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刀剣乱舞が刀剣界に与えた効果と、立場による意見の違いについて考える

刀剣乱舞が及ぼした刀業界への影響や効果についてよく議論?になっているようです。
個人的には立場が違う者同士が好き好きに意見しているので恐らく一生平行線なんだろうなと思いながら眺めています。
(定期的にくるイベントのよう)
あまり足を踏み込むと上げ足を取られて批判の対象になり面倒臭そうだったので今まで言及は避けていましたが、第三者的な立ち位置としてなるべく客観的な視点で書く事にしました。(どう第三者なのかは後で書きます)

そして、なぜ意見に違いが生まれ言い争いになるのか、そこについて整理してみようと思います。

1.まずはじめに

一応書きますが、この記事では誰かを卑下しようなどという意図はありません。(最大限の自衛)
刀剣乱舞によって刀の展示会が多く開かれたり、刀に興味を持つ人が増えているのは事実です。
刀好きな私にとってもこれは本当に嬉しい限りです。
しかしそこだけを見て「刀剣乱舞が刀業界全体を盛り上げている!」と判断するのは早計な気がします。

例えば一言に「刀が盛り上がった」と言っても、美術館への来場者数が伸びる事と、刀の販売数が伸びる事はイコールではありません。
刀剣乱舞の効果により、盛り上がった所もあれば、以前と大して変わらない所があるのは事実です。
まず刀に関わるそれぞれの人の立場を並べてみようと思います。


2.刀に関わる色々な立場の人

(言わずもがなですが例外は必ずありますがそれは省きます)

①刀剣乱舞をしていて刀を刀剣男士に重ねる人
→例えば実際の三日月宗近の刀を見たときに「会いに来たよ」と感じたり話しかける人。または刀剣男士として登場しない刀には興味がない人。

②刀剣乱舞はするけど刀は刀として見る人
→ゲームはゲーム、刀は刀で好き。きっかけは刀剣乱舞だけど刀を見る時はキャラ関係なしに1つの美術品もしくは武器として観る人。
もしくは刀剣男士は三日月宗近が好きだけど、刀は大隅掾正弘(マニアック…)が好きみたいに一致していない人。

③刀剣乱舞には興味ないけど刀が好きな人
→昔からの愛刀家や研究家、刀を好きになったきっかけが刀剣乱舞と関係ない人。

④刀を売る刀剣商、骨董商の人
→刀を売る事で生計を立てている人

⑤刀を作る、直す刀職の人
→刀を生み出したり、既存の刀を研ぐ、刀装具などを作る職人

刀の本や雑誌を出してる人(出版社などメディア関係)や、美術館などで働いている人も刀に携わっていますが、①〜③いずれかに属する、もしくは今回の話にあまり関係ないと判断し省略しています。


見ていて気がついた方もいるかもしれせんが、⑤に行くにつれ刀の世界により足を踏み込んでいる人になります。(④と⑤は同等とします)
②の方でも刀に相当詳しい方はいらっしゃいますが、③の方は刀を好きになって40年などザラにいますので、②よりも③の方が足を踏み込んでいるとしています。

厳格に言えば④と⑤も③に属するのですが、後の話の為に分けて書いています。(MECEになってないとかめんどくさい事言うのは止めて下さい)

因みに私は刀を部屋に飾れる展示ケースを作る人です。
詳細は以下をご覧ください。

つまり私は③であり⑤です。
でも刀剣乱舞は時々プレイしています。(ややこしい)
なので第三者的立ち位置と思って頂けたら嬉しいです。


3.誰が言い争うのか

①刀剣乱舞をしていて刀を刀剣男士に重ねる人
         vs
③刀剣乱舞には興味ないけど刀が好きな人

大体これな気がします。

例えば①の方達は「刀剣乱舞が及ぼした影響を知らないのか?刀剣業界は刀剣乱舞のお陰で盛り上がった」と言います。

しかし③の方達は「限定的な盛り上がり」と言います。

また、例えば①が「クラウドファンディングでも支援しているし、地域活性化にも貢献している」と言います。

それに対して③が「あまり関係ない」と言います。

そんな話の後③がごく少数の美術館での鑑賞マナーが悪い人の例を挙げるなど、議論がいろんな方向に飛び収集が付かなくなり、「これだから刀剣女子のせいで」などと最後は一括りにして炎上します。
(刀剣女子と言うワード+マナーを守っている多くの人を巻き込むため)

