復讐の女神ネフィアル【裁きには代償が必要だ】第7作目『聖なる神殿の闇の間の奥』第16話

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 そこからアルトゥールはジュリアと別れて行動することにした。ジュリアは神殿にこの件を報告すると言った。

「せいぜい、もみ消されないようにしてくれ」

 例によって皮肉な物言いになる。ジュリアは何も答えなかった。あきれたようにため息をついて、

「では失礼します、あなた方も気をつけて」

 そう言い残してヘンダーランの屋敷の前から去っていった。

 ラモーナ子爵令嬢の従者は、両手首を後ろに回して縄で縛られていた。怪我はジュリアが癒やした後だった。足首も両方そろえて縛られている。動けないようにしてあるのだ。

 彼は黙って何も言わなかった。さすがにこれ以上の抵抗は無駄と悟ったようだ

 気を失ったラモーナも、ジュリアとアルトゥールの二人で馬車に乗せておいた。

「さて僕らは どうする? この二人のことも役人に言うべきかな」

 アルトゥールはリーシアンに尋ねてみた。

「放っておいていいだろう。こいつには、しばらく頭を冷やしてもらって、それから解放してやるさ。ま、一応は門の中に入れておいてやるか。お嬢さんは馬車の中だから大丈夫だろう。それより屋敷の中を調べよう。ジュリアが、神殿付きの衛士や他の神官を連れてくる前にな」

 ジュリアが連れてくるのには、きっと時間がかかる。アルトゥールはそう思った。まあとにかく今のジュリアン神殿は、事が起こってもさっさと動けるような状態ではないのである。

 そのような中にあって、ジュリアは大いに苦労することであろうが、そこまでは関知出来ることではない。

「そうだな、屋敷の中を調べてみよう。闇の月の神官のことも気になるんだ。本当にハイランが全て片付けてしまったのかどうか、それはまだ分からない」

「なぜか俺は、それに関して奴が嘘をつくとは思えない。ただ奴が気がついていないことが何かあるような気がする。見たところ、奴は実に高慢で自惚れているように見える。そういう自惚れっていうのは、油断と見落としを招くもんだ」

 アルトゥールはうなずいた。

「それじゃ中に入ろう」

 そう言ってさっさと先に進み、屋敷の出入り口 へと入って行った。

 最初に見た時と同じように 屋敷の中は 荒れ果てたままだった。ハイランが倒したというヘンダーラン大神官夫妻と召使い三人、それに闇の月の女神の神官の遺体を探して回った。

 それはすぐに見つかった。一階の客を迎える応接室にある、長椅子の上に座った形で並べられていた。

 ヘンダーラン夫妻と召使いが三人、それに闇の月の女神の神官が一人、卓をはさんで向かい合わせになった長椅子にそれぞれ座らされている。一方の長椅子には夫妻が、もう一方には召使いと闇の月の神官から。

 それらを服装だけで判断出来た。ヘンダーラン夫妻の外見はすでに知っていたし、召使いはそれらしい服装をしてるので、すぐに分かる。残る一人が闇の月の神官だろうと見て取れた。

 闇の月の神官と思しき男は、淡い灰色のローブを身につけていた。アルトゥールは彼に近寄る。そう、その神官は男だろうと思えたのだ。

 ローブを取り去り、その下の衣装を見た。闇の月を表す黒い三日月の形をした首飾りが首から下がっている。 やはり、そうだったか。一人でつぶやいた。

「なるほどな、じゃあハイランが言ったことは間違ってはいなかったわけだ。奴がヘンダーランと妻と闇の月の神官を倒した。そして奴のことを信じるなら、召使いは闇の月の神官にすでに殺されていたんだったな」

「なぜ召使いを殺したりしたんだろう? そんな必要があったのか」

「そんなことをする必要があるのか? まあ疑問だよな。この屋敷が荒れ果てているのも、闇の月の女神の神官のしわざなのか。それもはっきりとはしないな」

 アルトゥールは肩をすくめた。

「ハイランからもう少しくわしく話を聞き出しておくべきだったかもしれない。しかし、今となってはどうしようもない。だけど、これは特に根拠のない勘に過ぎないが、また再びハイランは僕の前に現れるだろうと思う」

 リーシアンはにやりと笑った。大きな戦斧の柄で、軽く自分の肩を叩(たた)く。

「確かに奴はきっとまた現れるだろう。 あいつは少なくともお前のことは、同じ女神を信じる者として認めてはいるんだ 。俺やジュリアに対する態度とは違う」

 アルトゥールは思わず首を横に振った。やっかいな事になった。そんな思いしかない。

「とにかく、これだけではまだよく分からない。 もっと他に何かあるか探してみよう」

 二人は並んで一階を探して回った。応接室の他は食堂と炊事場、渡り廊下でつながる離れに、召使いの部屋がある。探してみても何も目ぼしいものは見つからない。ほこりが積もっていて、もう何日も掃除されていないのは明白だった。

「何も見つからないな。それじゃあ二階へ行こうか」

「そういや、お前もヘンダーランを狙っていたんだろ? 誰がお前に依頼したんだ?」

 アルトゥールは薄く笑った。

「少なくとも、自分の罪を認められる人間に」

 そう言って、先に階段に向かった。

続く

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霧深い森を彷徨(さまよ)うかのような奥深いハイダークファンタジーです。 1ページあたりは2,000から4,000文字。 中・短編集です。

ただいま連載中。プロモーションムービーはこちらです。 https://youtu.be/m5nsuCQo1l8 主人公アルトゥールが仕え…

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