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小松左京『神への長い道』感想

 小松左京の短編『神への長い道』の感想をお送りします。

 読んだ後に、視野が拡大したような、自分も登場人物たちのように宇宙の彼方を明視出来るかのような気分にさせてくれる名作だと思いました。

 いわゆるSFのセンス・オブ・ワンダーとは、まさにこのようなものだと感じさせられます。

 短編と言っていい中に、これだけのスケール感を詰め込んで、しかも読みやすく手堅くまとまっているのは見事としか言いようがありません。
 
 やはり科学考証がきちんとなされたハードなSFですが、さらに仏教やインド哲学的な要素も出てきます。

 それにしても、すでに何十年も昔にこのようなSFがいくつも書かれていたのなら、後に続く者は、さぞかし苦心したことでしょう。

 結局は現代の日本のSFの主流がまさにそうであるように、SF要素の軽量化、ライト化しか道はないと思わせられるのも無理はない気がします。

 平たく言うと、宇宙と人類の意識の進化がテーマです。同時に、本能的な性もラストで意味深く書かれます。

 主人公とエヴァという名の女性は、人類の進化に置き去りにされ、原始人のような存在となったのです。

 発展の止まった地球に宇宙船で戻る途中、主人公は、それでも猿なりの生き方を模索しようとしてエヴァと結ばれます。

 やがて生まれてくる子どもがどうなるのか、千六百年も経ってから戻る地球が果たしてどうなっているのか、それは伏せられたまま、物語は終わります。

 私の乏しい読書量の範囲で言えば、ハインライン、アシモフ、クラーク、ゼラズニイなどの名だたる面々に決して負けていない、素晴らしい精神的深みと宇宙的スケールで描かれた作品だと思うのです。

 しかし、小松左京の代表作とされる長編でも、日本国内の賞は取りましたが、ネビュラ賞やヒューゴー賞は取れていません。

 中国人作家の『三体』はアジア人初のヒューゴー賞を取り、日本でもSF好きの間では話題になりました。

 個人的には、おさおさ日本のSFが劣るとは思えないです。今、小松左京が生きていたなら、『三体』をどう思ったでしょうか。そんなことを思いました。

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