この意見の違いはまさしく立場の違いにより見ている範囲が違う為起こった事と思われます。



4.刀剣乱舞による影響や効果

まず、刀剣乱舞がもたらしたプラスの効果について整理します。
少し古いですが以下のサイトがまとめてあり分かりやすいです。

効果を分かりやすくする為、ここでは「最終的に誰の元にお金が落ちたか」を書いていきます。
以下の項目は上記サイトに掲載順です。

・刀剣書籍が重版            →出版社(にお金が入る)
・復元刀プロジェクト          →美術館やお寺、刀職
・燭台切光忠発見からの写し製作     →美術館、刀職
・山姥切国広展示で経済効果4億円越     →美術館、足利市の町全体
・審神者マンション登場         →企業
・ブルーレイ短刀付107万円に70名の申込  →企業、刀職


こう見ると唯一お金が落ちていないところがあります。
そう、「④刀を売る刀剣商、骨董商の人」です。

ここが③の人達が「限定的な盛り上がり」という1番の理由です。
いやいや、刀剣乱舞で刀が好きになって刀を買ってる人もSNSでは沢山見るし…という声が聞こえてきそうですね。
あくまでも正確なデータは存在しませんので、予想しかする事が出来ないのですが、これはある程度正確に予想できると思っています。


5.刀剣乱舞層のメインプレイヤーは10-30代女性

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2020/9/15公開のデータによる
(画像転載元:https://digital-shift.jp/flash_news/FN200915_7)

この層の平均年収(20代~30代)はというと、320-370万円だそうです。
(10代は学生なのでほぼ無し)

この中で自由に使えるお金は年間100万円位と思われます。
ですが、20-30代になると子育てでそちらにお金が掛かる人も出てきます。つまりそれもほぼ無くなります。
加えて日本のGDPはずっと停滞していますし、少子高齢化により社会保険料などはこれから上がりつづけると想定されます。
つまり自由に使えるお金は今後も更に下がり続けます。

刀は買うとすれば安くても15万円位はします。
傷が少ない刀を選ぶとすれば脇差でも40万円位は掛かります。
こんな事を考えると貴方の周りにいる刀を買っている人が多いという感覚は実はSNSによる幻想で全体の刀剣乱舞ユーザー数から見ればかなり少数(限定的)かもしれません。


6.日本美術刀剣保存協会の会員数について

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(画像転載元:https://www.touken.or.jp/)

次に日本美術刀剣保存協会(刀業界の中心的な存在)という団体の話です。
ここは毎月1回刀を手に持って鑑賞出来る機会などを用意してくれたり、刀の業界紙を配布、はたまた刀の鑑定審査なども行っています。
年会費ありの会員制度が設けてあり、刀をとても好きな人が加入しています。
そのため刀を実際に買う人との相関性はかなり高いと考えられます。
この会員数は令和2年3月末時点で4185人。(昨対比マイナス156人)
このようなペースで会員数が年々減り続けています。


7.昭和の刀剣バブル

次に、昭和の刀剣バブルについてです。
実は刀にもバブル時代がありました。
この時は「④刀を売る刀剣商、骨董商の人」の人達にお金が落ちていました。
どういう状況だったかというと…
まず刀の価格がどんどん上がるので、皆こぞって刀を買い漁りました。
買っていたのは当時40以上の男性(お金持ってる)層が中心です。
刀が好きだから、という理由よりも投資目的で買っていた方も多いようです。
結果的に刀剣バブルは崩壊し、この当時から価格は3分の1程に、酷いものだと10分の1位まで落ちた刀もあるそうです。(名刀はあまり変わらないそうですが)
この時の状況と今の刀剣ブームを比較すると状況が違うのが良くお分かり頂けると思います。


