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短編集『ゾティーク幻妖怪異譚』より『死体安置所の神』感想

 クラーク・アシュトン・スミスのダークファンタジー『ゾティーク幻妖怪異譚』より、三番目の短編『死体安置所の神』を読了しました。

 結論から言うとハッピーエンドなのですが、最後まで予断を許さない展開でした。

 主人公が妻とともにたどり着いた街では、死体は全て、死体を喰らう異様なる神に捧げられます。その神の名はモルディッギアン。

 主人公の妻は、時折、死人のように体が硬直する病に侵されており、死体と間違われてモルディッギアンの神殿に運ばれてしまいます。

 ここに冒涜的で邪悪な妖術使いが話に絡み、妻を救いにゆく主人公の運命に関わってきます。

 細部まで作り込まれた世界観は、まるで主人公の目を通して、自分もその場を見ているかのような気分にしてくれます。

 そこに住んでいる人々の息遣いさえ聞こえてくるような生々しさ、臨場感があります。

 妖術使いは、分かりやすい邪悪として描かれています。では、モルディッギアンと神官たちはどうでしょうか?

 主人公の目には、不気味で悍(おぞま)しいものに見えています。怪しげな真偽の定かではない噂も広がっています。

 しかし、モルディッギアンと仕える神官たちは、ある意味で善悪を超えた存在とも言えるのではないでしょうか。

 人間は往々にして自分に都合が良いものを善、都合が悪いものを道義的、倫理的にも悪とします。

 死は万人に平等に訪れ、避けることは出来ません。それは法則と言えます。同時に、死は人間に都合が悪いものです。

 では、死は悪なのでしょうか?

 そんな問い掛けをしているようにも感じられる物語でした。

 モルディッギアンは、法則であり、悪でもあり、善悪を超えた存在でもあるのでしょう。

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