でもかなり貴重な品になります。)
No.37 葡萄文象嵌鐔 埋忠明寿
まず今回の展示会の目的と言っても過言ではないほどに見たかった鐔。
埋忠明寿の鐔は葡萄図であったり、九年母図、柏図など植物を題材にしており、記憶が正しければ人物画などの物は一切現存していない。
そして明寿と似た作風をしている「光忠」が風景など遠くから見たような構図を描いているのに対して、明寿は対象物を接写して描かれている。
何と言っても凄いのはこの焼き物のような質感を出している所にあるように感じる。
腐らかし法と呼ばれる手法で表面を網目模様のように出す事でこれが結果的に陶器のような色味に繋がっているのだと思われる。
この網目が特徴なのであるが、展示では小さすぎて一切見えないのが残念。
また色味だけではなく、捻り耳にする事で茶器のような楽しみのある肌触りを表現しており、この2点により焼き物のような質感になっているのだと思うが、それを真鍮で再現している事にはただただ驚かされる。
以下は側面からこの鐔を覗いた図。歪みがまた良い味を出している。
そしてそこに赤銅のような象嵌で葡萄や柏の葉を墨絵のように施し、葉に付いた実や雫を銀象嵌などで細やかに彩るなど、 まさに詫びの中に華やかさのある桃山芸術の良さを存分に出しているように感じられる。
尚、こうした埋忠明寿の鐔がどのような拵についていたのか。
鐔の切羽台を見ると確かに拵に合わせた跡が見られるが、恐らくある時代から単品で大切に保管されたからか、図録を見ても拵に掛けられた物は見かけた事が無い。
桃山三名工のうち、ほかの金家鐔や信家鐔などは拵に掛けられた状態の物を図録で見た事はあるのだが。
No.39 牡丹獅子図三所物 横谷宗珉
横谷宗珉は江戸中期の金工で、もともと後藤家の下地師をしていたが独立して「町彫」と言われるジャンルを創始したと言われる人物。
片切彫を大成した人物でもある。
後藤家と言えば龍と獅子だが、宗珉はなぜか龍の作品が残っておらず、獅子ばかり作っている。
獅子の身体に後藤家であれば州浜紋のような文様を入れるが、宗珉は太陽のような文様に変えている。
目貫の裏側は見る事が出来なかったが、金をたっぷり使い、重量感ある作品を多く残している印象がある。
根は後藤家の出だからか分からないが陰陽根であり、しかも太い。
力金(根の周りに貼ってある平たい板)は三角形の物を多く見る気がする。
今回の展示品がどうなっているか分からないが以下のような感じになっているのだろうか。
尚、特別重要刀装具の指定を受けた刀装具は確か150点あったか無かったか位の記憶で、郷とお化けは見た事が無いと言われるような程に特別重要刀装具を目にする事は滅多にない。
どれも重要文化財クラスのものだろう。
このクラスになると目貫や小柄、笄などどれか単品で指定を受けるのは難しく、三所物で伝来がしっかりと分かるものでなければならない、と噂で聞いた事もあるが、真実かどうかは分からない。
No42.孔雀図鐔 高瀬東浦
以前鑑賞会で拝見した鐔。
この作者については知らなかったものの、誰が見ても分かる構図の良さと美しさを兼ね備えている。
側面からの写真を撮り忘れたが、側面にも羽の模様が描かれていて、重量感も通常の鐔の2倍位ある感覚があり驚いた記憶がある。
さて、このような鐔は一体どのような拵に合うのだろうか。
黒、赤、金…色々考えて見たものの、意外に以下のような緑色の鞘などに合いそうにも感じる。
単品でとても貴重な刀装具なので実際に拵に合せるわけにはいかないものの、刀装具を見る時に自分ならどういった拵に合せるかを考えながら見るのも楽しいですね。
・終わりに
という事で3回に分けた感想も長くなりましたが今回で終わりです。
「日本刀の装い」展、本当に素晴らしい展示でした。
刀装や刀装具に興味ない人でも、名刀の展示が楽しめますし、刀も刀装も両方好きならそれこそ抜け出せない程楽しい展示かと思います。
この展示はクリスマスイブの12/24まで両国にある刀剣博物館にて行われていますが、ありきたりなイルミネーションを見に行くくらいなら絶対にここに行った方が良いです…!
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それでは皆様良き御刀ライフを~!
「前編:刀編」「中編:刀装」は以下をご覧ください。
↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)
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