8.この3つの事から考えると

この3つの事から考えると、どうでしょう。
刀剣乱舞効果で刀は売れているのでしょうか?
言い換えれば「④刀を売る刀剣商、骨董商の人」にお金が落ちているのでしょうか?
少なくとも40代以上の男性層で刀に興味を持っている人はあまりいなかったり、日刀保の会員数が上がっていない状態で刀だけバンバン売れているとは考えづらいです。
そういう意味で私は「限定的な盛り上がり」と思います。

一つ可能性があるとすれば、いわゆる審神者マンションを建てた社長さんと、乱藤四郎を所有されている会社の社長さんが、ここ数年で相当数刀を買っていたという事実。
もし刀剣乱舞で盛り上がってたから買ったんだ、という事であれば刀剣乱舞による効果は絶大なものと言って良さそうです。
(このお2人は更に前から刀剣好きなので違うとは思いますが。)


9.因みに鬼滅の刃の効果は?

これも言わずもがなですが、現状は「限定的な盛り上がり」です。
上記と同じ理由です。
ただ鬼滅の場合は男女関係なく幅広い層が興味を持って見ています。
しかし、刀剣乱舞ほど刀にフォーカスされた話ではないですし(実際に存在する刀の話ではないので)、直接刀の需要に結びつく流れは今のところ見えていません。


10.終わりに

色々書きましたが、私は刀剣乱舞があって良かったと心から思います。
「④刀を売る刀剣商、骨董商の人」については刀剣乱舞の影響はあまりないかもしれませんが、美術館や地域、一部の刀職の方にとってはかなり救いの手になっているのは間違いないはずです。
そして、あと10年、20年後、今の審神者の方達が40、50になってお金に余裕が生まれた時、刀を買う時が来るかもしれません。
その可能性を生み出している事自体がとても凄い事だと思います。
少し前、今も50代以上の家庭では多いかもしれませんが、刀剣購入の最大のハードルは「奥さん」らしかったです。
でも今の審神者の方が奥さんであれば、むしろハードルが無くなります。
審神者の方をきっかけに周囲の人が更に刀に興味を持ったり理解を示してくれる人が増えると嬉しいです。


と言う事でたらたら4時間位書くのに時間がかかりましたが、何かを好きになるきっかけは何でも良いと思いますし、それぞれの楽しみ方で刀を守っていければ、それはとても良い事だと思います。
そして一人でも多く実際に刀を買ったり、刀鍛冶さんに作刀依頼される方が増えればその時が本当に刀業界全体が盛り上がる時なのかもしれません。
そのような流れを1人1人が作っていける未来が来ると良いですね^^

刀はどこで買うのか、いくら位なのか、どこで作ってもらえるのか分からない人も多いと思います。
以下の記事に一通りまとめていますので、気になる方はご覧ください。


最後に。
今回も何やら炎上していたようですが、該当記事を読んだところ誰かを卑下するような事実、内容の記載は見受けられませんでした。
「(12/16追記)刀剣女子と言うワードが出されるのが嫌な人がいるのは私も認識しています。
山登りが純粋に好きだった女性が一過性のブームで山登りが流行っているからといって全て一括りに「山ガール」とされると元から山登りが好きだった女性からするとモヤっとします。
そもそも性差を感じさせるワードが良くないのですが、これはメディアが生み出したネタにする為の一方通行の所業です。
そのワードをどう受け止めるかは読者側に委ねられています。
そして結局のところ皆が反応する事でpvが上がり喜ぶのは記事を書いたメディアです。」

結局のところ炎上と言うのは誰かの被害妄想から始まるのかもしれません。
本当に厄介なのは、言っていない、書いていない事を、読み手が自分の解釈で勝手に妄想、批判し投稿、記事を読まずその人の投稿だけを見た人が便乗、結果事実が湾曲される事だと思います。
直ぐ便乗せずに自分でしっかり確認する意識が大切なのかもしれませんね。

あと美術館で騒いだり後ろに待っている人がいるのになかなか譲らない人達、これはそもそも刀剣乱舞とかの問題ではなく、その人のマナーに問題があります。改めて下さい。


今回も読んで下さりありがとうございました!
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それでは皆様良き御刀ライフを~!

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↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)

「刀とくらす。」をコンセプトに刀を飾る展示ケースを製作販売してます。

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